メルセデス・ベンツEQEを端的に表現するなら、既存のEクラスの電気自動車(EV)版となる。

彼らは“アンビシャス2039”という長期計画のなかで、今後発売されるニューモデルを、およそ20年かけてすべてカーボンニュートラルカー(二酸化炭素を一切排出しないクルマ)に切り替えるとの目標を掲げている。あわせて、2030年までに販売台数の半分を電動車にすることを目指しているが、そのなかには電気自動車(EV)も数多く含まれている。近年、メルセデス・ベンツが“EQ”と名付けたEVを矢継ぎ早にリリースしているのは、こうした目標を達成するためでもあるのだ。

メルセデス・ベンツは、昨年、サルーン系EVの第1弾としてEQSを発表。これは、その名から推察されるとおり「EV版のSクラス」で、まるでクーペのような流麗なスタイリングと、600km以上とされる航続距離(1回の充電で走行できる距離)で大きな注目を集めた。

EQEは、このEQSと基本的に同じテクノロジー、同じデザイン手法を用いて、サイズをひとまわりコンパクトにしたモデルと考えてもらえればいい。ただし、デザイン面ではただ小型化するだけでなく、前後のオーバーハング(前後のタイヤよりも前側もしくは後側にはみ出したボディ部分のこと)を切り詰めるなどして、軽快な走りをイメージさせるプロポーションに仕上げている。

本当に静かなEVとは

グリルレスの流れるようなフォルムが美しい
グリルレスの流れるようなフォルムが美しい
後ろ姿も流麗。
後ろ姿も流麗。

ドイツ・フランクフルト周辺で行なわれた国際試乗会で主に試乗したのは、モーターを一基だけ搭載して後輪を駆動するEQE350と呼ばれるモデル。最高出力292ps、最大トルクは530Nmで、航続距離は仕様によって545〜660kmと発表されている(いずれも欧州仕様値)。

クルマを発進させた瞬間、私は信じられないような思いに駆られた。なぜなら、走行に伴うノイズがまったくといっていいほど耳に届かなかったからである。

「EVだったら、そんなの当たり前でしょう?」とアナタはいうかもしれないが、2トンを越える重量物が動けばなんらか音が聞こえるのが自然の摂理である。たとえばタイヤが路面を踏みしめる音とか車速を上げれば風を切る音がするのは、EVでも当たり前のこと。一般的に無音とされるモーターやその制御系でさえ、2トンの重量物を加速させるときには「ウィーン」というノイズがどこかから聞こえてくるものだ。

それが、EQEでは一切、看取できない。おそらく、実際にはモーターやタイヤはいくぶんなりとも音を立てているのだろうけれど、それがドライバーや乗員に聞こえないよう、徹底的に遮音されているに違いない。

高度なソフトウェアを搭載

ダッシュボードを広く覆うモニターを始め、新しい感は抜群。
ダッシュボードを広く覆うモニターを始め、新しい感は抜群。
設えはメルセデスのアッパーミドルクラスに即したもの。もちろん十分にラグジュアリー。
設えはメルセデスのアッパーミドルクラスに即したもの。もちろん十分にラグジュアリー。

それにしても、これくらい静粛性が高いと、単に「車内が静かなクルマ」とは別の価値観が生まれてくるような気がする。たとえていえば、人気もまばらな野山を散歩しているときのような、清々しい気分が味わえるのだ。EVでこうした感動を味わったのは、私にとって初めてのことだった。

加速はあくまでも滑らかで力強く、乗り心地はソフト傾向で快適。そうした点も、静寂に包まれて走るEVに相応しいように思えた。

実はEQE(と兄貴分のEQS)は、従来の自動車とは一線を画した高度なソフトウェアが搭載されていて、ナビゲーション・システムのルート検索では、標高の高低差に伴う気温の変化がバッテリー消費に与える影響まで計算して最適な道筋を選んでくれる。巨大なディスプレイや音声認識などを用いて行なうMBUXと呼ばれるインターフェイスもEQEの大きな魅力なのだけれど、その紹介はまた別の機会に譲ろう。

いずれにせよ、EQEが未来のサルーン像を映し出していることは間違いないだろう。

この記事の執筆者
自動車専門誌で長らく編集業務に携わったのち、独立。ハイパフォーマンスカーを始め、国内外の注目モデルのステアリングをいち早く握り、わかりやすい言葉で解説する。