国内の高級ホテルや高級レストランで、VIP対応のおもてなしをされると、より贅沢を感じ、より心地良い時間を過ごすことができます。そして、そのようなおもてなしを受けられるかどうかは、客として訪れた自分自身のふるまいにも関係しているのです。今回は、おもてなし協会の代表理事である直井みずほさんに、高級ホテルやレストランなどでの、「サービスマンへの理想的な作法」を教わります。洗練させれば、きっとVIP対応のおもてなしが受けられるはずです。

今回、お話を伺ったおもてなし協会の代表理事である直井みずほさんは、御三家ホテル、航空会社にて多くのVIPをおもてなししてきた経歴を持つ方。そのリアルな体験とおもてなし接遇講師の経験をもとに、高級ホテルやレストランなどで、客としてのサービスマンへの理想的な対応や作法を教わります。

高級ホテルやレストランでの、サービスマンへのNG行動3つ

まずはNG例からチェック。高級ホテルやレストランで、次のような行動は、頭ではいけないと分かっていても、ついやってしまうことも。直井さんには、次の3つの行動がなぜいけないのかを解説していただきました。

■1:レストランで「着席しながら」携帯電話で会話する

レストランでの着席中に電話で話をするのはNG
レストランでの着席中に電話で話をするのはNG

「レストランは、おいしい食事を共にする相手と会話をしながら楽しむ場です。電話は、機器を通して話すため、対面で話すときより声が大きくなる傾向があります。周りのお食事を楽しんでいる方を不快にさせない行動が必要です。どうしてもという場合、席を立って電話スペースなど、電話してもいい場所で行うなど配慮を」

■2:ホテルでスタッフに「あの荷物運んで」などと命令しまくる

何かお願いをするときには「申し訳ないですが」などと、クッション言葉を使うのがスマート
何かお願いをするときには「申し訳ないですが」などと、クッション言葉を使うのがスマート

「ホテルのスタッフは、使用人ではありません。スタッフにとって、客はゲストであり、ご主人様ではありません。もしスタッフがたった今『やろう』と思っていたことを言われ続けると、『お願い』でなく『注意』を受けていると感じ取られます。もし、何かお願いをするときには『申し訳ないですが』など、クッション言葉を使うとやわらかく伝わります」

■3:ホテルのフロントで値段の交渉をする

ホテルのフロントで値段交渉をするのはNG
ホテルのフロントで値段交渉をするのはNG

「プライベートで使うホテルは基本的に贅沢品です。値段の交渉をするのは、予算不足が理由のひとつと考えられますが、ハレの機会に、日常では経験できない非日常を味わう理由で訪れているのであれば、予算もなくホテルを利用することはおかしいと映ってしまいます」

高級ホテルやレストランのサービスマンが「VIP対応したくなる客」とは?

「VIP対応したくなる客」とは?
「VIP対応したくなる客」とは?

では、サービスマンにとって丁寧に対応したくなる客とはどのような人なのでしょうか。

直井さんによると、ホテルやレストランでは、スタッフはすべての客に丁寧で親切、迅速で正確なおもてなしができるように努めていますが、日本のベストホテルのメインダイニングを訪れた多くのVIPの中には、なぜか積極的に細やかなおもてなしをしたくなる客がいたそうです。直井さんが対応した、そのお客に共通する3つの作法を挙げていただきました。

■作法1:身が整えられている

「身とは、『身だしなみ』と『姿勢』のこと。ひと目できちんと感がにじみでている方は存在感が違います。服装以上に、身体そのものに手抜きがありません。ヘアスタイルから、指先、足元に至る細部まで手入れが行き届いています。身だしなみには、その方の人となりや生活習慣があらわれます。日々の努力で積み重ねられた身だしなみは心まで整えられ、総じて背筋がピンと伸びており、姿勢も美しい。そのようなお客様の周りには、清められた空気が漂っています。その場しのぎでは決してまとえない日常における心がけの美は、サービスマンへ最高の礼儀が伝わります」

■作法2:感謝がある

「サービスマンにとって、自分のおもてなしに対する『ありがとう』の反応は最もうれしいもの。感謝は、サービスマンへの承認行為であり、肯定感を味わえます。料理を提供されたとき、グラスにワインを注がれたとき、ちょっと会釈されるだけで、誰でも快い気持ちになるもの。だから、サービスマンは、Thank youに出会える客へ積極的にサービスをしたくなるのです」

■作法3:頻度の高い目合わせ(アイコンタクト)がある

「人との関係において、もっとも強力な関係を築くコミュニケーションは『目』であることは誰も疑わないでしょう。アイコンタクトにより、お互いが親愛の情を抱きます。人は、好意を持つ相手に、何かと尽くしたくなるもの。サービスマンと視線を交わし合う機会が多ければ多いほど、あなたに目をかけ、気にかけ、手をかけてくれることでしょう。目は人の心を語るもの。やわらかにサービスマンを包み込むような眼差しを頻度高く向ければ、同じように、あなたにも関心を表す優しい眼差しが注がれ、うれしいおもてなしとなって返ってくることでしょう」

日本と西洋の「サービスマンと客」の関係の違い

日本と西洋の「サービスマンと客」の関係の違い
日本と西洋の「サービスマンと客」の関係の違い

日本で最高のおもてなしを受けるには、サービスマンと客の関係性をよく理解することが大切だと、直井さんは話します。

「日本には、もてなす側ともてなされる側の心が通い合い、気持ちの良い状態が生まれるという『一座建立(いちざこんりゅう)』というおもてなしの源流となる考え方があります。西洋型サービスは、チップ社会を背景に、客とサービスマンは、主人と執事の関係です。それに対し、日本のおもてなしは、ひとつの時間・空間を一緒に一体となって創り上げる『主客一体』の関係が根底にあります。

お客様とサービスマンがお互いにひびきあい、その場そのとき、お互いが気持ちよく思い遣ってこそ成せる世界。『礼をもてば、礼で尽くされる』作法を身につけ、VIP対応のおもてなしに出合ってみましょう」

高級ホテルやレストランで心地よく思い出に残る時間を過ごすためにも、ぜひ今回教えていただいた基本的な精神を持ち、3つのお作法を実践したいですね。

直井みずほさん
おもてなし協会代表理事、おもてなし伝道士、マナーマイスター
(なおい みずほ)御三家ホテル、航空会社にて多くのVIPをおもてなし。おもてなしをつなぐひろげることをテーマに「おもてなし検定」を行うおもてなし協会を設立。コミュニケーション、マナー等出版本多数。おもてなしを推進する指導者の育成やおもてなしに関するコミュニティ・セミナーに注力している。
おもてなし協会
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
石原亜香利