アンケートなど、広く意見を募る文書で「忌憚のないご意見をお聞かせください」というフレーズを見たことがある人は多いはず。「憚」は常用漢字ではありませんから、初めて見たときには戸惑ってしまうかもしれませんね。とはいえ、ビジネスシーンでは会議など、正直な意見を聞きたいシーンででよく使われる言葉です。今回は「忌憚のない」について、正確な意味や使い方を解説します。

【目次】

「忌憚のある意見」とは言いません。
「忌憚のある意見」とは言いません。

【「忌憚のない意見」を紐解く「基礎知識」】

■まずは「忌憚」の「読み方」と「意味」

「忌憚」は「きたん」と読みます。訓読みすると「忌(い)み憚(はばか)る」。
意味は、「気を遣って遠慮すること」です。

■上記を踏まえて「忌憚のない意見」の「意味」は?

「忌憚」という言葉は、「どうぞ忌憚のないご意見をお聞かせください」のように、ほとんどが否定の語と共に用いられます。「忌憚のない」あるいは「忌憚なく」と打ち消すことで、「恐れたり遠慮したりしないで」率直に意見を述べる様子を指し、「気を遣わず、本当のことを言ってくれ」と頼むときに使われるフレーズです。

「ぶっちゃけ、どうお考えなのかうかがいたいです」───これを上品に言い換えたのが「どうぞ忌憚のないご意見をお聞かせください」「どうぞ忌憚なく、ご意見をお聞かせください」なのです。

反対に、自分から相手に本音の意見を述べる際には、「忌憚なく言わせてもらうと…」「恐縮ですが、忌憚なく申し上げます…」などと、前置きするといいですよ!
また、「忌憚のある〜」という使い方をすることはありません。

■「目上の方」に使ってもいいの?

「忌憚なく」は「遠慮なさらず」というニュアンスを含んでいますが、敬語表現ではありません。そもそも、目上の方であれば、目下の者に対して、本音で意見を述べることを遠慮する必要はありませんから、目上の方に「忌憚なく」「忌憚のない」という言葉を使うのは、言葉本来の意味を考えると不自然です。

「率直なご意見をうかがえますか」「ご意見いただきたく存じます」「お気遣いなくおしゃってください」などといった表現が適切です。


【同じような意味をもつ「類語」「言い変え」表現】

■率直に ■遠慮なく ■ざっくばらんに ■歯に衣着せず ■気兼ねなく

私的な場で「本音を話す」ことは、以下のようにも言い換えられます。

■腹蔵(ふくぞう)なく言う  ■腹を割って話す
■胸襟(きょうきん)を開いて語る


【「忖度」不要?「忌憚のない意見」を求められたときの「注意点」 】

先方が切実にあなたの意見を求めているとき、あるいはあなたを見込んで「ぜひ意見が聞きたい」と思っているならば、こちらも誠実に率直な意見を伝えるべきでしょう。ただし、注意点もあります。

■全面的なダメ出しで、相手の考えを全否定しない

■クッション言葉を活用し、相手に配慮する気持ちを示す

特に取引先など、敬意を表すべき相手から忌憚のない意見を求められた際は、「大変恐縮ですが」「僭越かと存じますが」などのクッション言葉を活用しましょう。くれぐれも相手との関係を悪化させないよう、細心の注意が必要です。

また、こちらから「忌憚のない意見」をお願いして回答をいただいた場合は、返答には「忌憚のない」を使わずに、「率直なご意見に感謝申し上げます」「貴重なご意見をありがとうございます」などとするとスマートですよ。

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「忌憚のない意見」という表現は、会議などの意見交換の場で、率直な意見を聞きたいときに多く使われる表現です。建前抜きの意見を述べるのは、誰にとっても勇気のいる行為です。「どうぞ忌憚のないご意見をお聞かせください」とひと言添えることで、活発な意見交換のきっかけをつくることができるかもしれません。上手に使いこなしてくださいね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉(小学館)/『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書) /『ひと言で知性があふれ出す 大人の語彙力が身につく本』(かんき出版) :