ブランディングディレクターとして活躍中の行方ひさこさんに、日本各地で出会った趣のある品や、その作り手たちをご紹介いただく連載企画「行方ひさこの合縁奇縁」。今回は第7回目。佐賀県ならではの「食材」と「器」を贅沢に盛り込んだガストロノミーイベント「USEUM SAGA(ユージアム サガ)」をご紹介します。

「佐賀」×「器」×「食」が織りなす夢のガストロノミーイベント

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2022年「USEUM SAGA」の会場となった「松の井」。

佐賀県は、2015年には有田でプレミアムな野外レストランイベント「Dining Out」が、2016年には有田焼誕生400年を記念し、県内外のトップシェフが一同に集う「世界料理学会 in ARITA」が開催されました。

そして、残念ながらコロナによりweb開催になってしまいましたが、2020年には今年で10年目を迎えた「アジアベストレストラン50」の会場を誘致するなど、佐賀県は文化度が高く、ガストロノミーへの取り組みが深い都市として知名度が上がってきています。何より、その熱意が人々を惹きつけているように感じるのです。

有田焼や唐津焼をはじめとした日本を代表する多くの焼き物文化が育ち、豊かな海と山の両方からの食材の恩恵を十分に受けている佐賀県。今回は、そんな佐賀県の取り組みの1つでもある「USEUM SAGA」をご紹介します。

ガストロノミーイベント「USEUM SAGA」とは

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県内、県外2つの若いチームが1つになって創り上げる新しいローカル食体験。

佐賀県は、「食材」と「器」と「料理人」を組み合わせ、新しい価値を創造するべく「サガマリアージュ」プロジェクトに取り組んでいます。県内の料理人と食材、器の作り手たちが知識や技術、感性などを共有する研究会「サガマリアージュラボ」を創設し、日々スキルアップのために腕を磨いています。

また、次世代の料理人育成プログラムでもある「アカデミー」では、料理人を志す高校生や専門学生を対象に食のプロフェッショナルによる特別講座や、著名レストランなどへの研修支援を実施しています。

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2021年の「USEUM SAGA」より。窯元からロクロを借り、その上に器を乗せてソースをひき、盛り付けた一皿。

そして、この活動における経験をアウトプットしていく場所が、ガストロノミーイベント「USEUM SAGA」です。県内の有望な料理人とそのチームが、県外の実力のあるシェフや料理関係者と一緒に1つのものを作り上げる機会を作ることで、佐賀県ならではの「食材」と「器」を贅沢に盛り込みながら、アイデンティティを醸していくような興味深い取り組みです。県内若手のスキルアップや経験値を上げる目的とした取り組み、という面もあります。

「MUSEUM」=美術館に収蔵されているような器を「USE」=使って行われるイベント。錚々たる窯元にこのイベントのために直々に焼いてもらった器から、現代作家、そして国宝級の器まで、佐賀の食材をふんだんに使った料理ごとに合わせていくという夢のようなガストロノミーイベントなのです。

3年ぶりの開催は、熱烈なアプローチで叶った若きフレンチシェフ2人の共演

昨年7月3日、7月4日の2日間で開催された3年ぶりとなった「USEUM SAGA」は、東京からミシュランで1つ星を7年連続で獲得しているabysseの目黒浩太郎シェフを招き、有田のarita huis 増永琉聖シェフとのコラボレーションが実現しました。目黒シェフ率いるチームabysseが参加に至ったのは、増永シェフたっての希望だったそうです。

コラボレーションイベントが決定してから何度も打ち合わせを重ね、時間のない中で、連日メールでもコミュニケーションも欠かさなかったという2人のシェフ。2人で話し合いながら、さまざまな佐賀県の食材の中から使いたいものをセレクトし、それぞれが一皿のメニューを考え、コースに仕立てていきました。

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増永シェフ作「竹崎蟹・唐津レモン」は人間国宝 井上萬二の器で。
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目黒シェフの1皿「夏クエ・実山椒・花山椒」は14代中里太郎右衛門の器で提供された。

