お花見を考え出す時期になると食べたくなる、桜餅。塩漬けされた桜の葉が香る、春らしい和菓子です。そんな桜餅には「関東風」と「関西風」の2種類あることをご存知ですか?

今回は、桜餅について「Precious.jp」読者にアンケートを実施。「関東風」と「関西風」どちらを連想するか、そして桜の葉は食べるのか、395名の声を集めました。さらに、江戸時代から300年続く桜餅発祥のお店「長命寺桜もち」の山本さんに、桜餅の歴史と食べ方を伺いました。

■あなたの桜餅は「関東風」? それとも「関西風」?

写真左が「関東風」、写真右が「関西風」と言われています。ふたつの違いは、餡を包む生地。

桜餅が2種類並んでいる。左手は餡を薄皮で巻いた「関東風」、右手は餅米を使った生地の「関西風」。
2種類の桜餅。どちらも塩漬けの桜の葉で餅を包んでいます

「関東風」は、小麦を水で溶いて伸ばし焼いた薄皮です。一方「関西風」は、餅米を蒸して干してから粗く挽いた「道明寺粉」を使った生地。餅米のもちもち感と、少し残った米粒の食感がおはぎのような和菓子です。

現在では、関東・関西を問わず、焼き薄皮のものと道明寺粉を使ったもの、どちらも販売されています。

あなたは「桜餅」と聞いたとき、薄皮タイプとおはぎ型、どちらを連想しますか? 395人のアンサーを見てみましょう。

Q1:あなたにとって「桜餅」は関東風・関西風どちらですか?

「関西風の桜餅(写真右)」が65%、「関東風の桜餅(写真左)」が35%の円グラフ
読者の65%が、道明寺粉を使った「関西風」をイメージする結果に

65%の方が、「桜餅」といえば道明寺粉を使った「関西風」(おはぎ型)を連想すると回答しました。「餅」という言葉の印象から、餅米を元にした道明寺粉の生地である「関西風」のイメージが強いのかもしれません。

桜餅の起源をたどると、実はその発祥は多数派のイメージとは反対の「関東風」。塩漬けした桜の葉で餅を包む工夫が最初に生まれたのは、江戸の町なのだそうそうです。桜餅誕生の地・向島には、今でも発祥から変わらず桜餅をつくり続けているお店があります。「長命寺桜もち」です。なぜ桜の葉で餅を包む和菓子が生まれたのか、その歴史と変わらぬ味のこだわりを伺いました。

■桜餅の発祥は江戸時代の向島!歌舞伎や落語にも登場

老舗の「長命寺桜もち」は、隅田川の沿いに店舗を構えています。目の前は、「千本桜」と謳われる関東随一の桜の名所。江戸時代に八代将軍・徳川吉宗の命により、桜が植林されたと伝わっています。

「長命寺桜もち」店舗の外観。看板には筆文字で店名が書かれ、入り口には紺色ののれんがかかっている
隅田川沿いにある「長命寺桜もち」。300年変わらずこの地で営業しています

桜餅が生まれたのは、1717(享保2)年。当時、向島の長命寺で門番をしていた山本新六が、名物である桜の葉を活用できないかと考えました。そこで、桜の葉を塩漬けにして餅を包み、長命寺の門前で売り出したのが始まりなのだそう。

「長命寺と桜餅」の題がついた文章が筆で記された紙が額に入り壁にかけられている
店舗内には、桜餅の由来や長命寺との関わりについての資料も飾られています

以来、桜餅は多くの人に親しまれるようになり、歌舞伎「忍の惣太」や落語「花見小僧」にも登場するようになりました。その人気は、当時の地図に「長命寺名物サクラモチ」と書かれるほど。

古い地図の一区画に「長命寺名物サクラモチ」と記されている
1856(安政3)年に出た向島の地図。「長命寺名物サクラモチ」と書かれています

また、明治時代には、正岡子規が「長命寺桜もち」の店舗で一夏を過ごしたこともあるそうです。「花の香を若葉に込めて かぐはしき桜の餅家づとにせよ」など、桜餅について語った歌を残しています。

