最近、高級ホテルをはじめ、さまざまなレストランで流行しているビュッフェ。一度に、魚料理から肉料理、そして野菜やデザートまで、好きな食べ物を好きなだけ味わえるのがビュッフェの醍醐味です。

そもそもビュッフェとは、もともと配膳台という意味で、ゲスト自らコース料理順に料理が並べられているテーブルに料理を取りに行き、飲食をするスタイルを指します。ただ、フレンチのコース料理とは違って、「ビュッフェでのマナー」を教わったことがあるという人は、非常に少ないのではないでしょうか?

一体どうすれば、ビュッフェをいただく際に、恥をかかなくて済むでしょうか? ついついしてしまいがちなビュッフェでのNGマナーについて、日本プロトコール・マナー協会の船田三和子さんに教わりました。

■1:料理を取るために並んでいる人の列に「割り込む」

目移りしそうな料理の数々。列を乱さないように気を付けて
目移りしそうな料理の数々。列を乱さないように気を付けて

ビュッフェには立食形式と着席形式があり、ビジネスシーンなどでは立食形式が多いのですが、休日のランチタイムなどでは着席形式が多い傾向にあります。そのようなビュッフェの場合、船田さんは「料理を取るための列の並び方に注意しましょう」と言います。

「きちんと並んで順番を待ち、流れに沿って進んでいくことは、そこで食事をする人々が気持ちよく過ごすための、最低限のルールです。割り込むまではいかなくても、同時くらいに料理のテーブルに着きそうなときに、我先にと他人にぶつかってまで、いち早く料理を取ろうとする人をよく見かけます。エレガントな女性を目指すのであれば、『お先にどうぞ』と、相手を優先してあげるくらいの余裕を持ちたいものですね」

並ぶ前に、他の人の動きをよく見るようにしましょう。

■2:料理を取るときに「人と反対の流れ」をする

スウィーツをメイン料理より先に頂くのは、大人げない行為
スウィーツをメイン料理より先に頂くのは、大人げない行為

数あるメニューをどの順番で食べるのか、迷ってしまうこともあります。そんなときには「オードブルから取るようしてください」とのこと。

「料理は、例えば洋食ならオードブルからデザートまでコースの順に並んでいます。オードブルから取るのがマナーです。女性の場合、スウィーツが好きだからといって、すぐさまデザートの前に行かれる人を見かけます。これは見苦しい行為ですし、食の感覚も疑われてしまいますので、大まかな流れを守って料理を取りましょう」

料理に気を取られて、周りにまで注意が回らない場合もあるので要注意です。

「周りの様子を気にかけず人の流れと逆走すると、人とぶつかって料理をこぼしてしまう危険性がありますので、気をつけたいものです」

相手中心の目線で、マナーある動作を心がけましょう。

■3:周囲の迷惑を考えずに食事する

好きなものばかり、多くとりすぎたりするのはNG!
好きなものばかり、多くとりすぎたりするのはNG!

ビュッフェはコース料理とは違い、手にお皿をもって動くことになります。そのため、気がつかないうちに、粗相をしてしまうことも……。船田さんは、「皿を何枚も持ち歩いたり、汚く残したりするような行為は品がよくありません」と言います。以下の動作はNGなので、気をつけましょう。

(1)一度に何皿も持つ

ビュッフェでは、自分の分は自分で取るのがルールです。同席者の分も…と一度に何皿も持つと、品よく見えないのは勿論のこと、お料理を落としてしまって人に迷惑をかけてしまう危険性がありますので、避けましょう。また、手早くお料理を取って次の人に譲ることは、行列が伸びるのを防ぐことにもつながりますので、お互いにスムーズな時間を過ごすために心がけたいことですね。

(2)テーブルやドリンク台の前で話し込む

ときたま、料理が並ぶテーブルやドリンク台の前で、話し込んでいる人を見かけることがあります。当然ながら料理を取る人の導線の邪魔になりますので、やめましょう。周囲の方の様子も察しながら取りましょう。

