「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」と題された本展では、イヴ・ガストゥ氏が生涯をかけて集めた古代から現代に至るまでの膨大な指輪コレクションの中から、息を呑むほどに美しく、歴史的にも貴重な逸品を紹介。ギャラリストであり世界的なアンティークディーラーとして知られるイヴ・ガストゥ氏は、1980年代半ばにパリのボナパルト通りに構えた自身のギャラリーにおいて、1940年代〜70年代のフランスやイタリアの家具と、ソットサス、倉俣史郎などの80年代のデザインを象徴する作品、さらにスタジオ アルキミアに代表される当時のコンテンポラリーデザインの先端を行く作品を並列に展開した先駆的な存在であった。

司教の指輪
司教の指輪/Photo:Benjamin Chelly

また、ガストゥ氏は30年以上に渡り、トレジャーハンターとして世界各地を廻りながら収集してきたメンズリングを多数所有していたが、その稀有なコレクションは、2018年にパリの『レコール』で展示されるまで、一切秘密にされていたという。それらが約3年ぶりに一般公開される本展は、ディーラーとしての側面が際立っていたために、これまでほとんど知られることのなかったガストゥ氏のコレクターとしての一面を明らかにするものであり、2020年に彼が逝去したことで中断された最後の遺言もしくは、究極のクリエイションを披露する場でもある。

時代や制作背景などのストーリー性に富んだ、息を呑むほどに美しいリング

オルゴールの指輪
オルゴールの指輪/Photo:Benjamin Chelly
ヴェネツィア元首の指輪
ヴェネツィア元首の指輪/Photo:Benjamin Chelly

400点にも及ぶコレクションが一堂に会す本展では、17世紀のヴェネツィア共和国のドージェ(元首)がはめていたリングを始め、1970年代のアメリカのバイカーリングや古代エジプトのリングに19世紀の“メメント・モリ”スカルリング、さらに、18世紀のエナメルリングから、現代アーティストが手掛けたリングなどを一挙展示。中には、薔薇をあしらった棺を模したゴシックな趣のリングや、19世紀後半に作られたオルゴールを組み込み、実際に音が鳴らせるリングなど、ユニークな造形に職人技術が息衝いた希少なアイテムも並ぶ。

死を昇華させる棺の指輪
死を昇華させる棺の指輪/Photo:Benjamin Chelly

すべてにストーリー性を秘めた圧巻のラインナップは、子供の誕生や愛の誓いといったガストゥ氏の遍歴や情愛に満ちた人生の断片を映し出すものであり、パーソナルな告白が無限に続く自叙伝のようでもある。

また、そのめくるめく美しき意匠と卓越した技巧の蓄積からは、ガストゥ氏が美や生命に対して抱いた、飽くことのない欲求を垣間見ることができる。

英国の哀悼の指輪
英国の哀悼の指輪/Photo:Benjamin Chelly

今回のエキシビションは、ジュエリーを女性的なものと結びつけて考えることがまだまだ一般的である現代の風潮や従来のジェンダー規範に対し、メンズ リングに特化しているという点で前例がないもので、そのコレクションはこれまで『レコール』以外で一般に公開されたことがないため、貴重な機会となるはずだ。鑑賞者は、エキシビジョンを彩る膨大なコレクションを通して、ガストゥ氏の死によって中断されてしまった彼の飽くなき探求を継続し、彼自身が高く掲げたであろう夢を追い求め、その生涯を追体験することも可能だ。是非、その果てなき夢の続きを、このエキシビションで体感してみてはいかがだろう。

エキシビション概要

メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション
メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション

「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」
会期/2022年1月14日(金)〜3月13日(日)会期中無休、予約不要
会館時間/10:00〜19:00
会場/21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
住所/東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内

オンライントーク

「メンズリング イヴ・ガストゥ コレクション」
会期/2022年1月27日(木)20:00〜21:00

エキシビションの詳細について

レコール事務局

TEL:0120-50-2895(平日11:00〜19:00)

※新型コロナウイルスの影響により一部情報が変更となる可能性があります。最新情報は公式HPなどでご確認ください。 

この記事の執筆者
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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WRITING :
佐藤哲也