2019年4月以降に家を買うなら、最高2500万円まで「贈与税が無税」に!

チヅさん(38歳)は、生命保険会社に勤めるサクタロウさん(40歳)と6年前に結婚。転勤族のサクタロウさんとの暮らしを優先し、チヅさんは結婚と同時に仕事を辞めて、専業主婦になりました。

その後、2人の子どもにも恵まれましたが、早いもので今年4月に長男のリョウタくん(4歳)は幼稚園に入園。長女のミレイちゃんも2歳になりました。

「夫は2~3年ごとに転勤しなければならないので、これまで家は買わず、会社の借り上げ社宅で暮らしてきました。でも、子どもたちが小学校に通うようになると、夫の転勤のたびに学校を転校させるのは大変です。夫も『単身赴任するよ』と言ってくれているので、リョウタが小学校に上がるまでに、自分たちの家を持ちたいと思っているんです」(チヅさん)

庭のある一戸建ててガーデニングがしたい
庭のある一戸建ててガーデニングがしたい

購入を考えているのは、チヅさんの実家がある東京・杉並区。植物が大好きで、ガーデニングが趣味のチヅさんは、「自分の家を買うなら、庭のある一戸建てがいい」とずっと思ってきました。    

「子どもたちは、まだまだ手がかかる年齢ですし、夫が単身赴任したら、家には私と子どもたちだけになります。何かあったときのことを考えると、やはり実家の近くは安心ですよね。不動産屋さんに行ったら、近々、新築の一戸建てが7000万円で売り出される、という情報を教えてくれたんです」(チヅさん)

チヅさんの実家からは徒歩15分ほどの場所にあり、何かあったら、すぐに駆けつけてもらえる距離にあります。4LDKの間取りは、子どもたちが大きくなって、個室が必要な年頃になっても、十分な広さです。問題は、「きちんと住宅ローンを支払っていけるか」ということ。

物件は7000万円、頭金は1000万円、住宅ローン6000万円の場合、毎月の返済額は20万円超

物件価格は、土地・建物合わせて7000万円。チヅさん夫婦が用意できる頭金は1000万円程度なので、残りの6000万円は住宅ローンを組むことになります。

今は、住宅ローンの金利が史上最低とはいえ、サクタロウさんの定年(65歳)までに完済しようとすると、毎月返済額は20万円を超えてしまうのです。

「夫の年収は1800万円(手取り1200万円)。毎月の手取りは60万円以上あるので、今は払えない金額ではありません。ただ、子どもたちの教育費がかかるようになったら、払い続けられるか不安です。住宅ローンの負担を抑える秘策があったら、教えてほしいのですが……」(チヅさん)

この7月に『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)を出版したファイナンシャル・プランナーの井戸美枝さんは、「住宅を買ったり、リフォームしたりするときにも、国や行政からもらえるお金や優遇税制は、結構ある」と言います。

家を買うなら、是非とも利用したい「住宅取得等資金の贈与税の非課税」とは?
家を買うなら、是非とも利用したい「住宅取得等資金の贈与税の非課税」とは?

住宅の着工件数が増加すると、建設業界全体への経済波及効果は大きいため、日本では歴史的に景気刺激策として個人の住宅取得を推進し、そのために税制優遇策を設ける、といったことが繰り返し行われてきました。

「現在、住宅関連の税制優遇の目玉となっているのが、『住宅取得等資金の贈与税の非課税』で、来年4月以降に家を買う人は、贈与額が最大2500万円まで非課税になります(消費税10%で、省エネ等住宅以外の場合)。ご両親などの直系尊属に経済的余裕があるなら、マイホーム購入資金を贈与してもらうのに、よいタイミングです」(井戸さん)