(3)盛り付けを崩す

お客さまに喜んでいただけるよう、料理人はきれいに見栄えよく盛り付けてくれています。お客の側も味だけではなく、見た目の美しさも楽しみのひとつ。その気持ちを慮らず、自分が料理を取ることができればそれでよいとばかりに、盛り付けを崩して取り分けるのはマナー違反です。

好きな食材が乗っている部分を選んで取ったりせず、手前から順に、盛り付けを崩さずきれいに取り分けましょう。そうすることで、ほかのお客も料理人も、気持ちよく感じられるものです。また、サーバーやトングも汚く使って雑に戻さないようにしましょう。

(4)皿を持って歩き回る

無駄な動きが多くなりますと、ほかのお客の目障りにもなりますし、人とぶつかったり、飲み物や料理をこぼして迷惑をかけたりしてしまうこともあります。すぐに自分の席に戻りましょう。

(5)取った料理を残す

何度取りに行ってもよいのですから、美しく見える適量を盛り付けるように心がけて。お料理をたくさん取りすぎて、食べきれずに汚らしく残してしまうというのは、見苦しい行為です。

■4:皿を汚しながら食事する

また、ひとつの皿にいくつもの料理を乗せることができるビュッフェでは、気を抜いてしまうと皿の汚れが目立ちがちに。そのため、ひとつの皿に複数の料理を乗せたり、同じ皿を使い続けたりするのは、味にも影響するのでやめましょう。具体的には、以下の行動がNGです。

(1)冷たい料理と温かい料理、あるいは汁気のあるものとないものを同じ皿に取る

意外とやってしまいがちなのが、ひとつの皿にいろいろな種類の料理を乗せてしまうことです。

「ビュッフェと聞きますと、通常のコース料理より手抜き料理と捉える方がいます。決して、ビュッフェ=手抜き料理ではありません。料理人が一皿一皿、ていねいにつくっていることに変わりはありません。ですので、それぞれの料理をしっかりと味わえるよう、互いの料理の味を損なわないように、盛り付けることが大切です。それが、料理人への敬意としても伝わります」

(2)山盛りに盛り付ける

見た目にも品がありませんし、さまざまな料理の味が混じってしまい、美味しくいただくことができないので避けましょう。皿の大きさにもよりますが、一皿に盛り付ける目安は、3~4種類くらい、料理同士が混ざらないように盛り付けるとよいでしょう。

(3)同じ皿を使う

新しいお皿を使うのが面倒だったりすると、同じお皿を使い続けてしまうこともあります。

「同じ皿を使い回すと、料理の味も混ざってしまいますし、見た目もよくありません。新しい料理を取るときには、新しいお皿を使うようにしましょう」

■5:食べることにばかり専念する

豪華な食事に目が奪われても会話を忘れないで
豪華な食事に目が奪われても会話を忘れないで

時間制限があるビュッフェでは、つい食べることに夢中になってしまうと、会話を楽しむ余裕がなくなってしまいます。船田さんは、「会話も食事と同じように楽しんでください」と言います。

「食事のシーンでは、同席者との会話を楽しむこともマナーです。食べることに専念せず、食事のシーンに合った会話を心がけましょう。ただ、人のうわさ話や悪口、口論になるような話題は避けましょう。話すことが苦手な場合には、他の人の話ににっこり微笑んだり相槌を打ったりするだけでも、随分と雰囲気がよくなります」

コミュニケーションを楽しむことを忘れないようにしましょう。

■6:長居をする

そしてビュッフェでは、時間制になっていることが多いです。次のお客の迷惑にならぬよう、時間を超えて長居することなく、余裕をもって帰る準備をしましょう。

■7:スニーカーで行く

ホテルのビュッフェというと、カジュアルファッションでよいのか迷ってしまう人もいるのでは。船田さんは「高価なものではなくてもよいですが、ドレスコードに即した服装をしましょう」と言います。

「正装の必要はありません。ホテルやレストランでは、ドレスコードがある程度決められていることが多いので、それに則った装いを選びましょう。沢山のお客さまが皿やグラスを持って歩いているため、粗相をしてしまうこともありえます。汚れて困るような高価なものや、汚れが目立ちやすい服装は避けましょう。

