今を生きる素敵な女性とともに、エルメスの本質的な魅力を探る雑誌「Precious(プレシャス)」の連載「The Story Of Hermès Women」。

今月は、パリ在住でブレンドエッセンシャルオイル・SHIGETAを手がけ、多くのセレブリティに愛されるセラピストでもあるチコ・シゲタさんと、エルメスの名香との芳しいストーリーをお届けします。

「イチジクの青い香りが、プロヴァンスの思い出を一瞬にして蘇らせる」

シゲタさんが愛する「庭園のフレグランス 《地中海の庭》」。調香師による最初のストーリーは若い女性がイチジクの葉をちぎり、微笑みながら匂いをかぐというもの。
シゲタさんが愛する「庭園のフレグランス 《地中海の庭》」。調香師による最初のストーリーは若い女性がイチジクの葉をちぎり、微笑みながら匂いをかぐというもの。

もう10年以上も前、早朝の撮影スタジオでメイクルームに漂っていたアロマオイルの香りが、寝ぼけた頭も、けだるい体も、すっきりと覚醒させながら、心を解きほぐした。

それは発売されたばかりのSHIGETAのエッセンシャルブレンドオイルの香りで、肌に直接つけることができるため、おしゃれに敏感なモデルたちがお守りのように持ち歩き始めたものだ。SHIGETAの登場で、日本における「アロマテラピー」は、本格的かつ身近になり、一気に洗練された。

今ではオーガニックコスメ全般を扱うこのブランドをつくったのは、パリに住む日本人女性の、チコ・シゲタさん。多くの有名人を顧客にもち、予約がとれないと評判の腕ききセラピストである。彼女が施術の際、むくみやコリ、痛みといった症状に応じて、「悩み別」に自らブレンドしていたオイルが、2004年に製品化されたのが始まりだった。

ひとつのオイルを創り出すときは、目的や効能に合わせてひとりの人格を思い描いていく。その個性に合う本や音楽を探し、ひとつの世界の中で暮らすことで、アウトラインが明確になると、頭で考えなくても、自ずと原料を絞り込むことができるそう。まさに職人の腕と、アーティストの研ぎ澄まされた感性をもつシゲタさんならではの仕事です。
ひとつのオイルを創り出すときは、目的や効能に合わせてひとりの人格を思い描いていく。その個性に合う本や音楽を探し、ひとつの世界の中で暮らすことで、アウトラインが明確になると、頭で考えなくても、自ずと原料を絞り込むことができるそう。まさに職人の腕と、アーティストの研ぎ澄まされた感性をもつシゲタさんならではの仕事です。

シゲタさんのアロマオイルへの情熱は、25歳でフランスに留学したときに遡る。

アロマの本場で出合ったエッセンシャルオイルは、これまで日本で使っていたものとはまったく違って、「よく効く」ものだった。メディカルアロマとも呼ばれるフランス式アロマテラピーに魅せられたシゲタさんは、帰国後、一念発起して再び渡仏。自然療法の第一人者であるネリー・グロジャン博士に弟子入りするため、南仏プロヴァンスへと向かった。

「豊かな植物の恵みを受けて、ネリーの家族と暮らしながら学んだのは、エッセンシャルオイルの真髄だけでなく、オーガニックな食事や呼吸法まで、気持ちよくて本質的なものばかり。SHIGETAの哲学につながるもので、ここでの日々はかけがえのない喜びでした」

日常的にハーブやオイルに囲まれて、香水を身につける機会が少ないシゲタさんだが、エルメスの「庭園のフレグランス」は特別な存在だ。

パリにある自宅アパルトマンの小さなバルコニーでも、タイム、ラベンダー、ミント、シプレー、ローズマリー、レモンヴァーベナ など、たくさんのハーブを育てているというシゲタさん。スパイスとして料理に使うと、塩分を抑えることができる。そうした健康的な料理も、南仏で修業中に覚えたものだ。
パリにある自宅アパルトマンの小さなバルコニーでも、タイム、ラベンダー、ミント、シプレー、ローズマリー、レモンヴァーベナ など、たくさんのハーブを育てているというシゲタさん。スパイスとして料理に使うと、塩分を抑えることができる。そうした健康的な料理も、南仏で修業中に覚えたものだ。

