約150年にわたり大きな変化のない、いわば完成されたスタイル“スーツ”は、微妙なデザインと生地の差異によって進化をし続けている。現在のように、ジャケットとパンツで構成するツーピーススーツが一般化したのは、第二次世界大戦後、アメリカを中心とする服装合理化の流れにより、ヴェストを省略したからである。

本来、伝統的な男のスーツはジャケット、ヴェスト、パンツによるスリーピースで構成されているが、日本では三つぞろい、イタリアではアビト・コンプレート(完璧なるスーツ)と呼ばれる。伊達男たちのお洒落の歴史を振り返り、着こなしをひも解くと、正統的なスリーピースをツヤっぽく着こなしているのがわかる。歴代の名士や伊達男たちは、颯爽とスリーピースに身を包み、男の美学を体現した。そんなスタイルの代表が、名士や名優、芸術家たちである。

洒落者はみな、凜々しくスリーピースを身につける

フレッド・アステア

名ダンサーにしてハリウッドスターのフレッド・アステア
名ダンサーにしてハリウッドスターのフレッド・アステア

20世紀を代表するファッションリーダーのウィンザー公は、1930年代、ツイード素材のスリーピースを粋に着こなした。ウィンザー公のスタイルから影響を受けたのが、アメリカ人ながらも英国服に傾倒した、フレッド・アステア。名ダンサーにしてハリウッドスターのフレッド・アステアは、華麗なダンスに適したシルエットの太いパンツに、体にフィットした独自のラインを持つジャケットとヴェストを、スリーピースで仕立てた。

スティーヴ・マックイーン

『華麗なる賭け』で上品なスーツ姿も印象的だったスティーブ・マックイーン
『華麗なる賭け』で上品なスーツ姿も印象的だったスティーブ・マックイーン

名優スティーヴ・マックイーンは、映画のなかでしばしば、ダンディなスリーピーススタイルを披露。フォブチェーンをヴェストに通したスタイルは、鮮烈なエレガンスを放ち、今も決して色褪せていない。

Marcello Mastroianni

色気のある独自のスタイルを貫いたマルチェロ・マストロヤンニ
色気のある独自のスタイルを貫いたマルチェロ・マストロヤンニ

ローマの名仕立て服店に通いつめ、色気のある独自のスタイルを貫いた名優、マルチェロ・マストロヤンニのスリーピース姿も強い印象を残す。

Maurice Ravel

フランス人音楽家のモーリス・ラヴェル

代表作『ボレロ』を作曲したフランス人音楽家のモーリス・ラヴェルは、ダブルのヴェストが際立つスリーピーススーツを自宅でも愛用していたのである。まさにスリーピースなくして語れない、稀代の洒落者である。

以上、名士や名優、芸術家たちの完璧なスーツスタイルを紹介した。ダンディな男たちを象徴するスーツスタイルはいつだって時代の先端であり、非常に印象的なたたずまいで記憶の中に残っている。スーツは大人の男が着るべき、最高のアイテムであること往年ダンディたちが証明しているのだ。

この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク
PHOTO :
Getty Images