丈夫で、手のぬくもりを感じるもの。経年変化を楽しめ、使うことで完成されるもの。歴史に裏打ちされたもの。これらは私が服を選ぶ際の基準にしていることですが、そんな価値観にぴったりと合致するのが小鹿田焼でした。

食器洗いも楽しくなる経年変化の魅力

大分県日田市に江戸時代から伝わる伝統的な陶器で、重要無形文化財にも指定されています。窯元は一子相伝の家族経営によって継承されていて、現在ではわずかに残るのみ。失われゆくクラフツマンシップを堅持しているという点では、海外のスーツや靴などと同様の愛着を感じられるでしょう。

伝説の英国人陶芸家がテーマ

日本の民藝運動に大きな影響を与えた英国人陶芸家、バーナード・リーチをテーマに、小鹿田焼の坂本浩二窯へ別注した深皿。

小鹿田焼伝統の「飛び鉋」模様が魅力的

黄土色に飛び鉋模様が映える小壺。飴などを入れたり、カフリンクスなど小物を収納したりと、さまざまな用途で活用可能。

一輪挿しとして使っても粋な水差し

こちらもバーナード・リーチをテーマに坂本浩二窯へ別注した一品。本来は水差しだが、大岡氏は一輪挿しとして愛用しているそう。

小鹿田焼の装飾はとてもシンプル。派手な主張がないので、ほかの食器とコーディネートしやすいのも特徴ですが、より魅力を感じるのは使い込んでいく過程。経年変化により表面に貫入(模様のようなヒビ)が生まれてきたり、蛇の目(うつわを重ねて焼く際にできる輪のような模様)に油が染み込んで表情が変化していったりどんどん味が深まっていくのです。

手仕事ならではの温かみに癒される

放射状の模様は「打ち刷毛目」と呼ばれ、こちらも小鹿田焼の伝統的装飾。手仕事ならではの温かみある線が味わい深い。

小鹿田焼を知ってから、洗い物が本当に楽しみ。お気に入りの靴を磨いている感覚に近いでしょうか。この感覚、クラシックな服が好きな方ならよくわかっていただけるはずです。

幾何学的な装飾が美しい湯吞み

「飛び鉋」と呼ばれる縦線に、波状の模様を組み合わせた独特な装飾が目を惹く湯吞み。規則的な凹凸が手触りも心地いい。

約300年の伝統と、妥協なき手仕事でつくられる小鹿田焼。労力を考えると、この価格は割に合わないのではと感じることすらあります。だからこそ、職人さんの良心に応えて、大切に育てていきたくなるのです。

この記事の執筆者
TEXT :
MEN'S Precious編集部 
BY :
MEN'S Precious2020年秋号より
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
談 :
大岡靖治(ビームスF サービスマスター)