映画を観たい、観なくちゃと思うのだけれど、ついついサッカー、ワールドカップを観てしまう。いまのところ全試合、完観(かんみ)である。

 まあ、いいでしょ? 4年に1度しかないスペクタクル、リアルな問題として「あと何回観られるか」というのがぼくら60代という年頃なんだから。

『英国王のスピーチ』で一躍有名になったトム・フーパー監督

イングランドサッカーの内面がわかる「くたばれ! ユナイテッド -サッカー万歳!- 」

「くたばれ!ユナイテッド -サッカー万歳!- 」(2009)写真:Everett Collection/アフロ

 それほど入っているのは、日本が出場しているせいもあるが、今回のロシア大会は出場32ヵ国の実力が拮抗し、どの試合も一方的にならず、サッカーの試合として文句なくおもしろいからである。

 もっともこの傾向は、2010年の南アフリカ大会あたりから顕われていて、自国開催でもないのに岡ちゃんジャパンが決勝トーナメントに駒を進められたのがなによりの証拠。そもそも予選の段階で常連国のイタリア、オランダ、チリが破れ、出場できないぐらい、いままで「カモ」だったアイスランドのようなサッカー小・中国が力をつけたのである。

「くたばれ!ユナイテッド -サッカー万歳!- 」(2009)写真:Everett Collection/アフロ

 こいつはかわいそうだなあと思ったのはハリー・ケーンに思うさまやられたG組イングランド×パナマ戦(6-1)ぐらいなもので、日本×コロンビア、日本×セネガルに代表されるようにFIFAランク下位のチーム(日本のランクは32ヵ国中下から3番目の61位)が上位と堂々と渡り合っている。ロシア(70位)の2勝は別格として、サウジアラビア(67位)、ナイジェリア(48位)などそれぞれ2戦してきちっと1勝をあげているのである(6/27現在)。ランキング上位チームもうかうかしてられないからガチでつぶしにかかる。グループリーグの初戦から本気がぶつかるからオモシロイのである。

 その縮図のようなグループがアルゼンチン、クロアチア、ナイジェリア、アイスランドのD組だ。

 世界的には、1億とも2億とも言われるサッカー競技人口だが、その頂点に立つプレーヤー、リオネル・メッシ(バルセロナ)を擁し、ブラジルと並ぶ南米のサッカー大国アルゼンチンが地獄でのたうちまわる姿! ポルトガルのようにロナルドひとりにおんぶしているチームならいざしらず、メッシのほかにも世界中どの代表チームでもトップを張れる名選手イグアイン(ユベントス)、ディバラ(同)、アグエロ(マンチェスターシティ)、ディマリア(パリSG)がメッシの回りを固めているいるのに、いったいどうしたことなんだ? 誰もがアルゼンチンの1位通過を予想したじゃないか!

 彼ら、年収何十億のセレブアスリートがおよそサッカー選手として考えうる最悪の状況のなか、ピッチで凍り付いている姿こそ、サッカーという原始的ボール競技が持つ本来の不確実性に、中小国のレベルアップが乗じておこる混沌。今大会ではこれがブラジル、ドイツ、スペインなど優勝候補に等しくおきている。極端に言えば、以前は、日本戦を除き、16強からの試合をどれどれと観ればよかったが、ロシア大会はグループリーグまでもがオモシロイ。これはそうとうスポーツイベントとしてのバリューを上げたのではないか。

 結果的にアルゼンチンは「奇跡の」決勝トーナメント進出を果たし、ムバッペが躍動するフランスとぶつかる。これで日本が明日ポーランドとうまいことをやって、16強入りしたらウレシイんですけどねえ。日本中の盛り上がりもすさまじいことになるだろう。

 今回のワールドカップをご覧になって、サッカーのドラマに魅了された方、世界のサッカーファンの熱狂ぶりに圧倒された方、その余韻さめやらぬうちに観ていただきたい映画を一つ紹介させていただきたい。

「くたばれ!ユナイテッド -サッカー万歳!- 」(2009)写真:Everett Collection/アフロ

『英国王のスピーチ』でアカデミー監督賞を取ったトム・フーパー監督の2009年作品『くたばれ!ユナイテッド -サッカー万歳!-』(The Damned United)なんてぼくの好きなスポーツ映画のベスト10に入るね。

 イングランドの2部リーグ、ダービー・カウンティの監督ブライアン・クラフの監督人生を、前年の『フロスト×ニクソン』でデヴィッド・フロスト役で注目を浴びた名優マイケル・シーンが演じている。

「くたばれ!ユナイテッド -サッカー万歳!- 」(2009)写真:Everett Collection/アフロ

イングランドのプロサッカ―の内幕的な部分のリアリティがここまで丹念に描かれた作品は少ないと思うし、デヴィッド・フロストのときもそうだったが、一敗地にまみれた男が再び立ち上がっていくドラマを演じさせたらシーンはうまい。

 英国というと、メンプレ的にはついつい古今のロイヤルや貴族・上流階級の連中をネタとして取り上げてしまう。だが、彼らが英国の「上澄み」としてふんぞり返っていられるのも、クラフのようなたたき上げの男たちが特太の屋台骨になって支えているからだときづかせてくれる。