クルマの印象を決めるグリル回りを統一して、ブランド力を誇示するのは近年のトレンドだが、アルファロメオは100年以上前から、その手法を貫いてきた。本拠地ミラノの紋章である赤十字と、中世に当地を支配していたビスコンティ家の紋章である大蛇を組み合わせたエンブレム。

逆三角形のグリルは盾がモチーフだ。そんな由緒正しき老舗を、イタリア人は誇りに思っている。スポーティな走りっぷりも人気の源だ。なにしろ20世紀前半のアルファロメオは、ヨーロッパ随一のレーシングコンストラクターであり、実戦で得た技術を惜しみなく市販モデルに投入する、高級スポーツカーブランドだった。

由緒正しき大衆車ブランドがもたらす日常の刺激

アルファロメオ『ジュリア』

1960~'70年代を代表する名車の後継は、自然で上質な操舵フィールを誇る後輪駆動へのこだわりと、強面系が好まれる昨今の潮流に逆らうデザインが魅力。日常のなかでその個性を味わえる、『ジュリア ヴェローチェ』がベストだ。
1960~'70年代を代表する名車の後継は、自然で上質な操舵フィールを誇る後輪駆動へのこだわりと、強面系が好まれる昨今の潮流に逆らうデザインが魅力。日常のなかでその個性を味わえる、『ジュリア ヴェローチェ』がベストだ。

戦争が終わると、大衆量産車メーカーへと転換するが、創業時からの哲学は揺らぐことがなく、エンジンや足回りなどのメカニズムは常に先進的。

小型・中型車をベースに、高性能でエレガントな派生モデルを次々とつくりだした。スピードを愛し、美しいものに目がないイタリア人にとって、アルファロメオは刺激的な存在であり、無類のクルマ好きの間では、ニューモデルが出るとたちまち噂になった。

イタリアには高性能に特化したスーパー・スポーツカーブランドもあるが、アルファロメオは大衆車が軸であるがゆえに、そのパフォーマンスは生活に直結する。

一時は性能を追求するあまり、生産効率が悪化して経営が揺らいだこともあったが、そんな危うさも含めて、娘のように『ジュリア』『ジュリエッタ』と名付けられたクルマを、イタリア人は自分の恋人として愛おしんできたのだ。

復活した『ジュリア』にも、その伝統は継承されている。大柄にはなったが、軽快感にあふれ、中核モデル『ジュリアヴェローチェ』でも十分にスポーティ。

むしろ、走る愉しみを大衆に開放している点で、非日常的な高性能を重視した最上級モデル、『ジュリアクアドリフォリオ』よりもアルファロメオらしい。デザインも見事だ。

サルーンの居住性を犠牲にすることなく、曲線を巧みに盛り込み、伝統のエンブレムとグリルを持つ顔も含めて、どこか女性的な優しさが漂う。

日本の洒落者にも大きな影響を与えた名画に登場する男たちのように、この新世代『ジュリア』を無造作に走らせ、愛で、語る。大衆のための「ラグジュアリー・スポーツカー」で、めくるめくような愉しいひとときを過ごしていただきたい。

アルファロメオ『ジュリア ヴェローチェ』
ボディサイズ:全長4,655×全幅1,865×全高1,435㎜
車両重量:1,630~1,670kg
エンジン:直列4気筒マルチエア・ターボ
総排気量:1,995cc
最高出力:280PS/5,250rpm
最大トルク:400Nm/2,250rpm
トランスミッション:8速AT
価格:¥5,435,185~(FCAジャパン〈アルファロメオ〉)

※価格はすべて税抜です。※2018年夏号掲載時の情報です。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2018年夏号ラグジュアリー・ スポーツカーを味わい尽くす
名品の魅力を伝える「モノ語りマガジン」を手がける編集者集団です。メンズ・ラグジュアリーのモノ・コト・知識情報、服装のHow toや選ぶべきクルマ、味わうべき美食などの情報を提供します。
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クレジット :
撮影/柏田芳敬(車両)、唐澤光也(パイルドライバー・静物)スタイリスト/大西陽一 構成/櫻井 香