「贅沢かも」「ハードルが高そう」…とオーダーに二の足を踏んでいるのなら、その道のプロの体験を聞くのがいちばんの近道。コツやポイントをおさえたオーダー方法が、よきお手本となるはず。

今回は、オーダーによって「私だけの名品」を手に入れたという、ファッションのプロ3名、イメージングディレクター・高橋みどりさん、スタイリスト・祐真朋樹さん、ファッションジャーナリスト・宮田理江さんが、実際に「私だけの名品」を手に入れたオーダー体験をお伺いしました。

■1:イメージングディレクター・高橋みどりさんが誂えた「グローブ・トロッター」のトラベルケースと「マーシャー」のライダーズ

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高橋 みどりさん
イメージングディレクター
大学卒業後、ファッションの道へ。「バーニーズ ニューヨーク」「ジョルジオ アルマーニ」のPRマネジャーなどを経て、2000年に「エストネーション」を設立。'05年に「オーエンス」を設立し、PR、マーケティング、商品プロデュースなど数多くのプロジェクトを手掛ける。

オーダーの楽しみはプレシャス世代にこそ

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「グローブ・トロッター」のトラベルケース(高橋さん私物)

「写真のトランクは、3年ぐらい前に銀座のお店でオーダーしたものです。グローブ・トロッターのトラベルケースは既製品にも可愛い配色が多いのですが、細かいところまですべてオーダーできるというのでトライしてみました。

こだわったのは、ボディカラーの微妙なクールグレー。ふだんから身につけるものは、小物でも服とのバランスを重要視して考えるので、自分らしい調和がとれるよう以前から挑戦してみたかった色にしました。

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ライニングは、荷物を入れる部分をネイビーに、上部は開けたときに気持ちが明るくなるようにホワイトを選択。表のベルトやタブの色ともリンク。

完成後はヨーロッパの出張に持っていきたかったのですが、あいにくのコロナ禍で、使用したのは国内旅行でのみ。それでも同じケースに出合ったことはありませんし、ほめていただくことも多く、この色のモデルが存在するのかとよく聞かれます。それらの反応も含めてとても楽しい経験となりました。

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現在は廃止となったネームプレートサービスは期限ギリギリで実現。

服のオーダーはほとんど経験がありません。デザイナーの思いを尊重しながら自分なりに着こなすのが楽しいというのが理由ですが、そんななかでもオーセンティックなライダーズがオーダーできるというので挑戦したのが、マーシャーのシングルライダーズ。

既製品は黒でハードな雰囲気なのですが、色をベージュにしてファスナーの幅も狭くし、金具などのパーツを内側にしてみたら、女性らしい印象になりました。ほんの少しのアレンジで雰囲気がガラリと変わったのも気に入って、春先や秋口によく着ています。

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黒はすでに持っていたが、ベージュは探してもなかなか見つからなかったそう。この色にすることで、ヴィンテージライクながら女らしさもあるところがお気に入りのポイント。(高橋さん私物)

オーダー自体、以前はそれほど興味はありませんでしたが、実際に体験してみると、自分らしさを細やかに表現できるとてもおもしろいものだと気付きました。

特に年を重ねていくにつれて、トレンドやブランド、プライスよりも、着ていて自分らしくいられるかどうかというほうがプライオリティが高い。オーダーはその延長線上にあるような気もしていて、自分のスタイルを完成させるための選択肢のひとつかもしれません。

生き方や考え方が整理されてくるプレシャス世代は、オーダーに挑戦するには特に最適な世代じゃないでしょうか」(高橋さん)

■2:スタイリスト・祐真朋樹さんが誂えた「ヴァレンティノ」のカシミアコート

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祐真 朋樹さん
スタイリスト
京都市生まれ。メンズファッション誌の編集を経て、スタイリストに。雑誌や広告などでのスタイリング、原稿執筆のほか、2021年より「ランバン コレクション」メンズのクリエイティブディレクターとして手腕を振るう。

