人を育てる側になると、部下にスキル不足やマナー違反などを注意する機会が増えるもの。ただ、こういったことは面と向かって指摘しにくく、どのような言葉を選べば相手を傷付けずに済むか頭を悩ませてしまいがち。

そこで今回は、話し方インストラクターの櫻井 弘さんから、言いにくいことでも相手を不快にさせない魔法の言い換え言葉を教えていただきました。

櫻井さんによると、厳しいことや辛いことを伝える場合は「相手の意見も尊重した表現にする」「相手の能力を認めたうえでの表現にする」「第三者の視点を使った表現にする」ことが大切なポイントなのだそう。では、ケース別に、NG言葉と魔法の言葉の違いを見ていきましょう。

相手が厳しい指摘を受け入れてくれる「魔法の言い換え言葉」7選

■1:「次からそのやり方はやめてもらえる?」

相手の意見も尊重すればうまく伝わります
相手の意見も尊重すればうまく伝わります

ある仕事を担当している人に、仕事の進め方を変えてもらいたいとき、あなたはどう伝えますか? つい「次から、そのやり方はやめてくれない?」などと一方的に言ってしまっていませんか? 櫻井さんによれば、こんな伝え方が魔法の言葉になるそうです。

【魔法の言葉】
「新しい進め方にしたいんだけど、この方法で問題はないか、明日までに考えておいてもらえないかな?」

「担当者には少なからず、『この業務に関して自分は詳しい』というプライドがあります。そういう相手に一方的に『変更して』と言っても、反発されるのは目に見えています。そこで、例文のように『あなたの専門的な意見も参考にして改善策を考えたい』というニュアンスが伝わるように表現しましょう。そうすれば、自分の意見を尊重してくれているという印象になり、相手も納得しやすくなります」(櫻井さん)

言いにくいことでも、「相手の意見も尊重した表現にする」ことで、大きく印象が変わるようです。ぜひ、参考にしてみてくださいね。

■2:「忙しいだろうからこの業務から外れていいよ」

「忙しいだろうから」はNGワード!
「忙しいだろうから」はNGワード!

あるプロジェクトや業務から、「外れてもらう」ことを伝えなくてはならないときがあります。

もしその理由がスキル不足であれば、遠慮なく「まだスキルが足りないから」と言えますが、そうではなく性格的なものなど微妙な理由の場合もありますよね。そんな際、「もう外れていいよ」ではNGなのだそう。もっとやんわりと伝える魔法の言葉を教えていただきました。

【魔法の言葉】
「今回はどうやら●●さんの手を煩わせずに済みそう」

「『忙しいだろうから、今回は外れていいよ』では、事前の相談もなくいきなりだ、失礼だ、嫌味か、などのネガティブな印象をどうしても与えてしまいます。それよりも例のように、『相手の負担を減らすための決断です』というニュアンスが伝わるように表現することで、大きく印象は変わります」(櫻井さん)

この表現なら「相手の能力を認めたうえでの表現にする」ことにもなるため、ダブル効果で言いにくいこともやんわりと伝えられるそうです。

■3:「パツパツのようだから他の人に頼むね」

相手のキャパシティーは勝手に判断しない
相手のキャパシティーは勝手に判断しない

キャパシティーオーバー気味な仕事を抱えている人に対して、仕事量を減らすことを伝える際、「もうパツパツみたいだから、他の人に頼むね」と、言ってしまうことがあります。櫻井さんによればこれもNG表現なのだそうです。

【魔法の言葉】
「君にはさらに上のレベルの仕事をしてほしいから、これは他の人に任せよう」

「『目一杯だから、他に頼む』など、はたから見ただけで言ってしまうと、『自分の能力を勝手に決めつけないで』と、プライドを傷つけてしまいます。そこで例のように、『仕事は量より質である』というニュアンスや、『一人前からさらに成長して一流を目指そう』というニュアンスの伝わる言葉にすれば、相手も速やかに同意してくれるでしょう」(櫻井さん)

なるほど、「さらに成長して一流に」というニュアンスを含める表現というのは、とても勉強になりますね。ぜひ、いろんなケースで使えるようにしたいものです。

■4:「あなたの顧客応対、なっていないわね」

相手をプロであると認めてあげましょう
相手をプロであると認めてあげましょう

上司からすると、部下の態度はどうしても気になるもの。そのためつい「あなたの顧客応対、なっていないわね」などと、直接的でストレートな表現をしてしまいがちです。櫻井さんによればこれもNG表現。もっと言われた相手が心を開いてくれる言い方があるそうです。

