【目次】

六麓荘の「場所」は?

■ 六麓荘のある芦屋市とは

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六麓荘町の街並み。広々とした道には、電柱や信号がありません /六麓荘町 町内会webサイトより

兵庫県芦屋市は、関西の高級住宅街として名高い街で、関西で暮らされている方に限らず憧れている人も多いのではないでしょうか?芦屋市は「国際文化住宅都市」を目指し、美しい景観を保つための施策を立てています。2016年には屋上を利用した広告やアドバルーン、ネオンサインを禁止する「芦屋市広告物条例」が施行され、「日本一厳しい屋外広告条例」としてニュースにもなりました。そんな芦屋市のなかでも特に高級といわれ、知る人ぞ知る住宅街が「六麓荘町(ろくろくそうちょう)」です。

■ 1区画400㎡以上、戸建のみ。独自の建築基準で、景観と暮らしを守り育む

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石積みが並ぶ、緑豊かな景観 /六麓荘町 町内会webサイトより

芦屋駅から北へ歩くこと約30分。六麓荘町へ足を踏み入れると、道路から信号や電柱がなくなります。景観を遮る高い建物はなく、広大な土地に広々と空間を使った邸宅と庭の緑に目を奪われます。見かける建物は、すべて戸建の住宅マンションの類はなく、商業施設にいたってはコンビニすらもありません。住宅だけが立ち並ぶ光景は、まさに「住宅街」です。この街並みを今日まで支えているのが、六麓荘町 町内会です。六麓荘町 町内会では、町内に新たな住宅や別荘を建てるときの手続きや建築基準を「六麓荘町建築協定」として設けています。

新たに建築があるときは、町内会に設置された建築協定運営委員会が事前に連絡・申請を受け、計画内容が協定に沿ったものか確認します。協定の項目には、以下のようなことが定められています。

● 1区画が400㎡以上の敷地であること
● 個人の住宅(別荘)として使う一戸建てのみ建築可能
(マンションのような集合住宅や、商店・オフィス利用は不可)
● 建築物の高さは、1階建または2階建まで
● 敷地の4割以上(地区により3割)は庭として緑地にすること
● 緑地部分10㎡につき、高木1本と中木2本を植えること
(参考:六麓荘町建築協定)

これらの取り決めはすべて、六甲山麓の眺望を愉しむとともに、自然と調和した豊かで静かな生活環境を住民がみんなで一緒になって育んでいくためなのだそう。例えば区画の広さの基準は土地の形状を可能な限り保つことになり、防災にもつながります。さらに、建築前には近隣住民を集めて「近隣説明会」を行います。説明会では、施主が用意した模型を見ながら、話し合いを進めるそう。

「建築協定や近隣説明会の目的は、この町で末長く一緒に生活するために、まちづくりの考えを共有することです。建物が居住目的のものであることを確認し、近隣住民とともに住環境や眺望について意見を交換します。話し合いを通して施主様がご理解くださり、実際に建築の内容や植栽を見直したこともあります」(川口氏)。自然を生かし、住民自ら住みよい環境を育む。なぜ、町内会がその役割を担い、近隣住民が集まる説明会まで開かれるのでしょうか? その文化は、町の成り立ちからはじまっていました。

六麓荘の「歴史」

■ 「東洋一の別荘地」を!理想の町を求め、香港島へ何度も足を運んだ開発者

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「初期の分譲案内」より、当時の開発現場の様子 /六麓荘町 町内会webサイトより

六麓荘町という町名は「六甲の麓の自然豊かな地に『東洋一の別荘地』をつくろう」という思いを込めてつけられたといわれています。開発開始は今から90年前の1928(昭和3)年。大阪の経済人を中心とする人々の出資により、町を開発・管理するための「株式会社六麓荘」が設立され、国有林の払い下げを受けてはじまりました。開発にあたってモデルとしたのは、香港島の白人専用地区。まだ海外渡航が一般的ではなく不便だった時代に、何度も香港島へ足を運び、イギリスの町づくり手法を学んだそうです。川口氏は、先人のこだわりを「単なる金儲け主義ではなく、自分たちが理想と考えた町をつくり、そこに住みたいという純粋なる発想からの出発が良かったのでしょう」と語ります。

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左上:六麓荘町の建町当初につくられたロゴ。「六」の漢字を円周に6つ並べ、中央に「荘」と書かれている 左下:ロゴ入りの特注で作られた初期のマンホール 右:ロゴの入った街灯の台座 /六麓荘町 町内会webサイトより

現在の六麓荘町 町内会は「環境、風致の保全と町の健全な発展及び治安、 会員相互の親睦」を目的に15名の理事で構成され、先人の建てた町と思いを引き継いでいます。

■ 六麓荘町にも訪れたミニ開発の波。建築協定を紳士協定から芦屋市の条例へ

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春には各邸宅の庭に植えられた桜が咲き乱れます /六麓荘町 町内会webサイトより

