場所や時間を選ばずササッと食べられて、誰もが気軽につくれる日本人のソウルフード「おにぎり」。実は、おにぎりはとても奥が深い食べ物。炊き方・握り方を少し工夫するだけで、そのおいしさは大きく変わってくるんです。

今回は、創業58年の老舗おにぎり専門店「ぼんご」の女将・右近由美子さんに、自宅で挑戦できる究極においしいおにぎりのつくり方を伺いました。おにぎり好きなら誰もが知る名店の握りの技は……なんと、「握らないこと」なんだとか? お米の粒感が際立ったふんわりとしたおにぎりをつくる、ごはんの炊き方・握り方のポイントを詳しくお届け。さらに具材・お米・海苔・塩の選び方もご紹介します。

ご自宅でのお食事に、これからの行楽シーズンのお供に。今よりもっとおにぎりを楽しむためのコツが満載です!

「ぼんご」は大塚駅北口より徒歩3分。店内は対面型のカウンターのみ。おにぎりを握る様子を間近で見られる
「ぼんご」は大塚駅北口より徒歩3分。店内は対面型のカウンターのみ。おにぎりを握る様子を間近で見られる

「究極においしいおにぎり」をつくる、ごはんの炊き方&握り方

ごはんのこだわりポイントは 「硬さ」と「温度」の2つ

おいしいおにぎりづくりは、ごはんの炊き方にこだわるところからスタートしています。冷めてもおいしく、お米の粒感をしっかり感じられることが、おにぎりの理想的なごはんの条件です。

おにぎり用のごはんは浸水時間を長くして硬めに炊き、握るのは60℃くらいの温度になるまで5分ほど待つ
おにぎり用のごはんは浸水時間を長くして硬めに炊き、握るのは60℃くらいの温度になるまで5分ほど待つ

■1:ごはんは硬め! 浸水時間は長めに、水分は控え目に

おにぎりにはやや硬めのごはんを使います。やわらかすぎるごはんはお米が潰れやすく、本来のおいしさを十分に引き出せないためです。

硬めのごはんを炊くときには「浸水時間は長めに、水分はいつもご家庭で炊く時よりも気持ち控え目に」することがポイント。単に水分を少なくするだけでは、時間が経つにつれておいしさが失われてしまうのだとか。そこで、浸水時間を1〜2時間程度と長めにすることで、硬めでもおいしさをキープしたご飯が炊けます。また前の晩に研いで水分を切ってから浸水し、冷蔵庫でひと晩冷やしてから炊くと、さらにおいしいご飯に仕上がるそうです。

■2:炊き上がってから5分ほど冷ます

硬さに加えて、ごはんの温度も気をつけたいポイントです。炊きたてアツアツではなく、炊飯器から取り出して5分ほど冷まし、60℃くらいになったごはんを握りましょう。冷ますことでお米が程よく縮み空気が入る隙間ができ、ホロホロとした口当たりのよいおにぎりになります。

おにぎりは「握らない」! 優しく、軽く、3回押さえる程度でOK

ここからは握り方を右近さんにデモンストレーションしていただきます。

「ぼんご」のおにぎりは、お米の粒感が生きたふんわりとやわらかい食感なのに崩れないことが特徴。そのポイントは握るときの力加減と回数にありました。

■1:茶碗にラップをのせる

茶碗やお椀にラップをのせてくぼませます。ラップを使うとご飯の扱いも簡単で、具も入れやすいのだとか
茶碗やお椀にラップをのせてくぼませます。ラップを使うとご飯の扱いも簡単で、具も入れやすいのだとか

■2:塩水(または酢水)で手を濡らす

手にご飯が付かないように、塩水か酢水で手を濡らして水気を軽く飛ばします
手にご飯が付かないように、塩水か酢水で手を濡らして水気を軽く飛ばします

■3:ひと握りのご飯を手に取り茶碗へ。具材はたっぷり詰める

写真の量くらいを目安にご飯をとります
写真の量くらいを目安にご飯をとります
具が入るように中央をくぼませながら、ラップを敷いた茶碗に入れます
具が入るように中央をくぼませながら、ラップを敷いた茶碗に入れます

どこからでもおいしく食べられように、具材はたっぷり詰めるのがポイント。

■4:少なめのご飯を手に取り、具材に蓋をするように被せる

手順3で茶碗に入れたご飯の半量ほどを取ります
手順3で茶碗に入れたご飯の半量ほどを取ります
具材に蓋をするように被せます。このとき、ぎゅっと押しつけないように!
具材に蓋をするように被せます。このとき、ぎゅっと押しつけないように!

■5:ラップを巾着のように絞って丸くする(※まだ握らないこと!)

ラップを巾着のように絞って形を整えます。ただし、ここでもまだ握ってはいけません!
ラップを巾着のように絞って形を整えます。ただし、ここでもまだ握ってはいけません!
お弁当にする場合は、ここでラップを一度開いて粗熱を取ります。熱いままだと傷みやすいので注意!
お弁当にする場合は、ここでラップを一度開いて粗熱を取ります。熱いままだと傷みやすいので注意!

