誕生した頃から、完璧に完成されたものはないのかもしれません。それは多くの日本人が愛用する「メガネ」においても同じことなのではないでしょうか。

視力を補正する器具から、ファッションアイテムとしても定着した「メガネ」。現在ではさまざまなタイプのフレームやレンズが販売されており、ニュースキャスターの古舘伊知郎さんのように「服装やシーンに合わせてメガネを変える」という人も着実に増えてきています。

今回は老舗の眼鏡店、東京メガネ社長の白山聡一さんに、貴重な資料を数多く展示する博物館「東京メガネミュージアム」を案内していただきながら、「メガネ」の歴史を伺いました。

日本人が考えた「メガネの最大の工夫」とは? あなたのお気に入りのメガネはもしかすると、江戸時代のルーツを受け継いでいるかもしれません。ユニークで遊び心いっぱいなヨーロッパのメガネや日本が発案したメガネのパーツ部分など、クイズを交えてご紹介します。

■「レンズが発見」されたのに、とある宗教的理由がメガネの発展を妨げた

こちらはおよそ14世紀の「リベットメガネ」の複製品
こちらはおよそ14世紀の「リベットメガネ」の複製品

館内で最初に目についたのが、ヨーロッパで使われていたとされている、14世紀の「リベットメガネ」の複製品。すでに今のメガネに近しい形状に見えますが、こちらは片手で持ち、顔の前に当て、もう片方の手で拡大させたいものを動かし焦点を合わせるのだそう。メガネというよりは、虫眼鏡に近いかもしれません。

「メガネの起源は、視力補正器具として開発されたものでした。文字や物を拡大できる石の作用を偶然発見し、視力を助けるためのレンズが生まれたと言われています。しかし、このレンズの元となる考えのきっかけは想像でしかなく、詳細は未だ解明されていないんです。適度にカットしたガラスのような鉱物で、文字が見えやすくなることを最初に著作で発表したのは、10世紀のアラビアの数学者・アルハーゼンでした」

およそ16世紀のメガネ、鼻の形によっては使いにくそうです
およそ16世紀のメガネ、鼻の形によっては使いにくそうです

アルハーゼンの著書に影響を受けた13世紀ヨーロッパの修道士が、レンズの研究を盛んにしていたという記録は残っているそうです。しかし、これも断片的な記録でしかなく、前述のように、メガネの歴史は国際的に解明されていないことが多いのだとか。

では、なぜ記録が残っていないのでしょうか? それは当時「ある存在」が人間の視力を悪くすると考えられており、研究資料を残すことが阻まれたからなのです。

Q1:人間の視力を悪くすると考えられた「ある存在」とは、どちら?

1「悪魔」
2「神様」

「10〜13世紀頃のヨーロッパは、敬虔なキリスト教社会。神様の考えが絶対の社会です。年老いて視力が悪くなるのは、神様がすべての人間に、その魂の幸せのために同じ課題、同じ苦痛を与えているという考えがありました。なので、神様が目を悪くしているのに、わざわざそれに逆らうような働きをするメガネの研究は『けしからん』という向きもあったようです」

ハサミのようなメガネ。中心の柄をもち、顔の真正面にあてるのだとか
ハサミのようなメガネ。中心の柄をもち、顔の真正面にあてるのだとか

というわけで、正解は「2:神様」でした。

しかし、徐々にメガネの利便性が注目され、14世紀の終わりには、宗教画や文学作品に描かれるように。そして、一般に知られる道具となり、デザインの改良も進むようになるのです。

■その後「ヨーロッパの貴族社会で進化」したメガネは、ユニークで遊び心いっぱい

「ローネット」と呼ばれるメガネ。着用目的はアクセサリー感覚に近い
「ローネット」と呼ばれるメガネ。着用目的はアクセサリー感覚に近い
金やべっ甲など高級素材を使用した「ローネット」
金やべっ甲など高級素材を使用した「ローネット」

箱に並べられたこれらのメガネは、18〜19世紀のヨーロッパのもの。精緻なつくりでかわいいデザインのものばかりです。

「18世紀頃は、ヨーロッパでファッション文化が進展を遂げた時代です。たとえ不便でも、貴族という立場に見合う、美しいものを身につけたい…。そんな思いが工芸品とも言えるような、装飾性の高いメガネを誕生させたのでしょう」

扇の中心にレンズがあるメガネ。本当にメガネ!?
扇の中心にレンズがあるメガネ。本当にメガネ!?
香水瓶型のメガネ。「スパイグラス」と呼ばれている
香水瓶型のメガネ。「スパイグラス」と呼ばれている

18〜19世紀は、貴族たちが高価な服装に身を包み、自分たちのステータスを示していた時代。使う人の立場が身分の高い人であるなら、「付加価値を高めたい」という欲求を抱いたのは、当然のことだったのかもしれません。


さて、次は日本におけるメガネの歴史を見ていきましょう。

■メガネの「あの部分」は日本で発案されていた!

