有名高級ブランドを多数傘下に置くLVMHグループが環境保護に目を向け始めたのは、「サスティナビリティー(持続可能性)」という言葉がまだ知られていなかった、今から26年も前のこと。地球温暖化や化石燃料の枯渇、水不足など、年々深刻化する地球環境問題を改善し、より良い未来をつくるための意識改革として、「LIFE(LVMH INITIATIVES FOR THE ENVIRONMENT=環境に対するLVMHのイニシアチブ)」プログラムが導入されました。

具体的には、LVMHグループと各メゾンの環境パフォーマンスを改善するため、2020年までに達成すべき大きな目標を9つ掲げました。ラグジュアリー業界における世界的リーダーが目指す、エコフレンドリーな未来のつくり方とは?

LIFEが掲げた9つの課題

ファッションだけでなく美容やアルコールなど、さまざまな分野の製品を取り扱う同社が、個々のDNAをもつメゾンの意識を統一するために掲げたのが、以下の9つの課題。

1. デザインの段階から、環境パフォーマンスを考慮する
2. 戦略的な原材料調達を確保する
3. 材料と製品のトレーサビリティー(追跡可能性)と適合性の検証する
4. サプライヤーの環境的・社会的責任の意識改革をする
5. 重要なサヴォアフェール(職人技術)の保護をする
6. CO2排出の軽減に目を向ける
7. 製造工程における環境面での卓越性を考慮する
8. 製品寿命と修理可能な製品の差別化を検討する
9. 顧客からの環境に関する要望に対応する能力を向上させる

今回は、上記の目標を達成するべく、ラグジュアリーブランドがこれまでに実際に取り組んできた事例から、実際に、私たちの生活どどのように関係しているのかを紐解いていきます。

これまでにメゾンが実現した4つの事例

まず、各メゾンがいち早く目を向けたのが、【長持ち・軽量化・効率化・リフィル】の4つ改善点でした。ここでは、それぞれが実現した具体例をご紹介します。

■1:長持ち【Veuve Clicquot】

ヴーヴ・クリコ ブリュット イエローラベルのボトル
ブドウを原料にパッケージを作成

Veuve Clicquot(ヴーヴ・クリコ)では、ワインの製造過程で使用されたブドウの皮と再生紙を用いたパッケージを考案。すべてを無駄にすることなく、100%生物分解性でありながら、ヴーヴ・クリコ ブリュット イエローラベルのボトルを約2時間保冷することが可能と、実用的な機能美への着眼点にも驚きです。

■2:軽量化【Guerlain】

ゲランのオーキデ アンペリアル
「オーキデ アンペリアル」のボトルの軽量化

最高峰のエイジングケアコスメとして名だたるゲランの「オーキデ アンペリアル」のボトルデザインを、2017年にリニューアル。コスメのコンセプト同様に、女性を取り巻く環境をさらにストレスフリーへと導くため、ジャーと箱の素材を再生可能資材を用いることで軽量化を実現。環境に配慮した新パッケージの導入により、生産時の二酸化炭素排出量を大幅に削減することに成功しました。

■3:効率化【Louis Vuitton】

ルイ・ヴィトンのショッパーとギフトボックス
ショッパーやギフトボックスのリニューアルでCO2の軽減

Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)は、再生繊維を40%含む厚く頑丈なFSC認定紙を使用した、これまでにないパッケージを開発。持ち手に使用するポリエステル製のリボンも、コットン製のものにシフト。これまで箱型のまま運送していたギフトボックスは、折りたたみ式に再設計し直し、各店舗へ配送する際のCO2排出量を大きく軽減することを可能にしました。

■4:リフィル【Dior】

ディオールのオー・ド・ヴィ
美容液「オー・ド・ヴィ」のリフィルを開発

Dior(ディオール)では、2000年に美容液「オー・ド・ヴィ」のリフィルを発売し、以降、さまざまなアイテムに同様のシステムを導入しています。母体のパッケージを継続して使用できることから、ゴミの排出量を最小限に止めることができます。こちらは、世界的に見ても日本での反応がダントツよく、ゴミや廃棄物の分類が生活に根付いた日本ならではの結果だったといいます。

次の課題は、アート&ファッションのイノベーション。最近では、提携校であるファッションスクールの名門「セントラル・セント・マーチンズ」の学生たちに、アップサイクルな生地を使用してデザインさせ、コンペティションを行うなど、次世代の育成にも力を入れているとか。

ラグジュアリー業界における、世界的リーダーであるLVMHグループが模範となる、環境保護の取り組み「LIFE(LVMH INITIATIVES FOR THE ENVIRONMENT=環境に対するLVMHのイニシアシヴ)」プログラムが、世界基準になる日も近い未来のことかもしれません。次世代を生きる子供たちや私たちの未来のためにも、今できることを考え、知識をもち、慎重な物選びを意識したいものです。

この記事の執筆者
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EDIT&WRITING :
石原あや乃