■6:指に塩を付けて、手のひらになじませる

指の第一関節まで塩をつけ、両手で擦り合わせなじませます。塩の量は、つくってすぐ食べる場合には指1本分、お弁当にする場合は指2本分を目安にしてください
指の第一関節まで塩をつけ、両手で擦り合わせなじませます。塩の量は、つくってすぐ食べる場合には指1本分、お弁当にする場合は指2本分を目安にしてください

■7:握るのは「3回」だけ! 軽く押さえる程度の力加減で

塩を手につけたらラップを外し、3回だけ優しく握ります
塩を手につけたらラップを外し、3回だけ優しく握ります

握るときのポイントは「握らないこと」だと右近さん。つまり、「軽く押さえる程度の力加減」で、3回形を整える程度にご飯をまとめるくらいで十分。このときラップではなく手で握ることで、水分が程よく逃げて水っぽくなるのを防いでくれるそうです。

■8:海苔を付ける

力を入れるのはここが最初で最後。もちろんぎゅうぎゅう押さえつけないように!
力を入れるのはここが最初で最後。もちろんぎゅうぎゅう押さえつけないように!

海苔の片側におにぎりをのせたら、反対側を持ち上げてそっとあてるだけで海苔は付きます。形を整えるように、少しだけキュッと力を入れて押さえてあげましょう。

■9:できあがり

最後にトッピングをのせてできあがり!
最後にトッピングをのせてできあがり!

お米の粒感が際立った、ふわっとしたおにぎりが完成。たった3回握っただけですが、海苔が支えてくれるので型崩れも起こりません。ひと口食べてみれば、今までのおにぎりとの違いにきっと驚くはず!

おにぎりにぴったりな具材・お米・海苔・塩の選び方

おにぎりの握り方をマスターしたところで、次はおにぎりにぴったりの具材やお米、海苔や塩は何を基準に選ぶとよいのか、実際にぼんごで使っているものを例に右近さんに伺いました!

■1:具材は「持ち歩くなら塩分の多いもの。すぐ食べるなら好きなもの」を

温かいご飯に入れるため、どうしても生モノは傷みやすくなります。肉などのタンパク質系も実は傷みやすい具材。生野菜や汁気の多いものは傷みやすいだけでなく、水分でおにぎりが崩れてしまうのでNGです。

持ち運びするなら塩分の多いシャケやタラコ、梅干し、煮昆布などがおすすめ。しかし、つくってからすぐに食べるならバリエーション豊かな具材に挑戦できます。「ぼんご」のおにぎりの具材はなんと55種類にもなるそうです。

「定番はシャケとタラコですが、最近は卵黄、そぼろ、筋子が人気メニュー。卵黄は冷凍した卵黄を4時間醤油に漬け込んだものを握った、卵かけごはんのような味わいが楽しめる一品です。おにぎりに入れると潰れてしまうイクラも、筋子にしたらおいしく食べられるんですよ」と右近さん。

中に入れる材料を変えるだけで、いつもとは違う変わり種メニューが出来るのもおにぎりの醍醐味。好きな具材を持ち寄って、ご自宅でおにぎりパーティーを開催する……なんていう楽しみ方もできそうです。

ぼんご定番の具材・シャケと、人気の筋子。たっぷり贅沢に入れます。できあがるのが楽しみ!
ぼんご定番の具材・シャケと、人気の筋子。たっぷり贅沢に入れます。できあがるのが楽しみ!

■2:お米は「硬めに炊いても、冷めてもおいしいもの」を

おにぎりづくりにおいて、ご飯の硬さは重要なポイントです。そのためお米は硬めに炊いても、冷めてもおいしいものを選ぶのがベスト。「ぼんご」では新潟県岩船の棚田のコシヒカリを使用しています。棚田のお米は朝晩の寒暖差が大きい環境で育つため、甘くて独特の歯ごたえがあるそうです。

■3:海苔は「歯切れのよいもの」を

厚過ぎず薄過ぎない、おにぎりに巻いてしっとりしても歯切れのよい海苔が理想。「ぼんご」の海苔は、食べた瞬間に海苔の香りが口いっぱいに広がる有明産のものを使っているそうです。

■4:塩は「お米の味を生かす、クセないもの」を

お米の味を生かすため、塩はとにかくクセのないものという基準で選びましょう。ミネラル豊富でクセのない沖縄の塩を「ぼんご」では使っています。

まとめ

「ぼんご」流・究極においしいおにぎりの握り方をご紹介しました。「おにぎりは握らない」というポイントに常識を覆された方も多いのでは? 最後に、右近さんはこんなことを教えてくれました。

「おにぎりって握らないと崩れるという概念があるけど、ぎゅうぎゅう握らなくても崩れないんですよ。おにぎりのことを“おむすび”とも言うでしょう? それは、“縁むすび”のことを言うんです。一つひとつの米が結ばれることから、握らなくてもつくれてしまう……お米同士が勝手に縁で結ばれてくれるんです」

優しく包むように握る(握らない!?)とおいしくなるおにぎり。つくるときは食べる人への気持ちをこめて、いただくときはつくり手の愛を感じてくださいね。

 
 
右近由美子さん
「おにぎり ぼんご」代表・女将・調理担当
(うこん ゆみこ)昭和35年に先代が大塚駅前で「おにぎりぼんご」を開業。24歳で嫁いできて後に2代目となる。先代より引き継いだ握り方でおにぎりを握って20年、具材の味付けから調理全般を担当し、お客様に満足してもらえるおにぎりを日々研究のうえ提供している。

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この記事の執筆者
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WRITING :
加藤良子
EDIT :
大村実樹(東京通信社)