仕事でもプライベートでも、特別な食事のときに利用することの多いカウンターのお寿司屋さん。こうした高級店での振る舞いには、知性や品格があらわれますよね。

洗練された大人女性たるもの、スマートに味わいたいもの。知らずに常識はずれなことをすれば、お店の人から無粋だと思われたり、同席者に恥をかかせたりしてしまうことにも……!?

そこで、『かつてない結果を導く 超「接待」術』の著者・マナーコンサルタントの西出ひろ子さんから、お寿司屋さんでの食べ方マナーについて教えていただきました。

■1:「味の薄い」ものから注文する

味の薄いものを
味の薄いものを

おきまりやコースではなく、自分たちで好きなものをオーダーするスタイルでは、味の薄いものから注文しましょう。まずは、白身や貝など淡白なもの、続いて、まぐろなどの赤身、そしてトロやうなぎなどの味の濃いもの、その後、軍艦巻きやカッパ巻きなどの巻物を食べ、最後はつまみの玉子、最後は味噌汁物で締めるのがツウな人の食べ方です。

「最近では、“お客様の好きに食べてほしい”というお店が増えており、これが絶対のきまりというわけではありません。ただ、上記の順番には意味があります。

味の薄いものから食べるのは、素材そのものの繊細な味をしっかりと味わうため。味の濃いものを先に食べてしまうと、せっかくの素材の味がわからなくなるおそれがあります。

そして、玉子や味噌汁で締めるのは、これらにはお店自慢の出汁が使われているからです。店側が自信をもって出している逸品を最後に味わうのは、お店のこだわりを尊重し、おいしかったです、と心から伝える姿勢づくりともいえるでしょう」(西出さん)

■2:出されたお寿司は「すぐに」食べるようにする

寿司職人の立場にたてば、新鮮なネタは提供後すぐに食べてほしいもの。せっかくのお寿司を最上の状態で味わうためにも、出されたお寿司は即座に口に運ぶと心得ておくとよいでしょう。ツウの人は提供後、数秒も経たないうちに、一口で食べるといいます。

とはいえ、自分よりも目上の人と食事をしていて、相手がおしゃべりに夢中になってなかなか寿司に手をつけないと、自分が先に食べるのは気が引けますよね。その場合は、どうすればいいのでしょうか?

「相手の話が一瞬途切れたタイミングを狙って、“こちらもおいしそうですよね”とさりげなくジェスチャーで促すといいでしょう。

食材を大切にするのも、飲食店でのマナー。目上の人をさしおいて自分が先に食べるのはなかなか難しいと思いますが、そのような上下関係がなかったり、自分が接待される側だったりする場合は、遠慮せず率先して食べるといいでしょう」(西出さん)

■3:お寿司の写真を何度も撮り直さない

撮影は一度で済ます
撮影は一度で済ます

Instagramなどに載せる目的で、お寿司の写真撮影をするのはマナー違反に当たらないのでしょうか?

「きちんと事前にお店の許可をとっていれば、マナー違反には当たりません。ただ、出されたお寿司はすぐに食べるようにしたいので、何度も撮り直しをするのは望ましくないでしょう。シャッターチャンスは1回で。撮影に手間取らないためにも、お店を予約する時点か、遅くとも入店した時点で、許可を取っておくとよいでしょう」(西出さん)

■4:食べ方は相手が手でも箸でも、それに合わせる

相手が箸なら箸を
相手が箸なら箸を

寿司を手で食べるべきか? 箸で食べるべきか? 判断に迷う人も多いことでしょう。寿司の食べ方は、カウンターでは手、テーブルでは箸、という説もありますが、これが絶対に正解というものはなく、手でも箸でもかまいません。
ただ、接待で寿司店を利用したり、目上の人と食べたりする場合は、相手の食べ方に合わせるのが無難だといえるでしょう。

■5:醤油は「ネタの先端に少しだけ」つける

シャリに醤油はつけない
シャリに醤油はつけない

シャリに醤油をつけると、シャリが醤油を吸いすぎてネタの味を損なったり、寿司の形状がくずれて小皿に米粒が残り汚く見えたりすることがあります。醤油はネタの先端に少しだけつけて食べるようにしましょう。巻物を食べる場合も、醤油はシャリにつけず、下の海苔の部分に少しだけつけます。

