時間や労力をかけずに日常生活に取り入れられる「メンズ美容」を、現役ドクター・西嶌暁生氏が指南する連載がスタート。月に一度、そのシーズンに合う“旬”な情報を発信する。連載第2回は、賢いお酒の飲みかたについて。お酒を飲む機会が増えるこのシーズン、自分の体質に合う飲みかたや、賢く飲むためのルールをお伝えしよう。

アルコールの吸収は小腸、分解は肝臓で行われる

アルコールは胃で20%、小腸で80%が吸収され、肝臓に送られる。アルコールは肝臓のアルコール脱水素酵素(ADH)の働きでアセトアルデヒドという毒性物質になる。その後、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸となり、最終的には水と二酸化炭素となって排泄される。

お酒が強いか弱いかは、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって決まる! 

アルコールは肝臓のアルコール脱水素酵素(ADH)の働きで毒性物質になる

悪酔いや二日酔いは、アセトアルデヒドが速やかに分解されないために起きる。ALDHの一種であるALDH2をつくる遺伝子に欠損があるかどうかが、お酒に弱いか強いかを決めるのだ。

ALDH2が正常に働き、アセトアルデヒドを分解する能力が高い遺伝子がN型、アセトアルデヒドを分解できない欠損したALDH2を持つ遺伝子はD型だ。

そして、ヒトの遺伝子は両親から1つずつ受け継がれるので、NN型、ND型、DD型の3種類が存在する。

アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)は、NN型、ND型、DD型の3種類が存在する

まずは自分の体質を把握しよう!

まずは、アルコールに対する自分の体質を把握する必要がある。

NN型:アセトアルデヒドの分解能力がとても高い人(お酒に強い人)
ND型:ある程度お酒は飲めるけど、すぐに顔に出る人
DD型:アセトアルデヒドの分解能力がかなり低い人(お酒に弱い人)

日本人の場合、NN型50%、ND型40%、DD型10%と言われている。

また地域差もあり、北海道・東北・九州・沖縄などにNN型が多く、関東・中部・近畿などはD型をもつ人が多く分布している。

ちなみに、「練習してお酒を飲めるようになる」は間違いだ。仮に、お酒に強くなった自覚がある場合は、①先天的にNN型だったが、本人が気づいていなかった場合、もしくは②ND型でお酒が好きになった場合のいずれかである。

自分の遺伝子型を正確に知りたい人は、唾液や口腔粘膜の検査で調べることができるが、自分やよく一緒に飲む周りの人が何型かは、だいたい予想できるのではないだろうか。

型に合わせた飲み方は大切である。例えばND型の人が、NN型の人のペースに合わせて飲めば飲み過ぎや二日酔いになりやすいので、DD型やND型の人は空腹時に飲まない、度数の高い物は薄める、チェイサーと交互に飲む、などアセトアルデヒドをためない飲み方を意識すると良い。

お酒には5つの効用がある!

お酒には適度に飲めば、健康に貢献する5つの効用がある。

1.アルコールが体内に入ると、胃と腸の蠕動運動が始まり、その刺激により空腹感が増して、食欲が増進する。例えば、フランスでは、「アペリティフ」と呼ばれる食前に酒を飲む習慣がある。
2.血管が拡張されて血液の流れが良くなる。血行がよくなると体の疲労を回復してくれる。
3.脳の抑制が一時的にゆるみ、平常時よりも陽気になって元気になる。
4.万病のもとであるストレスが緩和される。事実、お酒が飲める人(NN型の人)が意にそぐわずに断酒すると、かえってストレスがたまり、腸内環境が悪化する例がある。
5.血流を促し動脈硬化などを予防するHDLコレステロールを増やして、血栓症を予防する。

身体に優しいお酒の種類は?

ポリフェノールを豊富に含む赤ワインや、グルタミンやアルギニンなどのアミノ酸を多く含む日本酒

お酒は大きく、醸造酒と蒸留酒に分けられる。醸造酒は穀物や果物を酵母でアルコール発酵させたもので基本的に糖質を含む。ビール、日本酒、ワインなどが醸造酒にあたる。

蒸留酒は醸造酒を蒸留して作った酒であり、糖質を含まない。焼酎、泡盛、ウイスキーなどが蒸留酒にあたる。
あくまで「飲みすぎない」という前提ではあるが、醸造酒と蒸留酒を比較すると、血糖値を上げにくい性質をもつ蒸留酒のほうが体によいといえるだろう。

醸造酒の中ではポリフェノールを豊富に含む赤ワインや、グルタミンやアルギニンなどのアミノ酸を多く含む日本酒もおすすめだ。

赤ワインに含まれるポリフェノールは、抗酸化作用を持っているうえ、ポリフェノールの一種である「プロシアニジン類」を摂取すると、腸内の善玉菌を増やす効果がある。さらに、腸内細菌の「アッカーマンシア菌」に働きかけ、腸管のバリア機能を向上させ、脂質代謝異常や糖尿病の予防にもなる。

また日本酒に含まれるアミノ酸は、保湿効果もあり、美肌につながることがある。

ワインも日本酒も、甘口は辛口よりも血糖値を上げやすいので注意が必要だ。

アルコールは体の水分を奪ってしまう

お酒を語るうえで避けられないのが水の話である。

人間の身体の6~7割は水でできている。摂取した水のほとんどは小腸から吸収されるため、小腸の腸内環境は重要だ。また、食事も含めて1日の水分摂取量の目安は体重1㎏あたり0.04リットルとされ、体重60kgの場合は2.4リットル、70kgの場合は2.8リットルである(実際に飲む水の量としては、1日1.5~2.0リットル)。

しかし、アルコールは血管拡張作用があるため、腎臓の血流量が増えて、尿を増やす作用がある。例えば、ビール1,000mlを飲むと、約1,200mlの尿が出るため、約200mlの水分を失うことになり、脱水が進行する。

脱水になると血液がドロドロになったり肌が乾燥したりと、健康と美容にとっても大敵である。お酒を飲んだ後は、コップ1~2杯の水を飲み、体に水分を補充することが必要だ。

大量のアルコールは腸内環境を悪化させる!

