ある程度仕事のキャリアを積んだ人なら、ビジネスマナーの基本は身についているもの。しかし、仕事に慣れてキャリアを積むほど、基本を忘れてしまったり、自己流になってしまったり……。

いつの間にか、相手にとっては非常識な言動をしていても、気づかないままでいることがしばしば。自覚症状なく、実は失礼なことをしていたら、信頼関係は崩壊してしまいます。思い立ったが吉日、今日から見直せることがあるかどうか、チェックしてみませんか?

とくに危険なのは、相手の時間を奪ってしまうケースです。そこで本稿では、戦略的マナー講師の尾形圭子さんから教えていただいた、すぐにでもやめた方がいい、他人の時間を奪いがちな10のNG習慣をお伝えします。

■1:丁寧すぎる電話応対をする

相手が求めている対応をしよう
相手が求めている対応をしよう

丁寧な言葉遣いを心がけることは、相手の気持ちを害さないためにも当然のことではないのか?と思うでしょう。しかし、時として丁寧すぎる言葉遣いが、忙しい相手の時間を奪うNG行為になることもあるのです。

例えば電話応対で、「はい、◯◯でございます。いつも大変お世話になっております」と丁寧にゆっくりした口調で言うことは、一見とても常識的なようですが、忙しい取引先の相手をイラッとさせるかもしれません。この場合、もっとシンプルにテキパキとするのがマナーにかなっているのです。

尾形さんによれば、丁寧であることや礼儀を欠かさないことはもちろん大事ですが、何よりも「相手の気持ちを想像して行動すること」が、ビジネスにおいては最も大事なことだといいます。

「~させていただきます、~でよろしいでしょうか、というような丁寧な言い回しもよく使われますが、これもあまりに繰り返すと長くなったり、内容がわかりにくくなります。使うポイントをおさえましょうということです。

謙譲語的に使うことが多くなっていますが、『させていただきます』などは本来、相手の許可が必要なときに使う言葉です。例えば『発表させていただきます』と言うときなどは、発表することがすでに決まっていて相手の許可がいらないことなので、『発表致します』くらいの敬語で十分なんです」(尾形さん)

■2:電話をかける前に準備をしない

取引先などに電話をする際は、邪魔をする自覚を持つことが大事です。相手の仕事を中断させて時間を奪っているので、できるだけ余計な手間を取らせないことが鉄則です。まずは次の4点を準備しておくこと。

(1)相手の部署やフルネーム、あれば名刺を手元に置いておく
(2)メモや必要な書類
(3)話す内容の整理
(4)先方の会社のホームページを開いておく

いきなり用件を話すのではなく、「◯◯の件でご連絡させていただいたのですが……」と断りを入れておくと、親切です。相手が忙しそうであれば、「5分ほどお時間よろしいでしょうか」と所要時間を伝えると、安心感を与えることができます。

取引先の情報は前もって目を通しておく
取引先の情報は前もって目を通しておく

「取引先のホームページには、意外と話のヒントがあるんですよ。先方と電話していて、『今度どこどこにお店を展開されるようですね』など情報をはさむと、『そうなんですよ、よくご存知ですね』なんて話の展開が早いですよね。

『いま、ホームページを見ながらお話させてもらってます』と言うと、相手も話しやすそうにします。『ホームページのどこどこを見ていただけますか』という話にもなりますよね。そういうとき、『今立ち上げます』とやっているのは、仕事ができない人に見えてしまいます。ほんの10秒でも、待っているのは長く感じるもの。事前準備は必要です」(尾形さん)

■3:資料に不必要に凝る

先述の通り、ビジネスにおいて相手の時間を奪わないということはとても大事です。しかしそのつもりがなくても「結果的に相手の時間を奪ってしまった」というケースもあります。

例えば、頼まれていたプレゼン資料を、よかれと思って不必要に装飾して凝ってしまい、制作時間を多くかけてしまったとします。その結果、仕事を頼んでいた上司や取引先は「かえって修正や予定の調整に時間がかかってしまった」ということになるのです。

「プレゼン資料に限らないんですが、その人の自己流の判断でやってしまわないことが大事です。特に転職者に多い傾向がありますが、前の会社のやり方や、よかれと思ったことが今の会社では通用しなかったということもあります。周りの仕事のやり方をよく見ることも必要ですし、求められた以上のことをしたいなら、事前に上司や取引先に『こうしようと思うのですが』と確認しておけば安心です」(尾形さん)

