Something Preciousを日々探している秋山都さん。今回はふらりと青森県・弘前市に旅しました。

青森県・弘前の地酒と郷土料理を気軽に、だけどディープに

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青森の美酒を、市場で仕入れたつまみとともに。

「飲みに行きませんか」と、最近よく一緒に仕事をするフォトグラファーである長谷川潤さん(あの潤ちゃんではないです。同姓同名の男性)が誘ってくれました。「ええ、ぜひ!」と気軽に応えましたが、行先が弘前と聞いて目が点に。東京のダウンタウンに暮らす私にとっては、浅草や上野、銀座は馴染みのある街ですが、渋谷や中目黒と言うだけでちょっと億劫になってしまう距離感。そこに弘前とは……。

それでも「行こう!」となったのは、弘前が私にとって特別な町だから。実は私は4歳から6歳までのほぼ2年間を弘前に暮らし、彼の地の幼稚園~小学校に通っていました。それまで東京・世田谷で生まれ、暮らしていた私にとって、弘前の暮らしは夢のような日々。まずは冬の体育が校庭でスキーなことにびっくりしたし、ハタハタやブリコ(ハタハタの魚卵)、ミズ(山菜の一種)など見たことのない食材や、真っ赤なリンゴが実る秋、寒い冬の果てに一斉に花が咲きだす春……こどもの目にも何もかもが新しく、イキイキと見えた日々でした。

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青森県弘前市は弘前藩の城下町として発展。リンゴの産地としても有名です。

あの光景をもう一度目にしたい、と思ったのと、何より「弘前は酒場がサイコーなんですよ」というハセジュンこと長谷川潤氏の酔眼(この時もう飲んでたんだっけな?)に誘われ、いつになくフットワーク軽くキメたのでした、弘前飲み。これがもう、ほんとにサイコーだった。

今回の旅程は1泊。つまり一度しかない夜をどう使うかが鍵となります。弘前が大好きでしばしば「飲みに」来てるというハセジュンのアテンドで、まずは「虹のマート」へ酒肴を仕入れにきました。昭和31年に創設されたという、食料品や日用品の店舗が連なる市場は、いまならショッピングモールというのでしょうか。鮮魚、野菜、お惣菜、パンやスイーツ……空腹も手伝い、目移りします。

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弘前の胃袋とでもいうべき「虹のマート」。
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「イガメンチ」はゲソなど余った部位を叩いて、野菜と混ぜて揚げた郷土料理。

「やっぱりイガメンチでしょ」とハセジュン。最近、青森の郷土食として有名になったイガメンチは、イカのミンチ肉を揚げた、つまりはイカのメンチカツ。イカメンチがなまって「イガメンチ」になったというわけ。

「それから切込(きりこみ)ね」。ニシンを米麹に漬け込み、発酵させた塩辛風の保存食。同じように生魚を米と米麹に漬けこんだ「飯ずし(いずし)」は私の幼少時からの大好物でした。他に「さもだし(ならたけ)」の塩辛も買って、準備万端。「お酒はどこで?」とハセジュンを見やれば、すでに出口へ向かっていました。あれ、ここで飲むんじゃないの?

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ニシンを米麹に漬けこんだ「切込」も郷土料理のひとつ。
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これが「さもだし」。きのこが塩辛になるんですね。トロトロで旨味が濃い。

なんと「虹のマート」は飲酒が禁止なんですって。がっくり……落とした肩をそっと押してくれたのはもうひとりの同行者である青森県庁のトヨカワさん。「大丈夫、すぐに飲めるところがありますから」と連れていってくれたのは「加藤酒店」。なんか私、急患みたいな扱いでしたけど(笑)。でもまた、これが酒飲みにとってはパラダイスのような場所なのでありました。

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「加藤酒店」は1965年より酒販業を始め、2020年冬に移転してリニューアル。

店に着きますと、すでに外に先客がいて、私たちを見てニヤリ。「今日はね、『豊盃』のしぼりたて生酒が美味いよ」と聞いてもないのに教えてくれました。ご同輩、情報をどうもありがとう。「加藤酒店」は青森県産の日本酒やクラフトビールのほか、全国各地の地酒を扱う酒販店でありながら角打ちもできる、ありがた~いお店なのでした。