また食べ物が取りやすいように、袖にボリュームがあるものや着物は避けたほうが無難です。食べ物を取るときに、うっかり袖が料理についてしまった…ということがないように、気をつけましょう」

また足元に関してもこのようなアドバイスが。

「ハイヒールは避け、歩きやすい靴を選びましょう。ビュッフェはどうしても歩く回数が多くなりますし、料理やドリンクをもって歩きますので、足が痛くならず、かつ安定感があるものがよいでしょう。歩きやすいからといって、スニーカーはカジュアルすぎますので避けてください」

そしてバッグなど手荷物は基本、クロークに預けましょう。

「バッグは、大きなカバンのほかに、貴重品を入れて料理を取りに行けるような、小さめのショルダーバッグを持参されることをお勧めします。貴重品を入れたカバンを席に置いたままお料理を取りに行くのは、いくらお客さまがたくさんいるとはいえ、少々不用心です。大きなカバンは、クロークがあるお店でしたらクロークに預け、クロークがなければ、テーブルの下、あるいは自分たちの席の空いている椅子にまとめて置きましょう」

コートなどの、かさばる上着も同様だそうです。

「コートも、クロークがあるお店ではクロークに預けましょう。クロークがない場合には、コートの内側を外に向けて、両端を畳んでから襟元のほうから丸めて小さくし、椅子やカバンの上に置きましょう。コートの内側を外に向ける理由は、外側はちりやほこりがついているため、食事のシーンには不衛生なためです。

また、襟元のほうから丸めていくのは、丸めやすいということもありますが、襟の内側についているブランドタグを見せないようにするためです。高級ブランドタグを周囲に見せるような行為は、下品に感じますよね」

ビュッフェスタイルでは、清潔感や気配りが大事と言えそうですね。

「髪型も、ロングヘアの人は、自分で気がつかないうちに人に触れていたり、料理に入ってしまっていたりすることがありますので、まとめておいた方が無難です」

髪の毛も長い場合は、綺麗にまとめて
髪の毛も長い場合は、綺麗にまとめて

最後に、船田さんに大人の女性らしく、優雅にビュッフェを楽しむ秘訣をお聞きしました。

「ビュッフェ=食べ放題=元を取らなくては=カジュアルという声を、よく耳にします。そして、その気持ちがカジュアルすぎる装い、見苦しい振る舞い、他人を不快にさせる振る舞いにつながってしまっているように思います。ビュッフェというのは、たくさんの方々と言葉を交わさずとも接している場ですので、お店のスタッフに自分の席へお料理を運んでいただける形式の食事より、より一層他者への配慮が必要な場なのです。

ビュッフェだからとジーンズにスニーカーで出かけるのではなく、少しだけおしゃれをして、背筋をピンと伸ばして笑顔で出かけてみてください。きっと、周囲へ配慮する余裕が生まれ、互いに心地よい時間・空間を過ごすことができるでしょう。そのような余裕がある人こそ、真にエレガントな女性だと思います」

いかがでしたでしょうか。ファッションも身軽になっていくこの季節。かしこまったコース料理ではなく、気の合う友人たちと華やかなビュッフェを囲んでみませんか?

船田三和子さん
一般社団法人日本プロトコール・マナー協会 代表理事
(ふなだみわこ)「自他共に心豊かに幸せに生きる」ことをモットーとし、プロトコールから生活全般にわたるトータル的なマナーまで幅広く提案している。一人ひとりの個性を生かすことを得意とし、人間関係や人生が大きく好転したと多くの受講生から好評をいただく。特に格式高いプロトコール(国際マナー)を身近な教養として提供することで、法人・個人問わず多くのファンを獲得している。現在は、プロトコール・マナー教室キャッスルトン(横浜校・南青山校)を主宰のほか、企業研修、教育業界での講師も務め、各種メディアにも多数出演している。
一般社団法人日本プロトコール・マナー協会
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
池守りぜね