毎日、仕事と家事・子育てとの両立や人間関係など、うまくいかないことが多いと感じていませんか? きっと多くの方が、同じような悩みを抱えているのではないでしょうか。

そこで、現在89歳の現役精神科医・中村恒子先生の金言をまとめた書『心に折り合いをつけてうまいことやる習慣』から、著者である精神科医の奥田弘美先生にいくつかの言葉をピックアップしてもらいました。

現在50歳で2児の母でもある奥田先生は、約20年にわたる中村先生との付き合いの中で、さまざまな仕事や育児の知恵を学んだそうです。そんな奥田先生が、中村先生の珠玉の金言をまとめた著書の中から今回特別にピックアップし解説してくれました。滋味あふれる言葉の数々は、私たちを一歩前で踏み出させ、なぜかスッと楽にしてくれます。

仕事も家事も育児も「うまいことやる」ための6つの習慣

■1:仕事は中途半端でいい、大事なのは途中で投げ出さないこと

水辺を眺める女性
仕事は中途半端でいい。大事なのは途中で投げ出さないこと。

——完ぺきを目指して挫折するよりも、不細工な形でも続けていくことのほうが大事なんやないかと私は思います。(中村先生)

「今は、夫婦共働きでワンオペ子育てなど、家事や育児と仕事との両立が難しいといわれています。つい周りと比べて完璧にこなしたくなりますが、自己嫌悪に陥っている方も多くいます。でも、戦後の混乱期にふたりの子供を育て上げながら仕事を続けてこられた恒子先生と話していると、子育ても仕事も完ぺきじゃなくてもいいんだなと、ほっとしてきます。私が恒子先生から学んだことは、『完ぺきじゃなくてもいいから途中で投げ出さないこと』、そして『他人と比べないこと』。

中村先生は良い意味ですごく大らかでマイペースなんです。だからこそ今のような便利な育児グッズも家電もない時代に、育児と仕事を両立してこられたんだなと思います。私たちは『○○さんと比べて、なんで自分はできないの?』『よその子と比べて、なぜうちの子は〇〇なんだろう?』などと比べ出し、苦しくなってきます。中途半端でもいいから、自分のペースで仕事も子育ても気長に続けていけばよいと開き直り、他人は他人と割り切り気にしない。自分と子供との関係性が安定していて、ゆっくりでもいいから一歩ずつ子供も親も成長できていれば、それで十分OK! そんなメッセージがあふれる中村先生の生きざまに触れて、私自身も子育てと仕事の両立をしていく上で大いに助けられました」(奥田先生)

■2:見た目や方法はカッコよくなくても、「それなりに」目の前のことをやっていくことに気持ちを切り替える

優しく微笑む女性
見た目や方法はカッコよくなくても、「それなりに」目の前のことをやっていくことに気持ちを切り替える。

——誰もが人には言えないような事情を抱えているんですわ。それやったら、万時が理想どおりにいくことはないんやとあきらめて、「では、それなりにうまくやっていくにはどうすればええんやろうか?」と切り替えたもん勝ちやと思います。(中村先生)

「中村先生が育児と仕事に奮闘していた昭和20~30年代は、今のようなイクメンもいなければ、保育所もほとんどない。スーパーの便利な惣菜も宅配もない時代です。そんな中、中村先生がフルタイムの勤務をしながらふたりの子供(現在、医師と薬剤師)を立派に育て上げることができたのは、とにかく『あまり先のことは考えないで、なんとか目の前のことをやっていくこと』に徹してきたことが大きなポイントだと感じました。例えば専業主婦の家庭のように凝った品数の多い弁当はつくれないけど、栄養だけは考えた弁当を持たせる。参観日は全部見に行けないけど、日々子供と向き合って話す時間をなんとかつくるなど。

恒子先生は見た目はカッコ悪い子育てであっても、常に『お母さんは、いつもあなたたちのことを考えているよ』というメッセージをお子さんに与え続けていたようです。目の前の必要なことを見定めて、最低限のポイントは外さない。これは私自身もふたりの子供を育てながら、仕事を続ける上で大きなヒントになりました。手づくりの巾着やキャラ弁はつくれなかったし、手のかかる習い事はさせてあげられなかったけど、でも『ママはいつも自分を大切に見守ってくれている』という安心感を常に子供たちに与えるように心がけてきました。そのおかげで息子達はすくすくと健やかに成長してくれています」(奥田先生)

■3:子育ての悩みは実は自分の見栄・世間的な体裁からきていることが多い

遠くを見つめる女性
子育ての悩みは実は自分の見栄・世間的な体裁からきていることが多い

——どんなに手間暇をかけたり、お金をかけたりして立派なことを(子供に)してやっていても、親の見栄や付き合いのためにやっていることは、すぐ(子供に)見抜かれる。(中村先生)

「恒子先生も私も、ときどき外来の患者さんから『子供が反抗ばかりして自分の望みを全く聞いてくれない』『あんなに手をかけてあげたのに親不孝だ』などの愚痴を聞くことがあります。そういうお母さんほど、たいていお子さんに、『お母さんのしていることの目的が自分のためではない』ことを見抜かれているんですね。つまり母親自身の自己実現を子供に投影していたり、周りに見栄を張るために子供に何かを要求したりすると、子供は息苦しくなって反抗しはじめるんです。

