今、見つめ直したい「悼む日」のエレガンス

英国女王エリザベス2世と安倍元首相の国葬が続き、たくさんの喪服を目にした昨年。改めて大切な人を「悼む日」の装いについて見つめ直す機会となりました。いざという日のため、洗練された大人の女性にふさわしい、喪のエレガンスのいまを探ります。

シルエットだけで魅了するキャサリン皇太子妃の麗しきモーニングブラック

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(C)Getty Images

世界が見守った英国女王エリザベス2世の葬儀。ウエストミンスター寺院に到着したキャサリン妃のシルエットが、逆光の中で美しく浮かび上がる。

帽子と服のラインには品格が、常に子供を気遣う手元には滲み出る優しさが、そしてハイヒールで古い石畳を颯爽と歩く後ろ姿には、哀しみのなかにも王室の一員として生きる自覚と、凛とした力強いエレガンスが香り立つ。

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(C)Getty Images

親族だけが着用する黒いヴェール付きのトークハットが、キャサリン妃の美しさと上品な色香を何倍にも引き立てていた。

哀しみのなかにも自分らしい装いで悼む心を形にする 文・藤田由美(編集者)

「喪服を用意するのは縁起が悪い?」

両親が年老いてからというもの、迷信にとらわれて、喪服を買い替えるのに躊躇(ためらい)があった。それを信じるなら「慶事や厄年、法事などに乗じて誂えると吉に転ずる」という根拠のない逃げ道もあったようだ。

“なんとなくフォーマルな黒い服” で代用していた。若い頃の喪服はすでにサイズもフォルムも気分も違う。黒に締まりがなく、くすんで見える。哀しみの席への足取りがさらに重くなるから、喪服もときおり、アップデートしなくてはならない。

ところが親の死は思いがけずやってくるもので、私もこの3年で両親を見送ることになった。母のときは葬儀まで時間があり、 正喪服を揃えることにして、いわゆる百貨店のフォーマル売り場へと足を運んでみた。参考にしたい例がいくつかあった。

まずは、元キャンディーズのスーちゃんの葬儀で蘭ちゃんが着ていたフリル襟のジャケット&ワンピース。「クロエ」のものらしく、深い哀悼のなかにも “伊藤蘭” という大人の可憐さが際立っていた。売り場の方に聞くと、問い合わせが多かったそうだ。

世界的トップモデルでもある某女優さんが、恩人の葬儀のために急いで買い求めたのは “アルマーニ” のしなやかなパンツスーツ。さすがの選択だと思った。

あるスタイリストさんの葬儀で、友人代表として挨拶された大物ミュージシャン。おしゃれでも有名な彼女が着ていたのが、ジャカード織のような質感のふんわりした黒の膝丈ギャザースカート。素材感もシルエットもキュートで華のある黒。おしゃれな人を見送るにふさわしい、気持ちのこもった盛り上げ方だった。

一方で、ジャーナリストの通夜に訪れたスタイリストの草分け的な女性は通夜ということもあり、いつもながらの黒いジャケット&パンツに、黒真珠のネックレスと上質な男靴。熟練の職人技を見るようなプロの安定感に魅せられた。

この4人の洗練された大人の女性の「悼む日」のスタイルに共通するのは、「自分らしい華」が感じられること。心を尽くして装うことは、思いを形にする最善の方法なのである。

そうした例を胸に、心惹かれたのが日本人デザイナーの両巨頭、森英恵さんと芦田淳さんのものだった。ともに大使館クラスのプロトコールを熟知し、クチュールの顧客を抱えるデザイナーである。素材の高級感と袖を通すと美しいシルエットが素晴らしい。結局、蘭ちゃんのフリル襟を諦められず、森英恵さんによるフリルの立ち襟が極めて美しいジャケットとワンピースを選んだ。

毎年、芍薬の花が咲く頃、本誌の創刊に携わったファッションディレクターKさんの墓参りがある。小さな集まりだが、皆それぞれに夏の黒の気負いのない華やかさが、いい塩梅である。この日のために装う心が、思いをひとつにしている。

PHOTO :
Getty Images
EDIT&WRITING :
藤田由美