マウロがキャリアをスタートさせたのは1982年12月8日、イエーゾロのエノイテカ・カネーヴァ Enoiteca Canevaだった。昔の日本のガイドブックを見ると「カネーヴァのマウロ・ロレンツォン」と書かれていた時代もあったが、80年代からすでにその名はイタリアはもとより、遠く日本でも知られていたのだ。

オステ=亭主の本懐ここにありラ・マスカレータ

アル・マスカロンの店内にはマウロが常に身につけているボウタイのコレクションがずらりとディスプレイされている。
アル・マスカロンの店内にはマウロが常に身につけているボウタイのコレクションがずらりとディスプレイされている。

そのマウロがヴェネツィアに活動の場を移したのが2002年、「ラ・マスカレータ La Mscareta」のオーナーとなったのだ。実はマウロは、1994年の「ラ・マスカレータ」OPEN時にもワイン・コンサルティングとして関わっており「こうなるのも不思議な巡り合わせだった」と回想している。

ワイン酒場(バーカロ)が多いヴェネツィアにあっても「アル・マスカロン」は一目置かれる別格的存在だ。
ワイン酒場(バーカロ)が多いヴェネツィアにあっても「アル・マスカロン」は一目置かれる別格的存在だ。

現在はグラスワインでも最低24種類を日々揃え、可能かぎり「オステ」として自ら抜栓し、グラスにワインを注ぐ。現在ワインリストには約1000種類のワインが並ぶが、全てグラス一杯でも飲むことができるのも特筆すべき点だろう。特にSanpagneriaとヴェネツィア弁でかかれたシャンパンコーナーは50種類を揃え、昔からシャンパーニュと牡蠣をヴェネツィアで提案してきたマウロならではのセレクトだ。さらにいうならばコーヒーならば40種類、クラフトジン140種類、トニックウォーター25種類揃えているのもすごい。

サービス精神旺盛な店主マウロのパフォーマンスにも注目したい

ヴェネツィアで食べたいアサリのスパゲッティ。オリーブオイルたっぷりで乳化させるのがヴェネツィア風の食べ方。
ヴェネツィアで食べたいアサリのスパゲッティ。オリーブオイルたっぷりで乳化させるのがヴェネツィア風の食べ方。

この夜はProsecco DOC協会公式プロセッコ(メーカー、糖度などは極秘)飲みつつバッカラ・マンテカートやヒシコイワシの酢漬けなどの前菜をつまみ、イカスミのスパゲッティを食べ始めた頃に遅れてマウロが登場した。この日は左腕を痛めていたようで三角巾がわりに派手なストールで腕を吊り下げていた。蝶ネクタイとベスト、そして原色ファッションというのがマウロのスタイルだ(どこかジョルジョ・ピンキオーリに似ている)。

サービス精神旺盛なマウロはなんとプロセッコを口で抜栓!!一流のオステ兼エンターテイナーの面目躍如。

「本当はサベラシオンを披露したいところだが左腕を怪我していて右手しか使えない。だからこうしましょう」とマウロが見せてくれたのはなんとコルクを口に加えた歯による抜栓!!いあわせたゲスト一同思わず「おぉ」という歓声が上がったのだがマウロは見事泡を吹かせることもなく、見事静かにそして美しく抜栓すると、片手でプロセッコを注いでくれたのだ。

「オステ」の本領ここにあり。マウロの存在を見るだけでもこの店に来る価値がある。もちろん食事もそしてワインも、ヴェネツィア屈指の存在感を誇るだけに「ラ・マスカレータ」に寄らずしてヴェネツィアを味わいつくすことはできない。

エノイテカ・ラ・マスカレータ

この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。