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専用コインで量り売りしてくれる自動サーバー。ウイルス対策としても安全。
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漁業用の浮玉(うきだま)が発祥という「津軽びいどろ」はあざやかな色彩が特徴。青森県の伝統工芸品でもある。

専用コインを入れて量り売りしてくれるサーバーは常時6種類を都度入れ替え。「男山」「豊杯」「華一風(はないっぷう)」……。「にいだしぜんしゅ」など有名どころもありましたが、ここは青森県産で攻めるでしょ。3銘柄を1合ずつ買い、カラフルな「津軽びいどろ」の酒杯でいただきます。

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「男山クラシック」「華一風 純米大吟醸」「豊盃 純米吟醸(豊盃米)」に「虹のマート」で購入したつまみをもちこんで。うっしっし。

青森の地酒は最近人気の低アルコール酒や、華やかな淡麗タイプと趣を異にし、全体に重心が低くて「ズン」とくる感じがします。塩気の強い「切込」と合わせれば、く~。意味もなくおでこをぴしゃりと叩いたりして。「む~」とか、「うま」とか、あまり意味を成さない音声を発しつつ、3合をあっという間に飲んでしまいました。いいアペロになりました。

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居酒屋「土紋」。市街地から少し離れていますが、断然行く価値アリです。

さて、加藤酒店を後にした我々が向かったのは、今回のゴールでもある居酒屋「土紋」。創業してまもなく40年になるという風格を感じさせる店内にはねぷた(弘前では“ねぶた”ではなく“ねぷた”です)の凧がかけられ、旅情も満点。郷土料理の「イガメンチ」や、名物「たらたま」をめがけて全国から吞兵衛がやってくる、聖地のような居酒屋なのでした。

店主の工藤清隆さん、賀津子さんご夫妻を父母と仰ぎ、慕っているハセジュンによりますと、ここで絶対食べなくてはいけないのはタラの干物を卵黄で和えた「たらたま」と、イカの肝の塩辛だとか。そこに私が食べたい「スモークウインナー」と「とんぶり山かけ」を加えたら、もうこれはフルコースではありませんか。お酒は弘前産の「豊盃」一択と、〆はやはり青森名物「すじこのおにぎり」でキマリです。

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「土紋」のお酒は弘前に酒蔵を構える三浦酒造のものだけ。その代表銘柄が「豊盃」。
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手前が、青森県産の豚を使用している「石川さん家のスモークウインナー」。奥が「たらたま」。
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問答なしに美味い「すじこのおにぎり」。

大満足の「土紋」で弘前飲みも大団円と思いきや、この後はUNO大会へとなだれ込み、夜半まで飲み続けたのでした。ここまで飲めれば1泊でも充分楽しめたと言えるでしょう。弘前飲みに悔いなし! というか、春になったらまたすぐ行きます!

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青森県はガードレールもリンゴモチーフでかわいい。

今回の記事は新型コロナウイルスの新規感染者が減少していた20年12月に出かけた旅の模様です。1日も早いコロナ収束を祈りつつ、また青森県へ旅できることを楽しみにしています。

【今回の酒場ホッピング】

「虹のマート」でつまみを調達

  •  
  • 「加藤酒店」で角打ち

  • 加藤酒店
    住所/青森県弘前市西茂森1-2-1
    TEL:0172-32-9346
  • 営業時間/9:00~18:30
    不定休

  • 「土紋」で〆

  • 土紋
    住所/青森県弘前市代官町99
    TEL:0172-36-3059
  • 営業時間/17:30~23:00(L.O. 22:00)
    日曜・祝日休
    ※予約したほうがいいです。私たちはかなりたくさん飲んで食べて、ひとり6,000円くらい。普通は5,000円くらいでおさまると思います。

※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。

この記事の執筆者
女性ファッション誌や富裕層向けライフスタイル誌、グルメマガジンの編集長を歴任後、アマゾンジャパンを経て独立。得意なジャンルに食、酒、旅、ファッション、犬と馬。
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PHOTO :
長谷川 潤
COOPERATION :
青森県
WRITING :
秋山 都