営み続けて300年、変わらぬ手づくりの味

「長命寺桜もち」の桜餅は、餅を桜の葉で「巻く」のではなく、「包む」という言葉が近い見た目をしています。これには、お餅をおいしくいただくための意味があるそうです。

赤い台の上に木箱があり、大きな桜の葉に包まれた桜餅が入っている
中の餅が見えないほど、大きな桜の葉に包まれています

「葉の付け方はお店により異なりますが、当店では昔から大きな葉を使い、お餅が見えないようにしています。これには、桜の葉の香りづけと、お餅が乾燥しないようにするという意味合いがあります。今のように保存の技術がなかった300年前は、お餅が見えてしまうと乾燥してしまって、固くなっていたのでしょう」(山本さん)

桜の葉は伊豆半島で採れる「オオシマザクラ」。もっとも香りが立つ品種だそう。葉の大きさによって、2〜3枚で餅を包んでいます。

大きな葉を一枚めくると、下から雪のように白い餅が顔を出します。

3枚ある桜の葉のうち一番上の1枚がめくられ、白い桜餅の皮が見えている
塩漬けの桜の葉の下には、真っ白なお餅が

近年では桜色に色付けされた桜餅もありますが、こちらでは昔ながらの製法で小麦と水のみを使い、真っ白な皮を一枚一枚焼いています。

中の餡は絹のような舌触りで、甘さ控えめなこし餡。水分がなくなるまでしっかりと練り上げられた餡は、練り切りぐらいの固さです。一口いただくと、爽やかな桜の香りとともに、さっぱりと上品ながら深みある味わいが広がります。


■塩漬けされた桜の葉、読者の過半数が「食べる」と回答。老舗のおすすめは?

前述のように、桜餅といえば、巻いてある塩漬けされた桜の葉。独特の爽やかな香りと塩気が好きな方もいますが、お餅と一緒に食べるものなのでしょうか?

Q2:「桜餅」に巻いてある塩漬けの桜の葉、お菓子と一緒に食べますか?

「食べる」59%、「食べることも食べないこともある」25%、「食べずに、はずす」16%の円グラフ
59%以上が「食べる」と回答

読者アンケートでは、59%が「食べる」と回答。「気分によって、食べることも食べないこともある」と合わせると、84%の方が桜の葉も食べるという結果になりました。

一方で、山本さんは「桜の葉は外して召し上がることをおすすめしている」といいます。

「桜餅は、葉の香りを楽しんでいただくお菓子です。葉によっては筋の固いものもありますので、お店ではすべて外して召し上がっていただくことをおすすめしております」(山本さん)

使っている桜の葉は食用なので、食べても問題ありません。食べ方は一人一人の好み。とはいえ、葉は外した方が、より本来の桜餅の味と食感を楽しめるようです。

■ 桜餅は繊細なお菓子。必ず当日中にいただいて

無添加でつくっている桜餅は、とても繊細なお菓子です。時間が経つにつれ固くなってしまうそう。逆に、できあがってすぐでは、桜の葉の香りが餅に移っておらず、味が馴染み切りません。一番おいしくいただけるのは、葉で包んでから2時間くらい経ち、味が馴染んだ頃なのだとか。

桜の葉の上に乗せた桜餅と持ち帰りの箱詰めのサンプルが飾られているガラスケース
お店に入ると、すぐ横には桜餅を飾った台があります

「長命寺桜もち」では、事前に予約を受けた場合、受け取り時間に食べごろを合わせて用意しています。

賞味期限はその日のうちですが、やはり朝買ったものを夕方に召し上がると少し固くなってしまいます。できる限り固くならない状態でお渡ししたいと思っておりますので、お早めにお召し上がりください」(山本さん)

ガラスケースの中に、籠詰めのサンプルや箱詰めのサンプルなど商品見本が飾られている
桜餅は店舗でいただく「召上り」も、持ち帰りのお土産もあります
※ご注意※
桜開花時期の販売
・「召上り」(桜餅と煎茶のセット、¥300):この期間、店内での提供はお休み
・お持ち帰りは事前予約のみ受付

爽やかな香りとやわらかい食感が春らしい桜餅には、300年の歴史と変わらぬこだわりがありました。今年のお花見は、江戸時代から親しまれた関東風の桜餅をお供に、春爛漫を感じてみませんか?

問い合わせ先

【調査概要】
調査期間:2018年2月26日〜2018年3月9日
対象:Precious.jp 読者395名
調査方法:小学館IDアンケートフォーム

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この記事の執筆者
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EDIT&WRITING :
廣瀬 翼(東京通信社)