物語などで語られる貴族のような優雅な暮らし、憧れますよね。エレガントで気品のある上流階級の人たちは、実際にどのような日々を過ごしているのでしょうか? 18世紀から続くフランスの伯爵家に嫁いだドメストル美紀さんに疑問をぶつけると、「伯爵夫人たちは、すべてにおいて『美しさ』に軸を置き、暮らし、生きています」とのお答えが。

特別な家庭の生まれではなくても、ストレスフリーで余裕があって、気持ちのいい毎日を送りたいものですよね。そこでドメストルさんから、ごく普通の人でも、上質な日々を過ごすための良習慣を紹介いただきました。ぜひ以下の6つを参考にして、毎日を美しく生きる第一歩を踏み出してみてください。

「上質な毎日」を過ごせるようになる、6つの良習慣

■1:どんなときも人に「依存しない」

人に頼ることと依存することは違う
人に頼ることと依存することは違う

落ち込んだとき、悩んだとき、すぐ家族や友人に話しを聞いてもらう人はいませんか?

フランスの伯爵夫人たちは、「不安も動揺もそして痛みも、ぐっと奥歯を食いしばり、口では微笑むのが、大人のエレガンスになる」と考えているそうです。

「私の義母のカトリーヌは、例えば私がインテリアのことで、『こうしたいと思っているけれど、どう思いますか?』とアドバイスを請うと、嬉々として答えてくれます。ただ一方で、甘えられることは嫌なようです。

同じインテリアを例に説明するのであれば、もし私が、『どうしたいのかわからない、助けて!』と丸投げしようものなら、『ご自分の家のインテリアをどうしたいかもわからないなんて、恥ずかしい。貴女は自分がないのか』と厳しく説教することでしょう。

私の周りにいる貴族の女性を見ていると、彼女達は、決断力があるということに誇りを持っているように感じます。そうやって自分で決断し、取った行動が吉と出ると、それが自信に繋がって、益々彼女達を輝かせるのでしょう」(ドメストルさん)

常に誰かに甘えるのではなく、どんな時もまずは自分で考えて、行動する。自分の力でしっかり考えた上で、それでも行き詰まったときには、アドバイスを求めるようにしたいですね。

■2:人に「自分の弱み」を見せない

自分の弱みに付け込まれないように!
自分の弱みに付け込まれないように!

フランスの伯爵夫人は、弱みを見せないことも徹底しているといいます。例えば、体調がすぐれないとき。「昨日から辛くて……酷い顔でしょう?」と自分から話題に出してしまう人もいるでしょう。

しかしフランスの伯爵夫人は、そのようなことは決して言わないそうです。「いかがお過ごしですか?」と聞かれれば、たとえ体調が悪くても、「順風満帆よ」というポーズを崩さないとのこと。それは、愚痴はみっともない、そして下手に弱点を見せるとつけ込まれる、というのが理由になるといいます。

「フランスは、日本以上に弱肉強食の国。ご年配の知人は、ご主人が亡くなられ、葬儀の告知がフランスの主要な新聞・フィガロ紙に掲載された翌日から、郵便ポストには老人ホームのダイレクトメールやら、『私は介護のエキスパートです』といった売り込みチラシなどであふれるようになり、うんざりと言っていました。

たとえ実際はそうでなくとも、貴族イコールお金持ちと思われがちですので、警戒度が高いのだと思います。また弱いところは見せたくないというプライドの問題もあり、弱みは見せないことを徹底しているのでしょう」(ドメストルさん)

弱いところをアピールするのではなく、弱いところは見せないところが美学になるのです。

■3:思いを手書きで伝える

直筆は気持ちを落ち着かせる効果も
直筆は気持ちを落ち着かせる効果も

パソコンやスマートフォンが主流の今、手書きをする機会は減っています。しかし、フランスの伯爵夫人は、気軽なティータイムに招待された時にも、メールで済ませるのではなく、必ず手書きの御礼状を送るといいます。

「この習慣は子どもの頃から躾られることのようで、私の子どもたちも、祖父母宅としょっちゅう往き来があるのですが、毎回夫に急かされて、御礼の手紙を書いています」(ドメストルさん)

ドメストルさんの義母は、机の引き出しに便箋とカード、封筒、切手を常備し、「あの方、どうしているのだろう」と思ったら、すぐに手紙を書いて、投函できるようにしているそうです。

ドメストルさんは、「郵便で来た手書きの文書や物品への返事は、同じく、郵便、そして手書きで返しましょう。また御礼状やお悔やみの手紙は、手書きの方が気持ちが伝わります。メールで来ると『忙しいから後で読もう』と思ったり、『ざーっとスクロールしてお終い』となったりしませんか? そして書く方も、メールだと、手早く書いて送信しちゃえ、と思うでしょう。

それが手紙だと、読むときは便箋を開いて、紙が重なる、カサコソという音を聴いているうちに、何故だか気持ちが落ち着いて、手書きの一文字一文字を大切に拾おうとします。書くときも、メールのときより言葉を真剣に選ぶ、そんな作用があるように感じます」と指摘します。

手紙を書く機会がない場合には、日記でもよいとのこと。

「自分自身の、その時の気持ちを省みて文章にする。この作業の中で、自分を見つめ直し、静かな時間が持てることでしょう。もし三日坊主になりそうだなと思う方は、将来の自分が読むために書くといいかもしれません。そして、正直な自分の気持ちを書く、ということが日記の本懐ですが、将来の自分が読んだときに、恥ずかしくなるような言葉遣いや記述はせず、美しい言葉を使うよう心がけるとよいでしょう」(ドメストルさん)