そして、イベントのためだけに考案したメニューを選ばれし器で堪能する、特別な時間が見事に作り上げられたのです。オープンキッチンからは、絶えず若いスタッフたちの真剣さがダイレクトに伝わってくる熱い時間でした。

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abysse 目黒浩太郎シェフ(左)とarita huis 増永琉聖シェフ(右)

2022年は和の料理人と実力派ソムリエで新しい食体験を

今年の「USEUM SAGA」は、お茶の世界で親しまれ、用の美を備える唐津焼が生まれた唐津での開催。唐津は玄界灘に臨む城下町でもあり、古代より大陸との玄関口として栄え、「唐津くんち」をはじめとする多彩な文化が育まれてきた文化度の高い町です。

明治28年創業の老舗料理旅館 松の井にて、若き森次庸介料理長と、多方面で活躍している日本を代表するソムリエの1人、大越基裕ソムリエとの共演という贅沢な共演です。

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なかなか手に入らないようなプレミアムワインから県内の日本酒まで、枠にとらわれない斬新なペアリング。

森次料理長は、唐津焼を始めとして器への造形が深いことでも知られていますが、昨年から県内の生産者を訪ねるなど「サガマリアージュ」の活動に参加し、そこで培った知識や技術を今回の「USEUM SAGA」で存分に発揮してくれました。

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筍の天ぷらは12代中里太郎右衛門のお皿で。ペアリングは、大越さんでもなかなか手に入らないという函館のワイナリー農楽蔵(のらくら)のシャルドネ。繊細な筍の味を柔らかく活かした、この日のベストペアリング!

ロジカルなペアリングに定評のある大越ソムリエは、ワインに限らず、日本酒や焼酎、お茶まで幅広く知識のある方です。アルコールペアリングもさる事ながら、ノンアルコールペアリングはスパイスを漬け込んだ烏龍茶や、ライスミルクを使った自家製ジンジャービアーなど、他ではなかなかいただけないような珍しいドリンクが組み込まれており、それが料理の新たな魅力や楽しみを引き出すものばかりでした。

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土鍋を得意とする有田の安楽窯に焼いてもらった耐熱の器には白美茸と白味魚の鍋。ペアリングは、創業145年を迎えた佐賀の老舗、天山酒造の「七田」。
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井上萬二窯の白磁には、アスパラガスの白和え。2020年に復活した佐賀の光栄菊酒造の「アナスタシア・グリーン」とのペアリングは清涼感が冴え渡った。

これからのローカルの醸し方

佐賀の持つ可能性は、測れないほど未知数です。このイベントに関わった全ての人が、そう思ったことでしょう。2年連続でこの素晴らしいイベントに参加させていただき、単なる美食体験にとどまらない可能性の大きさを感じました。

自分達のアイデンティティをしっかりと理解し、それを最大限に活かし、育てていく佐賀県の取り組みは、日本中のローカルを盛り上げる仕事に携わる人々にとって、ロールモデルとなるものだと、そう確信しました。

この取り組みは、まだ始まったばかり。今期もまだ開催の予定があるとのことですので、今後の展開を楽しみにするだけでなく、参加して、一緒に体験していきたいと思わせてくれる素晴らしいイベントです。ぜひ、注目していただけたら。

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松の井 森次庸介料理長(左)と大越基裕ソムリエ。

※外出時には新型コロナウィルスの感染対策を十分に講じ、最新情報は公式HPなどでご確認ください。

問い合わせ先

サガマリアージュ推進協議会(事務局:佐賀県流通・貿易課)

サガマリアージュ公式Instagram

TEL:0952-25-7252

この記事の執筆者
「ブランドのDNA」=「ブランドらしさ」を築くため、ストーリーやデザインなどの一貫したコンセプトワークを行い、トータルでブランドの向かうべき方向を示す。アパレルブランド経営、デザイナーなどの経験を活かして、食や工芸、地域創生などローカルに通じる幅広い分野で活動中。
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WRITING :
行方ひさこ