オーダー会のために来日したルイジ・ダルクオーレ氏への、モータージャーナリスト・松本英雄氏のインタビューは、仕立ての妙義からやがて工業製品たるクルマへと及んでいく。松本氏はほぼ同じタイミングで、21年ぶりにモデルチェンジした日本製ショーファードリブン・カーの最高峰、トヨタ・センチュリーを試乗し、随所に職人の手仕事が施されたその「仕立ての良さ」に、サルトリアの伝統を重ねていたのだ。

良質な生地をシートに使う自動車製造の匠の技

センチュリーのカタログを見るダルクオーレ氏。隣の男性はオーダー会に同伴したマネジャーのダミアーノ・アンヌンツィアート氏(本文に登場するダルクオーレ氏の娘さんの夫)。
センチュリーのカタログを見るダルクオーレ氏。隣の男性はオーダー会に同伴したマネジャーのダミアーノ・アンヌンツィアート氏(本文に登場するダルクオーレ氏の娘さんの夫)。
欧州のショーファードリブン・カーにも負けない堂々としたスタイリングと、日本特有の繊細な美を宿した新型センチュリーの価格は1960万円(税込み)。手仕事の工程が多いこともあり、月産台数はわずか50台。
欧州のショーファードリブン・カーにも負けない堂々としたスタイリングと、日本特有の繊細な美を宿した新型センチュリーの価格は1960万円(税込み)。手仕事の工程が多いこともあり、月産台数はわずか50台。
過剰な装飾を排し、素材の美しさと感触の良さを追求した落ち着きのあるインテリアが特徴。
過剰な装飾を排し、素材の美しさと感触の良さを追求した落ち着きのあるインテリアが特徴。
−−緻密な計算と技術で、美しさと着心地の良さを創り出すダルクオーレさんのスーツを前にして、僕は新しくなったトヨタ・センチュリーを思い浮かべました。このクルマ、日本でしか販売していないのですが、どんな印象を持たれますか?(といってカタログを見せる)
「とてもエレガントですね。美しいものは、眺めているだけで心地いい気分にさせてくれます」
−−シートの表皮はオプションでレザーも選べますが、標準装備はベロア。生地に銅を練りこんで、静電気が起きない工夫が施されています。
「それはこだわりが効いていますね。確かにこの空間は快適そうだ。私のスーツを着てぜひ乗って欲しい。ダブルが似合うかな。いや、シングルもいいですね」
−−ほかの自動車ブランドですが、最近はイタリアの有名な生地メーカーがシートや内装の生地を供給しています。
「それは知っています。付き合いのある会社が、カシミアを自動車メーカーに納めていますから。中東やロシアの富豪は、とくにエクスクルーシブな内装を好むようです。ビキューナを張らせた顧客もいると聞いたことがあります」
−−生地が高級であれば、それだけ座り心地がいいものでしょうか? それともカッティング次第だったりしますか?
「素材による座り心地の優劣はあると思います。直接肌に触れる部分だから感触は全然違うし、長く座っていたら合皮より本革の方が楽だし、気持ちいい。ただし、高級な生地であればいいというものではないはずです。サルトの世界でもそうですが、高級な生地というのはとても繊細なので、職人が高い技術で手を加えないと台無しになってしまうことが多いのです。上質なウールモケットを使ったセンチュリーも、手練れが精魂込めてつくっているのが伺えます」

微細な変化を加えて継承されていく

シームレスで上品なフロントマスクの中央には、センチュリーのアイコンである鳳凰のオーナメントが。縦格子のグリルの奥には七宝文様がデザインされている。
シームレスで上品なフロントマスクの中央には、センチュリーのアイコンである鳳凰のオーナメントが。縦格子のグリルの奥には七宝文様がデザインされている。
今回、インタビューを担当した松本英雄氏。クルマをはじめ、ライフスタイル全般への関心が高く、名品のなんたるかを知る稀有な人物。
今回、インタビューを担当した松本英雄氏。クルマをはじめ、ライフスタイル全般への関心が高く、名品のなんたるかを知る稀有な人物。
−−センチュリーは1967年に誕生し、今回が3代目。約20年のサイクルでのモデルチェンジは、5、6年サイクルが一般的な現代において、極めて異例です。それにフルモデルチェンジといっても根底から変わることはなく、昔ながらの良さを随所に残しています。たとえば、エンブレムの鳳凰は初代が誕生した当時の手掘りの金型を継承し、進化させたもの。次世代に伝えていくことは、日本を代表するクルマの使命です。ダルクオーレさんのスーツにも、そうした「継承」が生かされている部分があるのでしょうか?
「手作業の工程が多いので、デザインのみならず技術的な部分は、おのずと先代から次の代へと継承されていくことが多いです。ナポリのサルトリアは、皆そうして発展してきました。時代の変化を読み取り、微細な変化を加えながら…。そうして本当にいいものだけが残り、伝統となっていく。それがものづくりの真髄だと思っています」 

 畑違いの分野に関する質問にも、快く答えてくれたダルクオーレ氏。今でこそ控えているが、昔はクルマを運転する機会も多かったという。

「トヨタのジープ(注・ランドクルーザー)に乗っていたことはよく覚えています。娘が5歳くらいの頃には、1か月半ほどのバカンスをシチリアの美しいリパリ島で過ごすのが定番でした。そこで彼女は島の風を浴びながら、ジープで走るのをとても喜んでいました」

 そして今や立派な大人の女性に成長した娘さんとともに、ダルクオーレ氏は世界中のジェントルマンに最高の一着を届けている。

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この記事の執筆者
女性ファッション誌、ビューティ誌を中心に執筆活動を行ったのち、しばしの休眠を経て現場復帰。女性誌時代にクルマ記事を手掛けていたこともあり、またプライベートではライフステージの変化に合わせて様々な輸入車を乗り継いできた経験を生かし、クルマを核とした紳士のライフスタイル全般に筆を執る。