古今のスポーツカーやレーシングカーが走り回る、英国・グッドウッドの「フェスティバル・オブ・スピード」をご存知だろうか。近年はその盛況ぶりから、自動車メーカーによるニューモデルのお披露目の場として使われることも多い。現地を訪れたライフスタイルジャーナリストの小川フミオ氏が、その熱気をリポートする。

英国で、今最もクルマ好きが集まる場所

老若男女が集まるのがフェスティバル・オブ・スピードだ。
老若男女が集まるのがフェスティバル・オブ・スピードだ。
グッドウッドハウス前で70周年を祝ったポルシェ(手前は1948年の「356」の第1号車)
グッドウッドハウス前で70周年を祝ったポルシェ(手前は1948年の「356」の第1号車)
アストンマーティン「シグネットV8」は特別仕様を手がける部門「Q」が顧客の注文で作りあげた、4.7リッターV8搭載の後輪駆動(ベースはトヨタiQ)。
アストンマーティン「シグネットV8」は特別仕様を手がける部門「Q」が顧客の注文で作りあげた、4.7リッターV8搭載の後輪駆動(ベースはトヨタiQ)。
70周年を迎えたランドローバーはグッドウッドで歴代の車両を集めてパレードを行った。
70周年を迎えたランドローバーはグッドウッドで歴代の車両を集めてパレードを行った。

 ドイツ人は森を愛し、英国人は犬を愛す。とは欧州でよく言われることだが、自動車への愛についても英国人は人後におちない。

 その証左ともいえるのが、毎夏、南部のウェストサセックス州グッドウッドで開かれる「フェスティバル・オブ・スピード」だ。

 当初は主催者が手弁当で作るような小さめの催しだった(ただし敷地は広大だった)が、いまや世界的なイベントにまで成長。

 一日70ポンドぐらいのチケットはすぐ売り切れ、入場者の延べ人数は15万人と言われる。広大な敷地にコースが設定され、家族での来場者も多いようだ。

 このイベントは当初、古いクルマを走らせて楽しむというシンプルな内容だった。その後25年のあいだに「発展」し、新型車も多く展示されるまでになっているのだ。

「かつてロンドンで行われていた英国のショーは衰退してしまいました。でもその代わりにフェスティバル・オブ・スピードが注目されているのです。なにしろここには自動車好きが集まりますから」

 マクラーレン・オートモーティブの広報担当者は、ここで新型車を発表する意義について語ってくれた。ほかのブランドも同様の考えらしい。昨今はルマン24時間レースだったり、新車を発表するには、モーターショーよりふさわしい場所があるということなのだろう。

古今のマシンが白煙をあげながら走る!

ロールスロイスが発表したばかりのSUV「カリナン」もデモストレーションランで顧客を喜ばせた。
ロールスロイスが発表したばかりのSUV「カリナン」もデモストレーションランで顧客を喜ばせた。

 2018年7月12日から15日にかけて開催されたイベントの目玉はなにか。じつは簡単に書けないほどの充実ぶりである。

 トヨタはBMWと共同開発している新型スポーツクーペを走らせたし、フォードは映画「ブリット」でマクイーンが乗っていたマスタング(の実物)と、同名の最新モデルを持ちこんだ。

 アストンマーティンは最新のスポーツモデルDBSスーパーレッジェーラとともに、顧客の特別注文で制作した、シグネットV8を持ちこんだ。

 トヨタiQと同じボディに4.7リッターV8エンジンを搭載した後輪駆動のスペシャルである。これが喝采を浴びていた。洒落の効いたモデルこそ、英国男のセンスの見せどころだろう。

 戦前のレーシングカーにはじまり、戦後の自動車史に残るマシンの数かず。なかにはF1もあればWRC(世界ラリー選手権)の優勝車も。二輪もあればルマンカーも、といったぐあいだ。それがタイヤから白煙をあげながら走るのである。おもしろくないわけがない。

ポルシェ70周年記念式典も開催!

800馬力の「マクラーレン・セナ」も走ったが、じつは2017年12月に発表された限定500台はすべて売り切れ。
800馬力の「マクラーレン・セナ」も走ったが、じつは2017年12月に発表された限定500台はすべて売り切れ。
日産が先日発表した「GT-R50 バイ・イタルデザイン」もグッドウッドに姿を見せた。
日産が先日発表した「GT-R50 バイ・イタルデザイン」もグッドウッドに姿を見せた。
S・マクイーン主演の映画「ブリット」(1968)公開50周年に合わせて発売された450馬力の5リッターV8搭載「マスタング・ブリット」(左)と映画に登場したマスタング。
S・マクイーン主演の映画「ブリット」(1968)公開50周年に合わせて発売された450馬力の5リッターV8搭載「マスタング・ブリット」(左)と映画に登場したマスタング。
2018年のフェスティバル・オブ・スピードは70周年を迎えたポルシェの特集だった。
2018年のフェスティバル・オブ・スピードは70周年を迎えたポルシェの特集だった。

 同時にポルシェが70周年を祝う式典を開催したのも大きな話題だった。1948年型の356ロードスター1号車にはじまり、ルマンやダカールラリーなどモータースポーツで活躍してきた伝説的なレーシングマシンの数かず。

「ポルシェは私の大好きなブランドでもあります。このイベントでは908/3(1970年)などのレーシングカーを運転させてもらったことがあるが、迫力ある体験でしたね」

 会場になったグッドウッドエステートの所有者であり、このイベントを主宰するデューク・オブ・リッチモンドは眼を輝かせながら、インタビューでそう語っている。

 大のおとなが、という言葉があるけれど、大のおとなが本気で運営しているからこそ、フェスティバル・オブ・スピードはおもしろい。それを可能にしているのが英国人気質だとしたら、これこそ見習いたいではないか。

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。