今では立派に見える紳士にも、未熟な時代はあった。多感な年頃の男たちは映画に登場する遠い国々の美女に恋をし、自分をさらなる高みに引き上げる糧とした。それは大人になった今も、永遠の憧れとして、胸の奥でくすぶり続けている。テレビの洋画劇場を片っ端から観まくり、男性向け情報誌のグラビアを目に焼き付ける思春期を過ごした昭和40年代生まれの筆者(紳士道は未だ修行中)が、往年の女優の印象的な写真と共に、淡い思い出を綴る。第2回目は、「ブレードランナー」でヒロインを演じたショーン・ヤングを取り上げる。

古典作品のビジュアルイメージを全編にまぶした「ブレードランナー」で、最も象徴的で美しいのが、このカット。髪を降ろすと、なぜかカーリーヘアになる。(c)PHOTO/aflo
古典作品のビジュアルイメージを全編にまぶした「ブレードランナー」で、最も象徴的で美しいのが、このカット。髪を降ろすと、なぜかカーリーヘアになる。(c)PHOTO/aflo

観るたびに発見がある「ブレードランナー」

南米古代文明のピラミッドを模した巨大なタイレル本社で、人造生物のフクロウと共に登場するレイチェル。ハリソン・フォード演じるデッカード捜査官から、レプリカントと人間を見極める嘘発見器、フォークト(ヴォイト)=カンプフ検査を受けるシーンは、言葉攻めのSMを想起させる。(c)PHOTO/aflo
南米古代文明のピラミッドを模した巨大なタイレル本社で、人造生物のフクロウと共に登場するレイチェル。ハリソン・フォード演じるデッカード捜査官から、レプリカントと人間を見極める嘘発見器、フォークト(ヴォイト)=カンプフ検査を受けるシーンは、言葉攻めのSMを想起させる。(c)PHOTO/aflo

 実に35年ぶりの続編となる「ブレードランナー2049」が公開され、にわかに1作目(1982年)への注目が集まっている。まだCGが十分に普及していなかった時代に、「エイリアン」(1977年)で名を広めたリドリー・スコット監督が、各界の精鋭の力を借りながら創意工夫でつくりあげた、2019年のロサンゼルスを舞台とする作品世界は、膨大な情報量から見直すたびに発見がある。また、ルトガー・ハウアー(戦闘・作業用人造人間役)やダリル・ハンナ(愛玩用人造人間役)、ブライオン・ジェームズ(いつも口を半分開けた人造人間役)、エドワード・ジェームズ・オルモス(奇妙な警官役)など、「キャラの立った」役者陣とダブルミーニングをもたせたセリフ回しもみごとだった。

検査という名の言葉攻めを受けたレイチェル

「追い詰められて」(1987年)でのショー・ヤング。身長175㎝の美しい肢体が拝める。(c)PHOTO/aflo
「追い詰められて」(1987年)でのショー・ヤング。身長175㎝の美しい肢体が拝める。(c)PHOTO/aflo

 1作目の「ブレードランナー」でヒロインのレイチェルを演じたのが、公開当時22歳だったショーン・ヤングだ。ケンタッキー州ルイビルからバレリーナを目指してニューヨークに渡り、モデル活動を経て映画の道に入った彼女にとって、初の大役だった。巨大企業「タイレル」の社長秘書にして、最新世代の人造人間=レプリカントであるレイチェルのヘアメイクやコスチュームは、「近未来のハードボイルド」を狙った監督の意向で、「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リーのような、古典的な淑女の印象を強く感じさせるものだった。

女優としてのピークは、レプリカントの寿命並みに短かった!

こちらも「追い詰められて」より、主演のケヴィン・コスナーと。この作品を最後に、女優活動は下り坂に…。(C)PHOTO/aflo
こちらも「追い詰められて」より、主演のケヴィン・コスナーと。この作品を最後に、女優活動は下り坂に…。(C)PHOTO/aflo

 若い時分には、「大人になったら出世して、レイチェルのような秘書と役員室で戯れる」妄想を抱いたものだが、2017年のTOKYOにおいて、明日をも知れぬ身でマスコミ業界の隅っこにいる今、そんな思い出も「雨の中の涙のように消えてしまった」(ルトガー・ハウアーのセリフにちなんだつもり)。
 それはともかく、圧倒的な美貌で「ブレードランナー」の象徴となったショーン・ヤングだが、レプリカントの短い寿命に匹敵するほど、女優としてのピークもあっという間だった。映画メディアから伝わってくる話では、彼女はいわゆる「プッツン女優」(80年代の表現!)だったらしく、数々の奇行が元でプロデューサーや監督に敬遠されてしまったのだとか。

レプリカントなのだから、あの頃のままでいい!

「ジキル博士はミス・ハイド」(1995年)より。美貌は健在だが、この作品を最後にハリウッド・メジャーから遠ざかった。(c)PHOTO/aflo
「ジキル博士はミス・ハイド」(1995年)より。美貌は健在だが、この作品を最後にハリウッド・メジャーから遠ざかった。(c)PHOTO/aflo

 2000年代に入ってからは、アメリカのテレビドラマでその姿を見かける程度ということもあり、ファンの心の中に浮かぶその姿は、若き日のまま。年をとることのないレプリカント=レイチェルは男たちの胸の中で、淑女の理想像であり続けるのだ…。

この記事の執筆者
TEXT :
櫻井 香 記者
2018.7.17 更新
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。