最初にはっきりさせておきたい。日本ではジェントルマンとダンディはほぼ同義語として使われている。だが英語圏では、ふたつは違う意味の言葉として認識されている。「ジェントルマン」が男性の正統的理想像だとしたら、英語の「ダンディ」はエキセントリックな色男を指す。

元祖ダンディといえば、破滅的人生を送った耽美主義の文豪オスカー・ワイルドや詩人のジョージ・ゴードン・バイロンの名が挙がる。海外では「ジェントルマン」は褒め言葉だが「ダンディ」といわれると多くの男性は眉をひそめることがある。

紳士の正統を代表するダニエル・クレイグ

1968年、イングランド、チェシャー州生まれ。2006年シリーズ第21作『007カジノ・ロワイヤル』から6代目ボンド俳優に。ボンドを務めて5作目となる2021年公開予定『007ノー・タイム・トゥ・ダイ』で引退を発表。歴代俳優のなかで最も長くボンドを演じる。
1968年、イングランド、チェシャー州生まれ。2006年シリーズ第21作『007カジノ・ロワイヤル』から6代目ボンド俳優に。ボンドを務めて5作目となる2021年公開予定『007ノー・タイム・トゥ・ダイ』で引退を発表。歴代俳優のなかで最も長くボンドを演じる。

今も昔も全世界でだれもが認めるジェントルマンの代表といえばジェームズ・ボンドだろう。

しかし、ショーン・コネリーやロジャー・ムーアが演じた歴代ボンドとダニエル・クレイグが演じる現代のボンドには明確な違いがある。絶体絶命の窮地にあってもさらりとジョークを言ってのける不死身の過去のボンド像に比べ、クレイグ版ボンドは、傷つき、血を流し、スパイにもかかわらず敵側のヒロイン、ヴェスパーと恋に落ちたりする。まさに生身の現代のヒーローだ。

当初はクレイグの金髪で中肉中背といったルックスは、従来のボンドのイメージと異なるとして批判を浴びたが、原作のイメージに近いストイックなボンドを好演。2012年公開の『スカイフォール』ではシリーズ最高の興行収入を記録した。

自らも傷つき、誠実で人の痛みがわかる男、この点においてクレイグ版ボンドは現代におけるジェントルマン代表として人々に迎えられた。

男の色気溢れる究極の現代版ダンディ、ブラッド・ピット

₁₉₆₃年、アメリカ合衆国オクラホマ州生 まれ。俳優、映画プロデューサー。ゴール デングローブ賞、英国アカデミー賞助演 男優賞受賞、制作総指揮をした『ムーンラ イト』(₂₀₁₆年)でアカデミー賞作品賞を 受賞し、俳優、プロデューサー業の双方で 活躍。多くの恋愛遍歴でも知られている。
1963年、アメリカ合衆国オクラホマ州生 まれ。俳優、映画プロデューサー。ゴール デングローブ賞、英国アカデミー賞助演 男優賞受賞、制作総指揮をした『ムーンラ イト』(₂₀₁₆年)でアカデミー賞作品賞を 受賞し、俳優、プロデューサー業の双方で 活躍。多くの恋愛遍歴でも知られている。

対して、現代版ダンディといえば、果たしてだれになるか。意外に思われるかもしれないが、私はブラッド・ピットを挙げたいと思う。

「ロバート・レッドフォードの再来」といわれただけに、正統派ジェントルマンも演じているが、断然彼が輝くのは古くはガイ・リッチー監督の『スナッチ』でのアイリッシュ・トラベラーのボクサー役、最近ではアカデミー助演男優賞を受賞したクエンティン・タランティーノ監督作品『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の落ち目のテレビ俳優の専属スタントマン役と、ふだんは自分の内にある狂気を飼いならしているが、一度外に出ると手がつけられない、危険で魅力的なダンディを演じさせたら右に出るものはない。うらぶれた境遇でもそう見えないのが面目躍如たるところだ。

ジェントルマンとダンディ、これは双方異なる魅力だ。どちらの要素も併せ持つ男がいたら、まさに無敵だろう。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2021年春号より
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Getty Images
WRITING :
長谷川喜美(ジャーナリスト)
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