ちょうど仕事を始めて間もないころのこと。

「パリ16区の老舗百貨店でフレグランスのウインドウ・ディスプレイがあったのです。彩りがきれいで、エルメスらしい夢のある演出でした。そこで初めて嗅いだのが、《地中海の庭》。イチジクの葉の香りが基調なのですが、私にとってイチジクは南仏の香りそのもの。心は一瞬にしてプロヴァンスへと飛んでいきました」

そして、アロマテラピーのプロとして心を強く惹かれた、もうひとつの魅力があったという。それは…

「実際にはイチジクを使っていないのに、とても自然で、見事に香りのイメージをとらえた想像力の豊かさです」

その香りを創ったのが、憧れの調香師、ジャン=クロード・エレナであることを知り、彼の著作『調香師日記』も読んだ。

「淡々とした語り口のなかに、素材の香りが息づいて、読みながら原料の産地の匂いがするような錯覚に陥りました」

エルメスの香りは、決して大衆向けの流行(はや)りものではない。独創的でありながら、エルメスを愛する人にとって、日々、ごくふつうにまとうことができる香りだ。

特に《地中海の庭》をはじめとする5つの香りからなる「庭園のフレグランス」は、植物の力を感じさせて、心地よさと癒しを与えてくれる。シゲタさんにとっても、若いころ手の届かないメゾンだと思っていたエルメスが、身近に感じられるようになった。

「生活のなかに香りがある、フランスらしいラグジュアリーというものに、気づかせてくれた香りです」

世界の庭を旅するように生まれた「庭園のフレグランス」のなかで最初に創られた《地中海の庭》。舞台は当時エルメスのウインドウ・ディスプレイのデザイナーであったレイラ・マンシャリのチュニジアの自宅にある、天国のような庭園。花々、果実、樹木の香りだけでなく、噴水の音や、鳥のさえずり、陰影と涼しさにいたるまで、五感のすべてをモザイクにして、一篇の詩を詠むように表現されたユニセックスな香り。
世界の庭を旅するように生まれた「庭園のフレグランス」のなかで最初に創られた《地中海の庭》。舞台は当時エルメスのウインドウ・ディスプレイのデザイナーであったレイラ・マンシャリのチュニジアの自宅にある、天国のような庭園。花々、果実、樹木の香りだけでなく、噴水の音や、鳥のさえずり、陰影と涼しさにいたるまで、五感のすべてをモザイクにして、一篇の詩を詠むように表現されたユニセックスな香り。

「エルメスのもつ、美しさと本質的(エッセンシャル)なものを求める姿勢…。それは、ひとつのオイルを創るとき、私も大切にしていることです」 

Chico Shigetaさん
ホリスティックビューティ コンサルタント
(ちこ しげた)静岡で美容室とエステサロンを営む家に生まれる。幼いころから、美容家としての英才教育を受け、5歳でマッサージを覚え、10歳で美容室を手伝い始める。人をきれいにしたいという夢があり、大学でも美容学校、メイク&ネイルスクールのトリプルスクールに通うという努力を重ねた。卒業後、美容室を手伝ううち、髪にもストレスを受けることを知り、体内美容に目覚め、留学。フランスで開業し、2004年、オリジナルオイルを発売。この春、オーガニックライフを提案するウエブマガジンspringstep.jpを立ち上げたばかり。

※この特集で使用した商品はすべて私物です。

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「The Story Of Hermès Women」連載一覧

この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
BY :
『Precious9月号』小学館、2018年
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
PHOTO :
浅井佳代子
HAIR MAKE :
成澤雪江(TWIGGY.)
COOPERATION :
来住昌美(プロップ)
EDIT&WRITING :
藤田由美・遠藤智子(Precious)
RECONSTRUCT :
安念美和子