よく「部下はほめて伸ばせ」と言われます。しかし、実際にめんどくさい部下や後輩を指導する際、どうしてもうまくいかず、悩んでしまっているという管理職の方は多いのではないでしょうか?

「一体どこを褒めたらいいのか?」「どんなほめ言葉を使えばいいのか?」

そもそも、ほめられた経験が乏しいと、なかなか人のほめ方がわからないもの。ただ、これは下を育てる立場になると避けて通れない問題。誰かをほめることを習慣にするには、どうしたらいいのか? 実際にほめ習慣を実践している人に聞くしかありません。

三重県にある南部自動車学校では「ほめて伸ばす」という指導方針を徹底し、ほめちぎる教習所として数々のメディアで注目を集めています。今回、この南部自動車学校の加藤光一さんに、管理職女性が部下や後輩をほめることを習慣にする方法を教えていただきました。

■1:感じたことをすぐほめるようにしよう(すぐほめ)

すぐほめ
すぐほめ

どうすれば他人をほめるのがうまくなるのか? 加藤さんは「練習をしないとだめ」と言います。

「最初から”うまくほめられる人”はいないんです。我々の教習所でも、明日からほめてねと言われたとき、なかなかしっかりとほめられるような職員はいなかったんです。最初は相手の外見からほめるとか、毎日ほめる練習をしていきました」

実際に南部自動車学校の取り組みで効果のあったほめ方は、すぐほめ、最初ほめ、原因ほめ、拡大ほめ、比較ほめ、プロほめ、質問ほめ、第三者ほめ、つぶやきほめ、ほめきりの10種類。これが「イチオシのほめ方10選」なのだそう。なかでもおすすめは「すぐほめ」だと言います。

「感じたことを、すぐほめるのが一番です。教習所の中で便利な言葉があって、それはすごくセンスいいよねっていう言葉。これは応用が利きやすい(笑)。いわゆるすごい、さすが、すばらしいという3Sは誰でも言いやすいんです」

この、「すごくセンスいいよね」はどんなときでも使えますよね。まずは3Sの「すごい」を、「すごく●●だよね」と言い換えてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

「相手を理解するには、否定や怒るだけでは難しい。だからこそ、ほめることが有効なんです。まず、一度やってみてください。必ず道は開ける…とか大げさなことではないですけど、やってみたらほめる効用がでてきますし、ビジネスにおいて大切な人間関係がよくなります。接客業などでも、お客様との人間関係が変わっていきます。まずは騙されたと思って、一回やってみていただきたいです」(加藤さん)

毎日、目に入ったことをすぐにほめる。そのとき、「すごい」「さすが」「すばらしい」の3つのうちどれかを使う。これだけならできそうですよね。続ければ、確かにほめ習慣が身につきそうです!

■2:失敗の原因を確認したことをほめよう(原因ほめ、質問ほめ)

原因ほめ
原因ほめ

ただ、仕事のキャリアが長くなり経験値が上がってくると、失敗やスピードが気になることがあります。自分ができる作業を部下や同僚に教えたとき、相手がうまくできなくてイライラしてしまうときは、どうすればどうすればよいのでしょうか? 加藤さんは、その人の話を聞くときの姿勢が大事だと言います。

「お互いにまだ信頼関係ができていないと、いらいらしてしまうと思うんです。言いたいことが伝わらない環境って、まだ信頼関係ができていないケースが多いんです。目を見て相手の話を聞くこと。こちらはあなたのことを聞く準備できていると、相手にわかってもらえる関係性をつくっていくのが大事なんです」(加藤さん)

前述の「イチオシのほめ方10選」のひとつに、「原因ほめ」があります。これは、他人の失敗に対して「もう失敗するな」と言うのではなく、相手の成長を考えて、なぜ失敗したのかを確認すること。そして、もし相手が失敗の原因がわかっているなら、そのことをほめるといいそうです。

「信頼関係をつくっていくことのが大事なので、最終的にこちらの意思が伝わっていない場合は、実直に聞くことが必要なんです。どういうことがわからない?と相手に聞いてしまう。自分の憶測だけでは、相手に伝わっていないことも多いんです」(加藤さん)

また、職場で、仕事を教える側のリーダーのようなポジションにいる場合、「質問ほめ」もオススメなのだとか。これは、相手からの質問に対して「いい質問ですね」や「いいところに気がつきましたね」とほめること。これにより、部下のモチベーションアップが期待できます。ジャーナリストの池上 彰さんも、テレビ番組で出演者から問いかけがあった際に「いい質問ですね」と、たびたびほめていますよね? まさに、あれです。