お酒を飲み過ぎると小腸粘膜の働きが弱くなり、脂肪や水分、ナトリウムなどが吸収されにくくなる。本来なら小腸で消化吸収されるべきものが吸収されずに大腸へ流れ込むので、お酒を飲んだ翌日は下痢をしやすくなる人も多い。おなかの弱い人が飲む時は脂質や糖質が少なく、消化によいものを注文するほうがよいだろう。

習慣的に大量のアルコールを飲んでいる人は、腸内フローラが乱れ、腸内環境が悪化しやすく、免疫力の低下を招きやすい。また、アセトアルデヒドには発がん性があり、大腸癌のリスクも高くなる。

昨今、過剰なアルコールは腸内環境を悪化させ、肌トラブルにもつながることがわかってきた。過剰飲酒は避けたいものだ。

お酒を美味しく飲むための水のルール

飲み会でお酒を飲んでも、悪酔いや二日酔いをしないように、楽しくお酒をのむコツは水だ!以下のポイントを押さえて、楽しくダンディにお酒を嗜んでいただきたい。

楽しくお酒をのむためには水が欠かせない。

1.まず、お酒を飲む前にコップ一杯の水を飲む。
2.水を飲んだあとに、お酒を飲み始める。
3.お酒とチェイサーを一緒に少しずつ飲む。
4.お酒をおかわりするときは、水も一緒におかわりをする。
5.寝る前にコップ1〜2杯の水を飲む。

チェイサーに適した水の種類は?

水と言っても様々な種類がある。水は大きく硬水と軟水に分けられる。硬水はミネラル(マグネシウムとカルシウム)の含有率が高く、海外に多い。一方、軟水はミネラルの含有率が低く、日本で採取されるものに多い。
一般的に、カルシウムは蠕動運動を活発にして、免疫力の活性化や栄養素や水分の吸収促進に働き、マグネシウムは便を柔らかくすることで排便機能が高まるため、硬水の方が腸には良いとされている。

ワインなど硬水を使った洋酒のチェイサーには硬水を、日本酒など軟水を使ったお酒のチェイサーには軟水を合わせると、水同士の相性がよく美味しく飲める。

これは食事にも当てはまり、例えば硬水で作られた食事には洋酒と硬水を合わせるとよい。

自分でチェイサー用に水を購入する際は、天然のミネラルが補給できる「ナチュラルミネラルウォーター」と表記されている物を選ぼう。アルカリ性のものならなおよし。飲酒によっても活性酸素は発生するが、アルカリ性の水は活性酸素を抑える還元力を持っているのだ。

水道水は塩素が含まれており、水の中では塩酸と次亜塩素酸として溶けており、弱い酸性である。酸性の水は殺菌作用があり、腸内細菌にとってはあまりよろしくない。ミネラルウォーターで水分補給することが望ましい。

糖質ゼロやカロリーオフの実態

どうしても、“安くて手軽に酔える”ことから、コンビニの缶チューハイを愛飲している人は多い。

事実、私も以前はよく飲んでおり、購入する際は、決まって「糖質ゼロ」を選択していたのだが、店で飲むよりも悪酔いするし、太りにくくなったと実感することもなかった。

「糖質ゼロ」の場合、カロリーのない人工甘味料などを使用している。人工甘味料は脳の満足度を狂わせ、「もっと欲しい」という欲求を助長させるという落とし穴があったのだ。人工甘味料には、味覚や脳の反応を鈍らせ、摂取量が積み重なると認知症につながる可能性もあるので気をつけたい。

また、国が定めている「食品表示基準」では、100mlの飲み物については、5キロカロリーまでは「カロリーゼロ」と表示でき、20キロカロリーまでは「カロリーオフ」「低カロリー」「カロリーライト」などと表示できる。

結局、たくさん飲めば、カロリー摂取が増え、肥満につながってしまう。

そして、やはりアルコールは適量の摂取が何よりも大切だ。

NN型(お酒の強い人)のアルコールの上限は100gまで(ビール大瓶2本、日本酒2合)、ND型(お酒がほどほど飲める人)はビール中瓶1本、日本酒1合程度である。

たまに、はめを外して飲みたい場合は、前述のとおり、「お酒の種類」「お酒と水のルール」「チェイサー(水)の種類」を考えて飲めば、悪酔いや二日酔いをしにくくなるだろう。

西嶌暁生(にしじま あきお)さん
医学博士、形成外科専門医
筑波大学大学院卒業。2児の父。『恵比寿形成外科・美容クリニック』のメディカル・ディレクターおよびメンズ美容医療の担当医。形成外科・美容医療の専門医として、10年以上にわたり肌のダメージに向き合い、肌細胞の再生(cell repair)をキーワードにアンチエイジングに取り組む。メンズ美容においては、男性特有の悩みや肌の特徴を踏まえ、自身の細胞を最大限に活性化するため、内・外・心からのアプローチを提唱する。
この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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PHOTO :
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EDIT&WRITING :
新田晃代