恒子先生は、子供の愚痴を並べる母親に対しては、ときどき『あなた自身が、その子をそんな風に育てたんでしょ』とピシッとおっしゃるようです(笑)。私自身も、子供さんに過剰に厳しく勉強やスポーツのトレーニングを課す親御さんに出会いますが、『それは本当にお子さんが望んでいることなの?』と首をかしげたくなることがあります。恒子先生の時代も今の時代も変わらず、親の見栄や親の自己満足のための『偽の愛情』は、子供に見抜かれてしまい、かえって問題行動を引き起こしてしまって、親にブーメランとなって帰ってくるので要注意ですね」(奥田先生)

■4:ショックなことは「日にち薬」で自然と忘れる

満面の笑みの女性
ショックなことは「日にち薬」で自然と忘れる

——ウジウジとあれこれ考えないようにするには、暇をつくらないことに限ります。(中村先生)

「ときどき、大きくショックなことや悲しいことが起き、うつっぽくなることが誰にでもあります。今はメンタルクリニックに気軽に相談に来る人も増えていますが、私たち精神科医は問題解決の多少の手助けはできますが、薬の力で心の傷やショックを完全に消し去ることはできません。恒子先生の時代から、共通している特効薬は『日にち薬』です。結局、日々の暮らしのなかで、少しずつその思い出や記憶を薄めていくしかないのです。

恒子先生も89歳までの長い仕事人生の中で、ご主人の飲酒問題や親との関係などいろいろ辛いことも相当あったようですが、『忙しく毎日働いていたら気がまぎれるし、ウジウジ考える暇もなくなる。そのうち、いつの間にか気にならなくなったなあ』と明るく笑います。多忙すぎる毎日は健康を害すのでよろしくないですが、仕事、子育て、趣味などで、ほどよく忙しくしておくのは、日にち薬が効いてくるまでの時間をネガティブ思考にとらわれずに過ごすコツなのだと思いますね」(奥田先生)

■5:孤独であることは寂しいことではない

一人で静かにパソコンでの作業をする女性
孤独であることは寂しいことではない

——人は基本的にひとりで生きていくもの。(中村先生)

「恒子先生からたくさんのお話を聞く中で、人は基本的にひとりで生きていくものといったことも何度か口にされていました。子供はふたり育て上げ、息子さん家族と二世帯住宅に住み、大勢のお孫さんに恵まれても、恒子先生は常に『ひとり』、『孤独』だと話すのです。現にご家族ともほとんど顔を合わせず、電話も特にしないのだそう。

恒子先生にとってそれは当たり前のことなのです。孤独であることは先生にとって自然な状態。孤独に対して、寂しい、はずかしい、みじめといったネガティブなイメージがまったくないのですね。それは、先生が『人はもともとひとりで生きていくもの』という考え方が根底にあるからです。誰でもいいからつながりたい、一緒にいたいと思う願望がかえって本意でない付き合いを続けることになってしまっている現代人にとって、この考え方を持つことで、ストレスをひとつ回避できるのではないでしょうか」(奥田先生)

■6:そんなにすぐに結果は出ない。焦るときほど今この瞬間を大切にする

夕日の海辺でガッポーズをする女性の後ろ姿
そんなにすぐに結果は出ない。焦るときほど今この瞬間を大切にする

——仕事のことは焦らんと、子育てをまずしっかりしいや。それが絶対あとで役に立つから。(中村先生)

「これは第1子が生まれてすぐのとき、仕事と子育ての両立に悩み愚痴っぽくなっていた私に対して、恒子先生がいつもお話してくださったお言葉です。現在の先生は長男ご夫婦と二世帯住宅に住み、たくさんのお孫さんに囲まれ、89歳になっても職場から乞われて仕事を続け、すべてを手に入れているように見えます。でもそれは先生が人生の瞬間で大切にすべきことを間違えず、しっかりと固めて生きてこられたからこその結果です。

私自身、中村先生との関わりの中で、『子供を産んだ以上、親には子供を幸せに育てる義務がある』『だから己の仕事より、子供の幸せを優先して考える時期がどうしても必要』といった無言のメッセージを先生の生きざまから常に感じてきました。子育ての瞬間、瞬間で大事にすべきことをおそろかにしないで、与えるべき愛情をしっかりかけることで、思春期の親離れ、子離れをスムーズにしてくれます。結局それが自分の仕事人生にも大いに役に立つんだなあと今もしみじみと実感しています」(奥田先生)

終戦後すぐに医者になり働き続けている中村先生の言葉や生きざまは、一瞬ドキッとするものもあれば、じわじわくるものもありますよね。いずれも心に響くものばかり。今、目の前のことでイライラしたり、悩んだり、悲しんだりしているのなら、ぜひヒントにしてみましょう。

中村恒子さん
精神科医(精神保健指定医)
(なかむら つねこ)終戦の2か月前に尾道から大阪へひとりで出てきて大阪女子医学専門学校(現・関西医科大学)に入学。以後、89歳の現在までクリニックや病院でフルタイム勤務を続けている。戦後の激動の時代のなか、苦労して医者になり、ふたりの子供を育て上げてきた波乱万丈の人生の中で培われた生きる知恵をまとめた『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(すばる舎)が出版され好評を博している。
奥田弘美さん
精神科医(精神保健指定医)、日本医師会認定産業医、作家
(おくだ ひろみ)1992年山口大学医学部卒業。20年前に中村先生と出会ったことをきっかけに、精神科医となる。現在は精神科診療のほか産業医としても日々多数の働く人の心身のケアに関わっている。2018年6月に念願だった恩師の金言と生きざまをまとめた『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(すばる舎)を出版。その他の著書には『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利