では、「住宅取得等資金の贈与税の非課税」とは、どのような制度なのでしょうか。井戸さんのアドバイスのもと、上手に使うコツなどを見ていきましょう。    

両親や祖父母などが、子どもや孫に「住宅資金を贈与」すると無税に

「本来、年間110万円を超える贈与を受けると、贈与税を支払わなければいけません。ただし、マイホームを購入したり、リフォームしたりするための資金を、両親や祖父母などの直系尊属から贈与された場合は、一定額までが非課税になる特例が設けられています」(井戸さん)

この特例が「住宅取得等資金の贈与税の非課税」で、税制優遇を設けることで、経済的に余裕のある高齢者の資産を、若い世代に移しやすくして、住宅市場を活性化させることを目的に導入されました。

この制度を利用すると、マイホーム購入資金を有利に贈与してもらうことができますが、利用に際しては一定の要件が設けられています。

「住宅取得等資金の贈与税の非課税」を受けるための要件を3ステップでチェック!

贈与を受ける人、受ける物件、非課税限度額をみていきましょう
贈与を受ける人、受ける物件、非課税限度額をみていきましょう

■1:贈与を「受ける人」の要件は?

・日本国内に住んでいること
・贈与する人の直系尊属(子ども、孫)
 ※配偶者の父母(または祖父母)は直系尊属に当たりませんが、養子縁組していれば対象になります
・贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上
・贈与を受けた年の合計所得金額が2000万円以下
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与されたお金の全額をあててマイホームの新築、またはリフォームを済ませること
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住するか、居住確実と見込まれる
・配偶者や親族など、身内からその家を取得したものではないこと
・2009年~2014年に「住宅取得等資金贈与の非課税」を受けていない

■2:贈与を「受ける物件」の要件は?

・居住用のマイホームであること
・登記簿上の床面積(マンションなどの区分所有建物の場合は、その専有部分の床面積)が50㎡以上240㎡以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が、贈与を受ける人が居住すること
・中古住宅の場合は、耐震性能がある築20年以内(マンションなど耐火構造では築25年以内)の住宅
・リフォームする場合は、費用が100万円以上であること

■3:非課税限度額は?

この特例による非課税限度額は、その住宅を契約した時期や住宅の質によって、下の表にようになっています。

・消費税8%の物件

※省エネ等住宅は、断熱性、耐震性、高齢者配慮などの基準を満たす住宅。一般住宅は、省エネ等住宅以外のもの
※省エネ等住宅は、断熱性、耐震性、高齢者配慮などの基準を満たす住宅。一般住宅は、省エネ等住宅以外のもの

・消費税10%の物件(2019年10月~)

消費税10%の物件
消費税10%の物件

断熱性に優れた省エネ住宅、大規模な地震などに対応できる耐震性のある住宅、バリアフリーなど高齢者が自立した生活を送りやすい構造の住宅など、質の高い住宅は非課税枠が拡大されています。

2019年10月から消費税が10%になる予定ですが、その場合は「住宅取得等資金の贈与税の非課税」も拡大します(上図参照)。ちなみに、住宅の引き渡しを受けたのが2019年10月以降でも、契約締結日が2019年3月31日までなら、消費税率は8%が適用されます。

贈与を受ければローンの負担は、3000万円以上軽くできる

サクタロウさんのご両親は、IT系の小さな会社を経営しており、経済的には余裕があります。マイホーム購入の相談をすると、相続対策もあり、快く贈与してくれることになりました。

リョウタくんが小学校に入学するのは2020年4月。ヂヅさん夫婦はそれまでにマイホームを買って、引っ越しを済ませたいと思っており、契約はサクタロウさんの仕事が一段落する、2019年の秋頃を予定しています。

 
 

「贈与税の非課税枠(一般住宅の場合)は、消費税率が8%の物件なら700万円、消費税率が10%の物件なら2500万円ですが、2019年10月以降は、消費税率の引き上げが濃厚です。サクタロウさんは、最大2500万円まで非課税で贈与を受けられそうです」(井戸さん)