日本にメガネが初めて伝来したのは、16世紀頃のこと。室町幕府12代将軍の足利義晴に渡ったものが最初とも言われています。

こちらは足利義晴が所持した眼鏡と眼鏡匣のレプリカ
こちらは足利義晴が所持した眼鏡と眼鏡匣のレプリカ

ただ、日本で最初に伝来したメガネには、もうひとつの有力な説があるそう。それは、教科書に出てくるある人物によってもたらされたと言われています。

Q2:「ある人物」とは次のうち、どちらの人物?

1「フランシスコ・ザビエル」
2「ペリー」

「フランシスコ・ザビエルが16世紀初頭から半ばに、時の周防の国主に献上したのが、日本に最初に伝来したメガネ、という説もあります。足利義晴のメガネとどちらが最初のメガネか判明していませんが、いずれにしても日本にメガネが最初に伝えられたのは、およそ16世紀と言えます。ただ、ザビエルの方は実物が残っておらず、それがうかがえる記録があるだけなんです」

というわけで、正解は「1:フランシスコ・ザビエル」。

17世紀、ヨーロッパでメガネの生産が増えるようになると、日本にも数多く輸入されるようになり、それまでごく少数の人間だけが知っていたメガネは、日本でも徐々に知れ渡るように。まとまった量のメガネが入ってくると、より日本人が使いやすいようにオリジナルの改良が施されます

Q3:日本人が使いやすいように加えられた「メガネの工夫」とは?

1「鼻当てがつけられている」
2「紐がつけられている」

「日本にはヨーロッパで発明された紐で耳にかけるタイプのメガネが輸入されたのですが、そのメガネには鼻当てがなかった。欧米の方は鼻が高くて彫りも深いので、鼻当てがなくても快適に装着できたんですが、日本人は鼻当てがないと、レンズにまつ毛がついてしまう。そこで鼻当てを考えたと言われています」

鼻当てがつけられたメガネ。◯印部分が動き、眉間に立てるように使うそう
鼻当てがつけられたメガネ。◯印部分が動き、眉間に立てるように使うそう

正解は「1:鼻当てがつけられている」でした。

この「鼻当て」は、現在のメガネについている「鼻パッド」の原点。「鼻当てを最初に考案したのは日本人」ということは、国際的な見解なのだとか。

1850〜1920年代の「パンスヌ」と呼ばれるメガネ。こちらにも鼻当てがついている
1850〜1920年代の「パンスヌ」と呼ばれるメガネ。こちらにも鼻当てがついている

そして、明治時代になるとメガネはひとつの産業にまで発展。日本でもメガネを売る側が広告を出したり、精緻なものがつくられるようになったりしたことで、流通がさらに広がったようです。

■庶民の憧れがメガネのデザインを発展させた

今も人気のオシトン型のメガネ、こちらは高価なべっ甲でつくられている
今も人気のオシトン型のメガネ、こちらは高価なべっ甲でつくられている

「かつて、メガネは一定以上のステータスを示すものでした。ヨーロッパでは貴族の間でメガネが文化的に発展してきたのは、前述したとおり。庶民の目には、憧れのアイテムとして映ったことでしょう。『私もメガネをつけられるような人になりたい』という気持ちになる人も、少なくなかったはずです。

ステータスを示すものとして愛用されているという背景もあったからこそ、機能だけじゃなく、ファッションアイテムとしてもメガネが発展していったのです」

ボストン型のビンテージメガネ
ボストン型のビンテージメガネ

機能のみ求められた時代から、装飾的なデザインが施され、文化とともに多種多様な形を生み出したメガネ。日々愛用しているメガネも、そのルーツを受け継いでいるのかもしれません。あなたがメガネを新調する、というときは、さまざまなメガネを観察してみて、その奥深さをより一層楽しんでみてはいかがでしょうか?

問い合わせ先

関連記事

この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
2018.4.5 更新
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
EDIT&WRITING :
高橋優海(東京通信社)