長らく「六麓荘町建築協定」と町内会の取り組みで街並みを育み守ってきた六麓荘町。しかし、2007年に協定の一部が「六麓荘町地区地区計画」として芦屋市の条例になりました。条例化の活動は2003年からスタート。実に4年の歳月をかけての達成です。それまでは新たな建築の管理を町内会で行っていたにもかかわらず、なぜ条例化に取り組んだのでしょうか?「周辺地域でミニ開発が活発化していたなか、六麓荘町でも大きな敷地を分割する開発や、庭や樹木のない小区画の家の建築がされはじめました。町が変わっていく様子を肌で感じる住民の危機意識が高まり、町内会による紳士協定だけでは限界なのではないかと心配されていました」(川口氏)。

(ミニ開発:1,000㎡未満の土地を細分化し、100㎡未満の敷地面積で建築する開発のこと)

かつては道路を所有・管理していたという町内会。そのため、発言権も強く、建築協定は強力なルールだったそうです。住民との間でも「素晴らしい町をつくる」という目的で合意が取れており、法的な力を持たない町内会の協定のみでも理想の町づくりに取り組めたといいます。しかし、その道路も老朽化によって町内会による維持管理が難しくなったとのこと。そこで、道路の管理を芦屋市に委託するようになりました。「道路の管理を移管したことで、紳士協定であった建築協定は効力を失いました。そして、造成業者や建築業者が予想外の工事を始めるようになりました。条例化は、緊急のニーズでした」(川口氏)。

協定が条例化されてからは、最低限度の部分は行政の管轄で守られるようになったといいます。一方で、協定の目的である「理想の町づくり」を共に担うことではなく、条例の項目を守ることに視点が置かれ「それまでに比べると空間の余裕が少ない設計も増えたと感じる」と川口氏は話します。

六麓荘の「魅力」

■ 安心で安全、住み良い町を。六麓荘町の取り組み

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広々とした六麓荘町の道路。かつては、町内会が所有・管理していました /六麓荘町 町内会webサイトより

町内会では新たな建築に関することのほかにも、町の暮らしを守る取り組みを行っています。例えば、六麓荘町の公民館に当たる「六麓荘倶楽部」は、行政の補助金に頼ることなく町内会の予算のみで建てた施設です。1階は六麓荘町駐在所となっており、2階は会議や文化サークルの活動で使われています。また、町内には随所に防犯カメラを設置し、町の安心安全に努めています。これらの所有や維持・管理にかかる費用は、すべて町内会の入会賛助金と会費でまかなわれているとのこと。そのため、入会賛助金は一律500,000円と定められています。さらに、町内会ではコミュニティーの活性化にも取り組んでおり、定期的に花苗の配布や清掃活動を行なっているとのこと。行事の案内は事務局から町内250世帯へ一斉にメールやFAXで届けています。

六麓荘町は住宅だけの町ですので、安心と安全が第一です。お互いに展望を阻害しない建物や快適な散歩ができる街並みは、特に素晴らしいと感じているところでもあり、これからも守っていきたいところでもあります」(川口氏)。

■ まずは町内会へ連絡を。これから六麓荘町へ住まわれる方へ

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補助金に頼ることなく建てられた六麓荘倶楽部。六角形の建物で、1階は駐在所になっています /六麓荘町 町内会webサイトより

最後に、これから六麓荘町へ住みたいと考えている人に気をつけて欲しいことを伺いました。「まずは、町内会へ連絡をしてください。私たちは、設計や工事の事業者ではなく、これから一緒に町をつくっていく住民として、施主様と直接お話したいと考えております。新たに家を建てられる場合は、近隣説明会へも施主様にぜひご出席いただきたいです。互いに誤解なくスムーズに話し合えるのみでなく、近隣の方との良いお付き合いの始まりの場にもなると思っております。

また、六麓荘町はこれまで住民が町をつくってきた歴史があり、道路や町内会館『六麓荘倶楽部』は町内会を通して住民みんなで所有しています。町内に家を所有された際は、住宅であっても別荘であっても町内会への入会をお願いしております」(川口氏)また、川口氏は「近隣への転入の挨拶も早めに」と話します。「六麓荘は山麓にある住宅地です。眺望がいいのは素晴らしい点ですが、過去には震災だけでなく土石流の経験もあります。『防災』『減災』の観点からも、近隣での積極的なコミュニケーションや町内会へのご協力をお願いします」(川口氏)。町内会へ入会する。転入の挨拶を早めにし、近隣の方とコミュニケーションをとる。シンプルなことですが、安心安全の暮らしを育むために、重要なポイントです。

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六麓荘町の街並み。秋には庭に植わった紅葉が美しく染まります /六麓荘町 町内会webサイトより

今回は、暮らしと環境へこだわりを持って活動する六麓荘町の町内会についてご紹介しました。暮らしへのこだわりは、誰しもが抱いているもの。みなさんは、どんなこだわりを持っていますか? 近隣の方と話してみたり、地域のイベントに参加してみたりすると、暮らしの環境がまた変化するかもしれません。

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この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
2022.11.8 更新
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PHOTO :
六麓荘町 町内会
EDIT&WRITING :
廣瀬 翼(東京通信社)