ローマのアトリエでオートクチュール初体験

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「ヴァレンティノ」のカシミアコート(祐真さん私物)

「このカシミアコートはヴァレンティノで誂えたもの。2014〜15年秋冬パリメンズコレクションの冒頭の数ルックがオートクチュール仕立てで、ショーを見た瞬間にどうしても欲しくなり、ローマのアトリエに出向いてつくってもらいました。

圧巻だったのは、白衣を着た100人近くの針子たちの姿。繊細で丁寧な仕事ぶりと共に、とても楽しそうに作業していたのが印象的でした。

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とろけるような手触りの素材は、最高級カシミア。しかも、贅沢なダブルフェイス仕立て。バックのブルソンライクなディテールが軽妙なアクセントとなっていて、ミニマルなフロントとのコントラストも絶妙です。「オートクチュールということはさぞかしお値段が…」という取材班の問いには「忘れました(笑)」と祐真さん。

それまでもサヴィル・ロウをはじめとする数あま多たの店でオーダーの経験がありましたが、“誂え”のいちばんの醍醐味は、それが手元に届くまでの時間をも堪能できること。

ただ現実には自分の体型と対峙することになるので、期待と現実の差を埋めてくれる優秀なテーラーに出会うことが重要です。それには信頼できる店に何度も通うことが必要。僕のようにあちこちで誂えるというのは、本来邪道です。MTOは、気に入ったデザインを自分のサイズでつくれるシステム。オーダービギナーにも満足度は高いはずですよ」(祐真さん)

■3:ファッションジャーナリスト・宮田理江さんが誂えた「ブルックス  ブラザーズ」のパンツスーツ

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宮田 理江さん
ファッションジャーナリスト
ファッションジャーナリストとして、国内外のコレクション情報や最新トレンド分析を、雑誌や新聞、SNSなど多くの媒体で発信。また、ファッションディレクターとして着こなしテクニックの解説なども手掛ける。

タイムレスな魅力に富むブランドの名品を選択

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「ブルックス ブラザーズ」のパンツスーツ(宮田さん私物)

「ふだんはトレンドの服を着ることが多く、スーツを着る機会は年に一度あるかどうか。そんな私のオーダー初体験がブルックス ブラザーズのパンツスーツだったのは、大好きなN.Y.の、男性の間で絶大な信頼を誇るブランドで間違いないと思ったから。

メンズ仕立てのスーツを女性が誂えるのもクールだし、タイムレスなスタイルも背中を押してくれました。

オーダー時は、生地やパーツを選びながら、担当の方から紳士服のセオリーをうかがえたのも有意義でした。パターンオーダーが優れているのは、デザインが決まっているなかでも自分らしさを加えられる点。

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生地は「どうせなら本格的なものを」と、イタリアの老舗生地メーカー・ヴィタルバルベリス カノニコ製の、織りでストライプが入ったウールモヘアを選択。完成後はインナーにフリルのブラウスを合わせたり、フロントのボタンを開けて薄手のニットを合わせたりと、メンズライクな表情を生かした、コントラストのある着こなしを楽しんでいるそう。

私はヴィンテージ風なニュアンスを加味したかったのでボタンはアンティークゴールドを選択。袖の裏地はワインレッドのペイズリー柄で、袖をまくったときに色が見えるようにも配慮。紳士服では禁じ手かもしれませんが、オーダーならではの冒険です。

オーバーサイズの服に慣れてきたからこそ、心地よい緊張感をもってこのスーツを着たいと思います」(宮田さん)

※高橋みどりさんの【高】は「はしごだか」が正式表記です。
※こちらの記事でご紹介したアイテムはすべて私物です。各ブランドへの問い合わせはご遠慮ください。

PHOTO :
Koji Yano(STIJL/静物)
STYLIST :
金井あい
WRITING :
畠山里子
EDIT&WRITING :
安部 毅、安村 徹(Precious)