誰かに向けて手紙を書く、自分のために美しい言葉を日記やメモに記す。そんな機会を増やしていきたいですね。

■4:すべてに完璧を求めない

何もかもやろうとすれば気品を失う
何もかもやろうとすれば気品を失う

フランスの伯爵夫人と聞けば、エレガントで完璧な女性というイメージがありませんか? ドメストルさんの著書では、義姉アンクレールさんは4人の子どもがいながら、フルタイムで仕事をこなし、自宅はいつも美しく、良妻賢母のモデルのような女性だといいます。しかし彼女は常にエレガントであるために、時に効率的に生活を回しているそうです。

アンクレールさんは子どもを産んだあと、初めての職場復帰の際に頑張りすぎて、ダウンしたことがあったとのこと。そのときに見舞いに来た母親から「あれもこれも完璧に欲しいだなんて、ある意味傲慢です。髪を振り乱して走り回って、何が完璧だというの。気品を忘れてはいけません」と言われたのだとか。

その経験から、義姉アンクレールさんは子どもたちが幼い間は仕事を時短勤務にする、手がかからなくなったらフルタイムに戻すことに。さらに毎日の掃除と子どもの世話は家政婦さんに任せ、夫婦の食事はでき合いのものでよし、とすることを決めたといいます。

「真摯な姿は美しいけれど、必死な姿は浅ましいというのが、彼女達の考え方です。必死というのは、要はギリギリのところまで頑張っているということで、手の内をすべて見せている、逆から見ると、弱みをさらけ出している、ということもあるのだと思います。武士は黙って高楊枝ではありませんが、大変な時でも大変じゃないふりをするくらいの気位を持っていることが、エレガンスの条件だと言うことなのでしょう」(ドメストルさん)

何事も手を抜かず頑張りすぎるよりも、力を抜くところは抜いて、余裕を見せることがエレガントな姿につながるでしょう。

■5:自分の「好き」と純粋に向き合って真摯に取り組む

自分の時間を作ることが上質な生活につながる
自分の時間を作ることが上質な生活につながる

仕事や家事、子育てに追われて、時間の余裕がないという女性も多いでしょう。しかし自分の「好き」なことと向き合う時間が、エレガントで落ち着いた佇まいを保つ秘訣になるのです。

ドメストルさんは、「自分の時間を確保するというのは、我がままではなく、権利であり、必要なこと。これは上流階級の女性だけでなく、フランス女性全般の考え方でしょう。女性は、職場、家庭でマルチタスクをこなすので、日々の流れに任せていると、自分時間がゼロになりかねません。フランスでは女性の皆さんは、仕事を後回しにしてでも、ベビーシッターや嫌がる夫に家庭を任せてでも、自分の時間をつくっています」と指摘します。

フランスの伯爵夫人たちは、より自分自身と向き合う時間を大切にしているとのこと。

「友達と食事に出かける、映画を見に行くといった気の発散的な過ごし方ではなく、庭で本を読む、一人で散歩する、ひたすらピアノを弾くなど、寡黙なイメージです。スポーツでも手作業の何かでも、もしくは、好きなことが仕事なら仕事でも。とにかく夢中になることができて、『私、生きている、前に進んでいる!』と実感できる時間を持つことが大切です」(ドメストルさん)

自分の好きなことに、真摯に向き合う時間を積み上げていきましょう。

■6:「人の真似」や「人と比較」をしない

自分らしさを失ってはダメ
自分らしさを失ってはダメ

周りの目が気になり、つい相手のペースに合わせてしまう、目立たないように行動してしまうことはありませんか? しかし伯爵夫人たちは「私はこれが好き」「私はこういう人」ということが明確であり、フラフラしていないといいます。

ドメストルさんから、「日本は気配りの国。相手に合わせることが暗黙の了解としてありますが、お互いに気配りするがために、身動き取れないところがあるのではないでしょうか。 自分の気持ちをもっとはっきり見せることで、意思の疎通がスムーズになる、しいては皆が楽になる、という効用もあるように思われます。

ただ、気をつけなくてはならないのは、さじ加減です。自分の考えを乱暴に投げ出したり、迷惑な天然ちゃんにならないようにしたりと、タイミングや伝え方には気をつける必要があります。そこが貴女の知性の見せ所となります。Bon courage! (ボン・クラ-ジュ、頑張って)」と、アドバイスいただきました。

最初は難しいかもしれませんが、他人と自分を過度に比較することなく、自然体で、自分らしく生きるようにしたいですね。

いかがでしたでしょうか。このなかに、あなたが普段、意識している心構えはありましたか? すべてはなかなか難しいところですが、こういった生きる姿勢は、素敵な毎日につながる大いなるヒントになります。エレガントに生きるフランス伯爵夫人たちの暮らし方を参考にして、あなたの生活も豊かにしていきませんか?

ドメストル美紀
(どめすとる・みき)東京女子大学、INSEAD(旧欧州経営大学院)卒業。航空会社、投資銀行勤務を経て、現在は執筆活動に勤しむ。18世紀から続くフランスの伯爵家に嫁ぎ、ベルサイユにてフランス人の夫、男子二人、愛猫マエストロと共に暮らす。執筆:コラム『フランス貴族に嫁いでみたら』(2016年、NHK出版)、『イサムとタケルのミラクルジャーニー』(2015年、MyISBN出版)など。
『フランス伯爵夫人に学ぶ 美しく、上質に暮らす45のルール』ドメストル美紀・著 ディスカヴァー・トゥエンティワン刊
この記事の執筆者
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WRITING :
椎名恵麻
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