【魔法の言葉】
「顧客応対のプロであるあなたらしくないですね。何かあった?」

「新人さんにストレートに表現をするならまだしも、ある程度のベテランに『なっていない』とストレートに表現しても、相手は『上司の指導不足では』と責任転嫁してしまうかもしれません。

そこで例のように、『あなたもプロなのだから』と、プロであることを前提とした表現に言い換えましょう。加えて何かあったという言葉を添えることで、注意するだけでなく相談してほしいというニュアンスが伝わり、相手から心を開いてもらうことができます」(櫻井さん)

言いにくいことを伝えた後、相手との間にわだかまりが残るのは避けたいもの。そんな際には「成績が落ちたようだけど、何かあったの?」と伝えれば、わだかまりの解消にも役立ちそうですね。

■5:「もう少しやる気を出してくれない?」

視点を変えるとモチベーションが高まります
視点を変えるとモチベーションが高まります

大切なプレゼンの準備がまったく進んでいない、仕事に対する覇気が感じられないといった相手につい小言を言いがち。こうした場合に有効な、相手のモチベーションを高める魔法の言葉があるそうです。

【魔法の言葉】
「お客様があなたに期待して待っているのでは?」

「モチベーションを高めるのに効果的なのは、視点を変えてもらうことです。部下と上司のやり取りではなく、第三者であるお客様からの視点や期待を感じてもらうニュアンスの言葉で言い換えましょう。そうすれば、部下と上司や社員同士などで起こりがちな反発や感情的なしこりも払しょくされて、仕事に対するモチベーションが一気に上がるのです」(櫻井さん)

二者間では起こりやすい感情的な問題も、「第三者の視点を使った表現にする」ことで払しょくできるということですね。これもとても参考になるアドバイスですね。

■6:「世の中はあなたを中心に回っているわけじゃない」

お説教口調では反発を招きます
お説教口調では反発を招きます

チームプレイが欠かせない職場にも、個人主義やエゴの強い人はいるものです。そんな相手に「世の中はあなたを中心に回っていません!」などと、つい上から目線で言ってしまっていませんか?

【魔法の言葉】
「実績ある●●さんのリーダーシップに期待しています!」

「協調性が無いように見えても、言い方ひとつでその人のポテンシャルを引き出せます。誰もが何かしらの実績があるでしょうから、その実績を称えつつ『あなたにもできる』『あなたに期待している』というニュアンスを表現するようにします。くれぐれも、反発必至の説教口調にはならないように気を付けましょう」(櫻井さん)

否定されるとつい、人は反発するもの。そこで相手の承認欲求をうまくくすぐる表現が効果的なのですね。

■7:「少しは自分で考えて仕事してほしい」

否定するばかりではうまくいきません
否定するばかりではうまくいきません

なんでもかんでも指示待ちタイプという人についイライラしてしまい、「自分で考えて仕事して!」などと言っていませんか? こうした際の魔法のフレーズを教えてもらいましょう。

【魔法の言葉】
「次にすべきことを自分で考えると、仕事がもっと楽しくなり、あなたも成長しますよ」

「人はつい、相手のダメな部分を指摘するだけで終わりにしてしまいます。これでは相手の心になかなか響きません。そこで『あなたの成長のために』というニュアンスを出した表現に言い換えましょう。そうすれば相手も『自分のことを気遣ってくれている』『自分にとってメリットになる』という認識が生まれて、仕事の進め方や価値観を変えてくれることにもつながるでしょう」(櫻井さん)

相手を否定するばかりが注意喚起の言い方ではない、ということですね。相手にどんなメリットがあるのかまでを伝えて、仕事に対する取り組みを変えてもらえるよう促しましょう。

以上、オフィスライフで日常的に使える魔法の言い換え言葉を教えていただきました。言いにくいことを伝える場合は、「相手の意見も尊重した表現にする」「相手の能力を認めたうえでの表現にする」「第三者の視点を使った表現にする」などをポイントとして、気持ちよく相手からYESを引き出しましょう。

櫻井 弘さん
話し方インストラクター
(さくらい ひろし)櫻井弘話し方研究所代表取締役社長。製薬、金融、サービス、IT関連などの民間企業をはじめ官公庁・各種団体で、コミュニケーションに関する研修・講演を手がけ、研修先は1,000以上に及ぶ。著書に『ちょっと言いかえるだけ! 気のきいた「話し方」ができる本』(三笠書房)、『人を「巻き込む」コミュニケーション技術 その気にさせる仕事のさばき方』(日本経済新聞社)他、多数。
公式サイト
この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
2018.11.14 更新
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
町田光