チヅさん夫婦が購入を予定しているのは、7000万円の一戸建て。頭金として、夫婦の貯蓄1000万円は用意していますが、これにサクタロウさんのご両親からいただく2500万円を上乗せすると、住宅ローンの負担はどのように変わるのか見てみましょう。

○夫婦の貯蓄だけの場合(頭金1000万円)

・物件価格:7000万円
・借入総額:6000万円
・支払総額:7314万円(利息898万円、諸費用124万円、団体信用生命保険料292万円)
・毎月返済額:約23万円

○2500万円の贈与を受けた場合(頭金3500万円)

・物件価格:7000万円
・借入総額:3500万円
・支払総額:4270万円(利息524万円、諸費用75万円、団体信用生命保険料171万円)
・毎月返済額:約13万円

※みずほ銀行の「フラット35」、返済期間25年、借入金利1.14%(全期間固定、元利均等返済)で借りた場合。2018年7月2日現在。

毎月の返済額に10万円の差!返済総額は3044万円も安くなる

毎月の返済額が減った分を、教育費の積み立てに回すことができる
毎月の返済額が減った分を、教育費の積み立てに回すことができる

贈与を受けることで、借入額が6000万円から3500万円になるので、負担が大幅に減るのは当然ですが、借入額に応じて利息や諸費用、団体信用生命保険料なども低くなります。そのため、夫婦の預貯金だけで購入するよりも、贈与を受けて購入したほうが、返済総額は3044万円も安くなるのです。

毎月返済額も、月10万円の差がでるので、その分のお金をリョウタくんやミレイちゃんの教育費の積み立てに回すことができます。無理なく教育資金を貯められれば、奨学金や教育ローンを借りる必要もなくなり、健全な家計運営をしていくことが可能になります。

「住宅購入するときは、できるだけたくさん頭金を用意したほうが、ローンの負担が軽くなるので、ご両親に経済的な余裕があるなら、贈与を受けるのも一案です。贈与を受けたら、そのお金はもらった人のものになるので、住宅の名義は贈与をしたご両親や祖父母ではなく、子どもや孫(このケースでは、サクタロウさん)の名義にしておきましょう」(井戸さん)

この贈与税の非課税限度額は、贈与を受ける人ひとりあたりの金額です。夫婦それぞれが、両親や祖父母から贈与を受けることができるので、チヅさんも特例を使えれば、さらに住宅購入資金の上乗せができます。

特例「住宅取得等資金の贈与税の非課税」を活用するためには、税務署に申告が必要

この特例を使うためには、贈与税の申告が必要です。もらったお金が非課税限度額の範囲内でも、申告は必要になるので、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に申告書をつくって、最寄りの税務署に届け出るようにしましょう。

この「住宅取得等資金の贈与税の非課税」制度のほかにも、住宅購入時にもらえるお金は結構あります。住宅ローン控除は有名ですが、ほかにも「すまい給付金」「認定住宅新築等特別税額」「生垣緑化助成」などもあり、これらを利用できれば、住宅購入にかかる費用を軽減できる可能性があります。

次回は、贈与税の特例以外の住宅購入時にもらえるお金について、よりしっかり確認していきます。

【後編】家を買うとき「もらえるお金」がある!4つの制度を徹底解剖

井戸美枝さん
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー
(いど みえ)公的年金をはじめとする社会保険に精通し、厚生労働省の社会保障審議会企業年金部会の委員も務める。新聞や雑誌、ネットサイトでの連載、またテレビやラジオ出演、講演などを通じて社会保険制度や資産運用、ライフプランについてアドバイスしている。「難しいことでもわかりやすく」がモットーで、公的制度に関する著書も多数。2018年7月の新刊『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)が好評発売中。
この記事の執筆者
1968年、千葉県生まれ。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。医療や年金などの社会保障制度、家計の節約など身の回りのお金の情報について、新聞や雑誌、ネットサイトに寄稿。おもな著書に「読むだけで200万円節約できる!医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30」(ダイヤモンド社)がある。