「実は、ほめるというのは、相手に対しての気遣いに通じるんです。普段なら気づかない言葉とか、言動とかそういうのに気づくようになっていくんです」(加藤さん)

苦手な部下に対しても、うまくほめることで、チームワークや生産性の向上も見込めるようになったという企業も多数あるそうです。慣れてきたら、原因ほめと質問ほめにもぜひトライしてみましょう。

■3:最初にこちらが相手をほめれば変わる(最初ほめ)

最初ほめ
最初ほめ

管理職のあなたががどうほめたらいいのわからないのは、部下や後輩だけではないはず。なかには、面倒なクライアントとの接し方に悩み、ほめるどころではない場合も……。そのようなときは、どうすればうまくコミュニケーションが円滑にできるのでしょうか。加藤さん曰く、その場合はまず「認める」ところから始めるといいそうです。

「コミュニケーションがうまく取れない場合には、ベビーステップというやり方を取り入れています。ほめると言うより、認めていくというか。相手に関心をもつことが重要なんです。今日は白い服を着てるんですね、みたいな単純な言葉でいい。ほめているのではなく、相手を認めていることから始めるんです」(加藤さん)

認めることができてから、ほめる。そのときは、前述した「イチオシのほめ方10選」の「最初ほめ」がいいそうです。これは心理学でいうハロー効果を例に取ったもので、最初にこちらが相手をほめること。最初ほめを取り入れると、ビジネスで円滑な人間関係がつくれるのです。

「要するに、相手に自分に興味を持ってくれているんだって、認識してもらうところから関係性をつくっていくのです。関係性ができていないときには、ほめてもあまりうまくいかないんです。もちろん、教習所でも卒業まで反応ゼロの人や、ニコっとも笑わない人もいます(笑)。元々コミュニケーションを取るのが苦手な人でも、卒業のときには『すごくよかったです』と言ってもらえると、こちらの誠意がちゃんと伝わっていたんだな…と感じます」(加藤さん)

嫌味なく相手をほめることで、コミュニケーション能力が向上すると言えそうです。日ごろから「最初ほめ」を意識して行動するように心がけが必要ですね。

そして、ほめ習慣を身につけるためには、そもそもほめる決意をしておくことが大事なのだとか。

まずはほめようと思うことが、一番大事。よしほめるぞって自分に決意させる。そう思った時点で、相手のどこをほめるかっていうことになる。どこをほめるかって意識になると、相手に対して関心を持つので視野が広がるのです」(加藤さん)

ほめ方がわからなくても、まずは「よしほめるぞ」と思うこと。これを毎日心がけていきたいですね。

最後に今回、本の監修を担当した『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の著者である坪田さんから、心理学の側面からほめる効果について教えていただきました。

「心理学では好意の返報性というものがあって、簡単にいうと、ほめていると人に好かれます。あなたにとって、人に好かれる人生がいいのか、人に嫌われる人生がいいのかっていうと、多くの人は人に好かれる人生がいいって思うんです。まずほめることによって、好かれるっていうのを実感してください」(坪田さん)

相手をほめることを意識づけるだけで、人間関係も円滑に過ごすことが可能になるのです。ほめ習慣で、ぜひ部下や後輩、そしてクライアントと気持ちいい関係を築いていきましょう!

加藤 光一さん
南部自動車学校代表
(かとう こういち)三重県伊勢市にある「南部自動車学校」の代表を務める。実習プログラムを改変し、2013年2月より「ほめちぎる教習」を実施。少子化、車離れが叫ばれる中、生徒数の増加、事故車率減少という効果を上げる。現在は、全国の教習所をはじめ、ホテルやJRなど異業種からも視察が訪れている。南部自動車学校は、「日本社団法人 ほめる達人協会三重支部」としても活動。
坪田 信貴さん
坪田塾塾長・作家
(つぼた のぶたか)これまでに1300人以上の子どもたちを個別指導し、心理学を駆使した学習法により、多くの生徒たちの偏差値を短期間で上げることに成功している。経営者として、全国の様々な上場企業の社員研修や、講演会などにも呼ばれている。著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話』は、120万部のベストセラーとなり映画化もされて話題となった。
この記事の執筆者
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WRITING :
池守りぜね
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