「出されたお寿司をすぐに食べるのと同じで、これも食材に対するマナーです。ネタに醤油をべったりとつけると、食材の風味を損なってしまいます。

また、醤油をつけすぎると、口に運ぶまでに醤油が垂れて、白木のカウンターやテーブルなどを汚してしまうおそれも。おいしく、かつ優雅に味わうためにも、ネタの先端を醤油にほんの少しだけつけて、醤油皿の端で醤油をおとして口に運ぶとよいでしょう」(西出さん)

■6:口に運ぶときは醤油皿を持つか、前かがみになる

「お寿司を口に運ぶまでの間に醤油が垂れるのを防ぐために、醤油皿を持つか、前かがみの姿勢で食べましょう。前かがみになるときは、首や背中を丸めるのではなく、頭のてっぺんから腰までまっすぐにすることを意識すれば、所作が美しく見えます。また、懐紙をもって食べるとエレガントです」(西出さん)

■7:テーブルを汚してしまったら、お店の人に対応をお願いする

うっかり醤油をこぼすなどで、テーブルを汚してしまった場合、お店のタオル地のおしぼりで拭かないようにしましょう。タオル地のおしぼりは使い捨てではなく、洗濯して再利用するもの。それで醤油汚れを拭うとシミになり、お店に負担をかけてしまうおそれがあるからです。

「テーブルを汚してしまったら、お店の人に声をかけて対応をお願いするほうが、お店に対する気配りになります。おしぼりは手を清める目的で使うにとどめましょう」(西出さん)

■8:お寿司は一口で食べる

一口で食べきる
一口で食べきる

お寿司は一口で食べることが望ましいとされています。一口で食べきれなかった場合、食べかけのお寿司を皿に戻さず、手もしくはお箸で持ったまま、残りを食べます。

太巻きを食べるときも同様に、一口で食べるのが難しい場合は、半分くらいを噛み切り、それを持ったまま残りを食べましょう。一口で食べきれないことの対策として、あらかじめ注文時に「シャリ少な目」とお願いしておくのもアリです。 

■9:空いた食器はそのままにしておく

回転寿司店とは異なり、カウンターのお寿司屋さんでは、食べ終わって空いた食器は重ねずにそのままにしておきましょう。テーブルの上を片付けようとして食器を重ねると、食器を傷つけるおそれがあるからです。

「マナーとは、一言で言うと、相手に対する心配り。そして、その相手とは人のみならず、食材や物も含まれます。お店のお皿などの物を傷つけないように丁寧に大切に扱うことが大事です。

一流店であれば、どのタイミングでお皿を片付けるかなど、お店側の接客対応が行き届いているはずですし、いたずらにお客様側が器を動かすよりも、食べ終わったままの状態にして、お店におまかせするほうがいいでしょう」(西出さん)

最後に、西出さんは言います。

「最近では、お寿司屋さん側も、型を重視して食べるのではなく、お客様がリラックスするなかで、好きに食べてほしいとおっしゃるお店が増えています。また、マナーについては、それぞれのお店で考え方も違いますので、こうしなければいけないとか、このように食べないとマナー違反ということに、がんじがらめになる必要はないでしょう。

形式的なマナーにとらわれるよりも、わからないことや困ったことがあれば、お店の人に尋ねてみるなど、コミュニケーションを取ることのほうが本来のマナーとしては大事なことです。そして、これもマナーあるコミュニケーションの一環ですが、お茶を持ってきていただくなどのちょっとしたことでも、感謝の気持ちを伝えることも忘れないようにしましょう」

今回ご紹介した予備知識があれば、初めてのお店でも萎縮することなく、優雅にふるまうことができそうですよね。お店の人とのコミュニケーションも楽しみながら、極上のお寿司を粋に堪能しましょう。

西出 ひろ子さん
マナーコンサルタント・美道家
(にしで ひろこ)ヒロコマナーグループ代表。マナーは互いが幸せになるために存在するとして、型や形よりも、思いやりの心を重視するマナー界のカリスマ。企業での人財育成やコンサルティングをはじめ、NHK大河ドラマ「龍馬伝」「花燃ゆ」などのドラマや映画のマナー指導者にも抜擢され、多くの有名女優や俳優へのマナー指導も務めている。その実績は多くのメディアにて紹介され、テレビ番組などでも活躍中。
『かつてない結果を導く 超「接待」術』西出ひろ子・著 青春出版社刊
この記事の執筆者
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WRITING :
中田綾美