サヴィル・ロウ15番地の「ヘンリー・プール」に現れたアストンマーティン『DB11ヴォランテ』。ハンドルを操るのは同社の副社長兼チーフ・クリエイティブ・オフィサー、マレック・ライヒマン氏。彼は2005年、デザイン責任者に就任時からの顧客だという。

クルマとスーツ、英国が生んだ比類なき物づくりの哲学

現代によみがえったドライビングスーツが語る伝統の真価

アストンマーティン副社長兼チーフ・クリエイティブ・オフィサー、マレック・ライヒマン氏
アストンマーティン副社長兼チーフ・クリエイティブ・オフィサー、マレック・ライヒマン氏
  • 取り外し可能なチンフラップはウィングロゴ入り。自身がデザインした『V12 Vantage ザガート』と同じ皮を使用。
  • 腕の可動域を妨げないように背中につくられたダーツはドライビングスーツならでは。機能が生んだ美しいデザインだ。
  • ジャケットには多くの仕掛けがあり、スパークプラグ、タイヤ空気圧計、スパナ専用のレザーポケットも装備されている。

「カーデザインとビスポークスーツ、意外な組み合わせと思うだろうが、スタイルのアイディアをどう具現化するか、両者には共通項がある。共に英国的美学とハンドクラフトの価値を理解し、伝統を継承しつつ、最高峰を目ざす点も同じだ」

同時に「ヘンリー・プール」の7代目当主サイモン・カンディ氏はクルマに造詣が深いことで知られ、意気投合したふたりがつくったのが、ニック・カッソンズ(’60年代に活躍したアストンマーティン『DB4GT ザガート』のオーナー&レーサー)のドライビングスーツの復刻版だ。

オリジナル同様、耐火性のあるプリンス・オブ・ウェールズ・チェックのツイードを使用。ビスポークならではのアイディアが随所にある。

アストンマーティンと「ヘンリー・プール」のコラボで実現した人の手がつくるラグジュアリー

生地の質感を確認するマレック・ライヒマン氏。
生地の質感を確認するマレック・ライヒマン氏。
  • そで裏にもレッドのファブリックが配されている。見えない所に凝るのは英国的ビスポークの美学の表れ。
  • 携帯電話のサイズに合わせてつくられた内ポケット、ライニングにも襟裏に合わせたレッドのトリミングが施されている。
  • 『ラゴンダ』が生産される地に因み、ウェルシュガーズ(ウェールズ近衛兵)の軍服のカラー、レッドをラペル裏に使用。

両者の深い繫がりはさらに続く。ここから進化、発展したプロジェクトが2018年の3月に発表された『ラゴンダ・ヴィジョン・コンセプト』だ。

このクルマのインテリアは「ヘンリー・プール」の監修によって行われ、これに因んだグレー・フランネルのスーツも同時に製作された。耐久性とクラフツマンシップによる温かみのある感覚はライヒマン氏が求めた要素そのものだ。

「機械は情熱を持つことはない。一方で人間にとってクルマは特別な機械製品だ。その証拠にだれもが最初に所有したクルマは覚えているはずだ。現代の未来志向でデジタルな要素で構成されるクルマにこそ繊細さ、人間の手触りが必要だ。インテリアには温かみを感じるウールやハンドクラフトによる刺繍を奢った。このプロジェクトにはファブリックを知り尽くした専門家、われわれと同じ王室御用達を持つ『ヘンリー・プール』以外に適任はない」

スーツは特別な機会に着用するという氏にとって「ヘンリー・プール」から学んだものは多いという。

「最上のビスポークスーツを着用するときの感覚、それは最上のクルマを運転する感覚と同じだ。磨き抜かれたカットとシェイプがつくり出すクラシックなプロポーション、その美しさとエレガンスに情熱と興奮を感じる。常にメンテナンスが必要な点も同じだよ」と笑った。


アストンマーティン『DBS スーパーレッジェーラ』伝説のDBSが史上最強のモデルとして復活

アストンマーティン『DBS スーパーレッジェーラ』●ボディサイズ:全長4,712x全幅1,942×全高1,280㎜ ●車両重量:1,693kg ●エンジン:V型12気筒ツインターボ ●総排気量:5.2L ●最高出力:725PS/6,500rpm ●最大トルク:900Nm/1,800~5,000rpm ●トランスミッション:8速AT ¥34,342,333(税込)(アストンマーティンジャパン)撮影・篠原晃一
アストンマーティン『DBS スーパーレッジェーラ』●ボディサイズ:全長4,712x全幅1,942×全高1,280㎜ ●車両重量:1,693kg ●エンジン:V型12気筒ツインターボ ●総排気量:5.2L ●最高出力:725PS/6,500rpm ●最大トルク:900Nm/1,800~5,000rpm ●トランスミッション:8速AT ¥34,342,333(税込)(アストンマーティンジャパン)撮影・篠原晃一

「デイビッド・ブラウンの時代(’47〜’72年)から『DBS』は最高峰を、『スーパーレッジェーラ』は軽量化が生む究極のパワーとパンチを意味する」

ライヒマン氏が語るとおり、2018年7月、世界で同時発表された『DBS スーパーレッジェーラ』は史上最もアグレッシブなアストンマーティンのGTだ。

『スーパーレッジェーラ』はイタリア、トゥーリング社の車体軽量技術であり、同社とは『DB2』以来の深い関係がある。その名のとおり8割がカーボン製部品で構成され、ベースモデルの『DB11』に比べ徹底した軽量化が行われた。史上最も獰猛で大きなフェイス、特徴的なフロントグリルのデザインはエアロダイナミクスに基づいたヘキサゴンシェイプが採用され、これが冷却効果と同時に最大限のダウンフォースを実現。これにより5.2リッターのミッドシップ12気筒ツインターボエンジンは最高出力725PS、最大トルク900Nmを発生する。

「伝統は重要だ。伝統を壊すことはできない。だが、イノベーションなくして継承は不可能だ。私はいつも考える。ラグジュアリーとは何か。なぜ、これをつくるのか。歴史、品質、情熱、ミリ単位の違いがすべての結果となり、究極の価値を生む」

伝統への敬意、妥協を許さぬ挑戦と革新、これこそが最上の英国クラフツマンシップを生んだのだ。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2018年秋号アストンマーティンと「ヘンリー・プール」が奏でるハイエンド・ラグジュアリーの頂点を見よ!
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撮影/Andy Barnham 構成・文/長谷川喜美 撮影協力:DUKES LONDON www.dukeshotel.com