■4:期日通りに仕上げない

頼まれていた仕事を期日通りに仕上げる、という当たり前のことも、相手の時間を奪わない最低限のマナーです。きちんと締切に間に合い、頼んだ通りのものを出すだけで、仕事はスムーズに進みます。

締切が過ぎてしまったり、質が低いものを出すと、その調整にまた時間をかけることになります。まずは何よりも求められたことをこなすことを心がけましょう。スケジュール通りに仕事をきちっとできる人は、それだけで周囲に高く評価されますし、さらに前倒しすることができれば、相手の予想を超えて信頼感がぐっと高まります。

「わからないことを人に聞くのが嫌で、隠して自分でなんとかしようとがんばって、できるのが遅くなるパターンもありますが、恥ずかしいことではないので、上司や周囲の人に聞くことが大切です。

さらにクオリティを上げるのであれば、相手が何を求めているのか明確に理解したうえで、プラスこれがあったら相手はやりやすいだろう…などと、その人のその後のことを考えること。たとえば、『この資料はこの後何に使うんですか』と聞いてみて、その関連資料などを添付する。『こういう資料もつくろうと思いますが、いかがですか?』など事前に聞いておけば、勝手な自己判断によるズレもなくなりますよね。

『今回はいいよ、ありがとう』と断られることもあるかもしれませんが、相手からすると『この人は、自分が求めている以上のことをやろうとしてくれている』と、うれしい気持ちになるものです。そういう癖をつけると次の仕事でも活かせるし、逆に、そういう意識がないと、言われたことしかやらない人間になってしまいます」(尾形さん)

■5:回答を先延ばしにする

無駄に時間を置かないようにしよう
無駄に時間を置かないようにしよう

ビジネスシーンでは「断る」という場面も多くあります。営業の提案を断る場合、金額の折り合いがつかない場合など、言いづらいことでも、伝えないといけません。そんなとき、断りづらいからと「検討します」などと言って回答を先延ばしにしていると、相手に余計な時間を取らせることになります。

断ることが決まっているときは、先延ばしせず、きっぱりと断るのが相手のためでもあります。「検討します」と言うときは本当に検討の余地があるとき。その場合でも、「◯日までにお返事致します」と期日を明確にすることが大事です。

「自分に決定権がなく持ち帰る場合でも、その日中か遅くとも翌日までには返事をしないと、現代の時の流れに合わないですよね。『この条件ですと非常に難しいですが、ここをこうしていただければ、検討させていただけるんですが』という代替え案の提案をする。

もしくは、断るときもバッサリと断るのではなく、『今回は本当に申し訳ないんですが……』『本当はうちでやらせていただきたいんですが……』など、感謝や残念な気持ちを伝えるクッション言葉を入れることで、次につながります」(尾形さん)

■6:メモを取らない

誰かから依頼や指示を受けるとき、きちんとメモをとって確認する癖をつけているでしょうか? 新人のときはしていたけど、もう必要ないし……と、習慣にしていない方もいるかもしれません。ですが、人間の記憶力はそんなにアテにはなりません。一度聞いた指示を、上司に再度確認してばかりいると、信頼を失うだけではなく、上司にとっては二度手間、余計な時間を取らせる行為になります。

「『◯◯さーん』と呼ばれたらメモとペンを持っていく、これは仕事する人全員の基本です。新人であろうと役職者であろうと関係ありません。時間、場所……などの5W1Hをしっかりメモしておきましょう」(尾形さん)

■7:体調管理を疎かにする

息抜きも仕事のひとつ!
息抜きも仕事のひとつ!

仕事をしていれば、どうしてもストレスはつきもの。また、ハードワークが続けば、体調を崩すことだってあるでしょう。ですが仕事は、上司や取引先など周囲と連携して進めていくもの。休んだり、体調不良で作業効率が落ちれば、多くの人に迷惑をかけます。

自分でストレスや体調の管理をすることも、大切なマナーのひとつなのです。一週間のうち、どうしても残業しなければならない日が3日あるとしたら、2日は定時で帰るなど、スケジュール調整をしましょう。ストレス解消のために、余暇の時間を確保することも大切です。

