予約至難。その言葉だけで、値段や料理の内容などお構いなしにとにかく行ってみたいと言う人が多いそうで、数ヶ月先まで予約で一杯という店が増え、東京はちょっとした食バブルなのかもしれない。車の渋滞が嫌いでマイカーを持たない私は、ラーメン屋の行列に並ぶのもイヤ。何ヶ月も先、ましてや1年後の予約をするなんて店は、基本的に遠慮している。

予約殺到の隠れた名店「荒木町たつや」

わずか8席のカウンター

奥行きのあるカウンターは8席。客席の後ろ側のスペースにも余裕があり、広々として寛げる。
奥行きのあるカウンターは8席。客席の後ろ側のスペースにも余裕があり、広々として寛げる。

昨年知り合った料理人、石山竜也さんが独立するというのでオープン当初に伺った『荒木町たつや』は、神楽坂『蓮』の出身ということもあり、瞬く間に予約至難となってしまった。『石かわ』『虎白』『蓮』の3店で合計8つもミシュランの星を取っていて、その流れで客が殺到しているのだろう。今では2か月先までほとんど予約が埋まっている。遅い時間からなら、空いている日もあるということで、4か月ぶりに再訪してみた。

料理は7,500円のおまかせコースのみ。値段設定がまず手頃。「日常的にふらっと立ち寄ってもらえる店にしたい」という石山さんは、たった一人で料理からお酒の提供までこなす。席数8席のカウンターで、基本的に1日4組しか受けないことで、なんとかバランスを取っているのだ。

その料理は、刺身、揚げ物、椀物、甘味まで含め、この日は全7皿。特に印象に残ったのは、蛤と季節野菜を使った椀物だ。過不足ない濃くと旨み、野菜の甘みも十二分に引き出され、優しいだけでなく、深い味わいに仕上がっている。よく、京料理を標榜している店で、京都出身の私でも味が薄すぎると感じることがある。出汁の色が薄いのと、味や濃くが薄いのとは別。「ああ勘違い」な料理に失望することも多いが、この『荒木町たつや』のような芳醇な味わいなら安心できる。

旬の日本料理を堪能できる

刺身の盛り合わせ。この日は、ウニ、イカ、ヒラメなどとともに、旬のサクラマスが添えられた。
刺身の盛り合わせ。この日は、ウニ、イカ、ヒラメなどとともに、旬のサクラマスが添えられた。
ハマグリと季節野菜の暖かいお椀。心も体も暖まる、地味深い味わい。
ハマグリと季節野菜の暖かいお椀。心も体も暖まる、地味深い味わい。
旬のタケノコなどを添えた牛肉のしゃぶしゃぶ。その後は出汁を使った雑炊に。
旬のタケノコなどを添えた牛肉のしゃぶしゃぶ。その後は出汁を使った雑炊に。

店のお酒のリストを開くと、日本ワインがずらり。じつは石山さん、ワイナリーの収穫を手伝いに行くほどの大のワイン好き。実際にワイナリーを訪ねて、確信が持てたアイテムのみをオンリストしている。この日のワインリストは、全33種類のうち28種類が日本ワインだった。リストに載っていない隠し球もあったりする。日本酒も同様、楽しいラインナップ。私が個人的に好きな芳醇旨口系も多く、この日は、山梨・イケダワイナリーの甲州のあと、福島の日本酒「一歩己(いぶき)」を飲み比べ。そんなふうに酒をあれこれ楽しむ客が多いから、通常食事の所要時間は3時間ほどかかる。

日本酒・ワインの飲み比べ

イケダワイナリーの白ワインは甲州。センス抜群の樽熟成。日本酒は福島の銘酒「一歩己」のおりがらみと無濾過生原酒を少しずつ飲み比べ。
イケダワイナリーの白ワインは甲州。センス抜群の樽熟成。日本酒は福島の銘酒「一歩己」のおりがらみと無濾過生原酒を少しずつ飲み比べ。

荒木町とはいえ、分かりにくい路地の先。店の前を車や泥酔客が通ることもなく、本当に静かな場所。BGMもなく静寂が支配する店内にいると、ゆっくりと時間が過ぎていくのが感じられ、あたかもどこか地方のはずれにある小料理屋に来たような気分だ。こういう空間で、洗練されながらも豊かな味わいの和食を楽しめるとは、なんという贅沢であろう。一人でも何の問題もない。唯一の欠点は、次回の予約がずいぶん先になってしまうこと。3か月先となると季節も変わり、食材も変わる。いや、それでいいんじゃないか。季節ごとにふらりと訪れて、心も体も豊かになれる料理を楽しむ。和食割烹の本来あるべき姿なのかもしれない。

【お問い合わせ】

■荒木町 たつや
東京都新宿区荒木町10番地 タウンコートNANAUMIビル1F
TEL:03-6709-8087
営業時間:17時30分~24時(L.O.22時)
定休日:水曜日、祝日休み(日曜不定休あり)
アクセス:四谷三丁目駅より徒歩約5分
公式Facebook https://www.facebook.com/荒木町たつや-504247113264677/

この記事の執筆者
インド生まれの京都育ち、というのは冗談。京都で生まれ育ち、東京へ。人より長い大学生活を送るなか、バイトで漫画『セイシュンの食卓』に関わり、出版社に就職。雑誌編集者として食べ歩きをするうちに、ワインにハマり、週末自宅でMEN’Sクッキングをするように。訪ねたイタリアン・フレンチなどの軒数は国内外で2000軒超。サライ増刊『男のだいどこ クッキングサライ』、『美味サライ』編集長を経て、今は“なんでもやる課”(笑)。辻調理師専門学校の料理検定1級。クックパッドでのレシピ投稿数は100目前。
公式サイト:インディ藤田 のキッチン