家で過ごす時間が長くなり、住まうこと、暮らすことへの関心がこれまで以上に高まっています。

そこで、インテリアや家具だけでなく、どう住むか、どう暮らすかといった「生き方そのもの」と連動した「家」のあり方について考えてみたい。雑誌『Precious』2月号では、そんな想いから、6人の方に「理想の家と暮らし」についておうかがいしました。

今回はフードアートクリエーター&スタイリスト 袴田尚弥さんのお住まいをご紹介します。

袴田 尚弥さん
フードアートクリエーター&スタイリスト
(はかまた なおみ)自動車メーカーのカラーデザイナーとして従事後、アメリカ・カリフォルニアへ。デザートを中心に料理を習得、帰国後は料理研究家・フードスタイリストとして雑誌や広告で活躍。オリーブオイルソムリエとしても活動中。

「毎日眺めていても飽きることのない、海と夕日。最高に幸せな気分で心身をリセットできます」

アメリカ・カリフォルニアで習ったシンプルで美しいお菓子を中心に料理教室を主宰することでキャリアをスタートさせ、デザイナー出身ならではのセンスと洗練されたスタイリングが話題の袴田尚弥さん。

料理研究家・フードスタイリスト&コーディネーターと多彩に活躍しながら、最近では、自然の恵みを食とアートに落とし込む「フードアート」クリエイターとしても活動しています。

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白とグレーのグラデーションで統一されたリビング・ダイニング。明るいブラウンの革張りバタフライチェアがアクセントに。「私にとってのリラックスチェア。お茶を片手に、ここに座ってのんびり夕焼けを眺めます」。モノクロの大きな作品は、メレンゲと竹炭を使った、袴田さんのフードアート。

豊かな自然の中で、おおらかに過ごしたカリフォルニアの家のような空間で作品をつくりたいと、ずっと物件を探していたといいます。

「明るくて広くて開放的な空間は、笑顔と心のゆとりにつながると思っています。気候的にも、神奈川県の大磯や小田原、葉山などの海辺で物件を探しているときに出合ったのが、この七里ガ浜の家。目の前に広がる海と江の島。

毎日、海や空の色と表情が変わりますが、とりわけ夕日が海に沈む姿は雄大で、飽きることがありません。この家を建てた方は、サンフランシスコが大好きだったそうで、カリフォルニアで暮らした家を想起させるインテリアや内装、間取り、外観など、まさしく理想! 立地も素晴らしく、即、アトリエとして契約しました」

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庭からの眺め。江の島を一望。
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目の前に広がる海にゆっくりと沈む美しい夕日に魅せられて。

とはいえ、築40年、数年間だれも住んでいなかった家は、あらゆる場所に手入れが必要。持ち主が大切にしていたタイルや照明、扉などは塗ったり張り替えたりしてできるだけ残す一方で、床は全面カーペットに。

「こだわりのイメージカラーもそのまま引き継ぎました。西海岸特有のからりとした明るさとシンプルな色合いは私も好きで。

特に思い入れがあるという庭の芝生は、夫が労力をかけて鮮やかに再生させました。ここにお気に入りの椅子を置いて、海風を感じながらきらきら輝く海を眺める時間は最高に幸せ。心身ともにリセットされるんです」

「暮らすための家と違って、アトリエはあえて生活感のないシンプルな色とインテリアで統一。オンとオフが切り替えられます」

七里ガ浜のアトリエにほど近い湘南エリアにある自宅は、低層階のヴィンテージマンション。仕事がある日や週末はアトリエで過ごす2拠点暮らし。

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庭へ続く通路のタイルも前の持ち主のこだわり。
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2階の寝室。たっぷりある収納の扉はすべて袴田さん自ら色を選び、ペンキで塗り直した。
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玄関を入るとすぐ目の前に広々としたリビング・ダイニングが。開放的な吹き抜けも特徴的。間取りや内装、照明などもあえてそのまま生かしてリフォーム。

「思い立ったら即行き来できる距離感はストレスなく快適です。仕事柄多くの人が出入りするため、アトリエがあると本当に便利。突然の来客にも対応でき、キッチンも広いので撮影もスムーズ。

都内から訪れてくださるゲストの方も、目の前が海というロケーションに、ちょっとした小旅行気分を味わっていただけるようで『つい長居してしまう…』などと言われるとうれしくて」

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あんこやよもぎ、竹炭、抹茶を使って苔むした石を和菓子で表現。遊び心溢れる独創的な袴田さんのフードアートは今、注目の的。
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デザート時にテーブルに出すクリストフルの卵形のカトラリーセット。
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話題となった、美しいビジュアルの袴田さんの著書『果物と野菜のゼリー 果汁、果肉を詰め込んで。』。
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洗面所のレトロな柄タイルや大理石の台も昔のまま。
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取材後に、手早く用意してくださったアートのように美しいランチ。鮮やかな黄色のスープはバターナッツかぼちゃ。

なにより、光や風、波の音を肌で感じることで心身が「幸せ!」と叫んでいるような気がする、と袴田さん。

「暮らすための自宅と違って、アトリエはあえて生活感のないシンプルな色とインテリアに統一。すっきりと余計なものがないため、集中力も高まって、アイディアを練るには最高の場所です。

異なるふたつの拠点をもつことで、オンとオフがしっかり切り替えられるうえ、オケージョンに応じて使い分けられる今のライフスタイルは、理想の暮らしに近いと感じています」

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寝室からも江の島がくっきり。
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チョコレートと抹茶を使ったグラフィカルな袴田さんのフードアートは京都の老舗抹茶ブランドのパッケージに採用された。
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キッチンへと続く丸い扉も前持ち主のこだわり。
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新鮮な野菜は通称「レンバイ」と呼ばれる鎌倉市農協連即売所で。キッチンの大きな窓の先にも海。

袴田さんのHouse DATA

●間取り…3LDK
●家族構成…ふたり
●住んで何年?…3年目

PHOTO :
川上輝明
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)