「ただぼーっとしている時間にアイデアが浮かぶこともあるし、大好きな映画を見て『あー楽しかった』とリフレッシュしてその後、仕事に励めることもありますよね。身体を動かすとか、いろんな人に会ったりして刺激を受けると、休んでいても結果的に仕事にプラスになったりします。

企業のトップクラスの方では、ストレッチにしてもヨガにしても、身体を動かしている人は多いです。一日10分で脳の活性化につながり、仕事の効率にも関係するとのこと。楽しい気分で運動するといいですね」(尾形さん)

■8:すぐメールの返信をしない

メールは相手の都合にかかわらず送ることができるので、忙しいときに受け取ることもあります。ですが、相手は用件があってメールを送っているのだからで、返信が遅いと不安になるもの。業務時間内であれば原則的に1時間以内に返信することを心がけましょう。

忙しくてすぐに返事ができないようなときは「メール拝受いたしました。恐れ入りますが、確認に少し時間をいただきたいため、〇日に改めましてお返事させていただきます」と一言送るなど、「相手のメールを受け取っている」とわかる返事は一言入れるべきです。

「ビジネスメール調査実態のアンケートでも、メールは24時間以内で返信が欲しいと思っているという人が8割以上でした。あとで返信しようと思うと忘れてしまうので、気がついたら返信するのを癖にしましょう。忙しくてもとりあえず、メールを拝受したという返信のメールは、すぐに出したほうが相手も安心します」(尾形さん)

■9:読みにくいメールを送る

仕事によっては毎日何十通もメールが届く、という人も多いですよね。そんな相手には、読みづらかったり要点がわかりにくいメールでは、読んですらもらえない可能性もあります。そもそも、そういったメールは受け取った方にも余計な負担を与えるのでNGです。

内容がひと目でわかるタイトルをつけるのはもちろん、読みやすい文章を心がけましょう。文章量が多すぎないことはもちろん、適度な改行や行空けで、読む気になるメールにすることが大事です。

「とくに気をつけたいのは、結論から書くということ。件名に『~について』『~の件』などと明記するのはもちろん、本文でも複数の用件があるのであれば、伝えたいことを箇条書きにして『以下の◯項目についてご確認いただきたい』などとするのがポイントです。

また、最初と最後だけ丁寧であれば、全体が丁寧な印象になるので、中間の説明部分などはできるだけシンプルにわかりやすく、過剰な敬語は使わないほうが見やすいです。また、最後に天気や気温にからめる言葉、『これから桜の季節ですね』など、気配りのある言葉で締めてゆとりを感じさせるのも、企業で働く40代、50代の方にはおすすめです」(尾形さん)

■10:仕事の失敗の言い訳をする

時間を奪うのも、奪われるのもなるべく避けたいもの
時間を奪うのも、奪われるのもなるべく避けたいもの

仕事で失敗してしまったとき、つい言い訳してしまっていませんか? これはもちろん、言い訳を聞かされる方にとっては時間を奪われる行為にほかなりません。

「仕事として必要な事情の説明ならありですが、自分を守るための言い訳になっているなら、NGです。言い訳はせず、謝罪をして、今後は同じミスをしないために何ができるのか、どうするつもりなのかの説明をしましょう」(尾形さん)

いかがでしたか? 相手の時間を必要以上に奪わない、そして「相手が何をしたら喜ぶのか」ということを常に念頭に置いて行動すれば、今回挙げたような「やってしまいがちだけれど、実は非常識なNGマナー」で、周囲の信頼を損ねることもないはず。基本のマナーの積み重ねが周囲からの信頼を厚くし、仕事で結果を出すことにもつながりますよ。

尾形圭子さん
株式会社ヒューマンディスカバリー代表取締役/戦略的マナー講師/僧侶
(おがた けいこ)航空会社で研修やOJTのノウハウ、接遇の精神と技術を学び身につける。その後、大手書店、外資系化粧品会社などで、接客や人材育成に携わる。2000年に独立し、2005年に会社を設立。多様な業種でビジネスマナーを始めとして電話応対・クレーム対応などの研修を行う。著書は『接客用語辞典』(すばる舎)、『イラッとされないビジネスマナー 社会常識の正解』(サンクチュアリ出版)など20冊以上にのぼる。
『会社では教えてもらえない 結果を出す人のビジネスマナーのキホン』尾形圭子・著 すばる舎刊
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
ILLUSTRATION :
フクイサチヨ
WRITING :
Mami Azuma
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