年を取ると、どんどん物忘れが増えがちに。一体どうすれば、記憶力をしっかり維持できるのでしょうか?

この悩みをメンタルトレーナーの梯谷幸司さんにぶつけたところ、まずは無意識のメッセージを知ることが大事だと言います。そして物事に対する考え方や意識の持ち方を変えると、物忘れも十分に克服できるのだとか。

そのためには苦痛系ホルモンを減らして、報酬系ホルモンを増やすことが必要不可欠とのこと。

「物忘れの原因には、脳の海馬という部位に作用するコルチゾールという苦痛系のホルモンが大きくかかわっています。ストレスなどでコルチゾールが分泌されると海馬がダメージを受けて記憶の更新が行われにくくなるのです。つまり、脳内において、苦痛系ホルモンを分泌させずに、いかに報酬系ホルモンを分泌させるかということが、物忘れの改善においては重要なのです」(梯谷さん)

それでは、物忘れが多いとき、そもそも私たちの脳は一体どんな状態になっているでしょうか? 梯谷さんから、自覚すべき原因と改善するための具体的なアドバイスを詳しく教えていただいたので、以下からご紹介します。

忘れっぽくなっているときに脳から出ている「無意識のメッセージ」6選

■1:「最近忘れっぽい」と思い込んでいるから物忘れが増えている

「物忘れした」とつぶやくごとにひどくなっていく
「物忘れした」とつぶやくごとにひどくなっていく

何か物忘れをするたびに、「最近、忘れっぽくなった」「どんどん物忘れしていく」などと心につぶやいていませんか? そう思う度に、いっそう物忘れが深まるそうです。

「言葉を使って自分の潜在意識に働きかけることを、アファーメーションと言います。『忘れ物が多いな』『物忘れがひどくなった』などとつぶやくのも、アファーメーション効果になり、つまり、『もっと物忘れをしろ』と自己暗示にかけているのです。

そこで、物忘れグセを克服した、未来のあるべき自分をイメージしてください。そして『物忘れがひどい』などとつぶやかずに、『私は若いころの記憶力をそのままにもっている』『さらにクリアに記憶力が冴えわたっている』など、ポジティブなアファーメーションに変えるようにしましょう」(梯谷さん)

「わたし、最近忘れっぽくなった」とつぶやくだけでは、それを認める効果はあっても、自分自身に改善・克服までは要求していないことになります。ぜひ、ポジティブなアファーメーションで、記憶力のアンチエイジングを実行していきましょう。

■2:生きる目的を見失いかけているから物忘れが増えている

最近、生きる目的を見失っていませんか?
最近、生きる目的を見失っていませんか?

物忘れがなんとなく増えてくるのは、仕事でもプライベートでも、人生がひと段落して落ち着き始めたころだそうです。

「会社でも志望していた役職を得て、家庭でも子供がある程度大人に成長した。自分がこれまで人生の目標、目的にしていたことに到達してしまったころに、物忘れもやって来ます。これはいわば、『次の人生の目的をつくりなさい』というサインです。

いちばん避けたいのは『生き残るために、ただ生きている』という、動物的な生存欲求だけになっている人生の過ごし方です。これは動物の食物連鎖が示すように、絶えず死が隣にある人生という現実を創る可能性があります。

そこで、目的欲求を満たすための人生に切り替えましょう。人間は目標・目的・夢に向かう時、報酬系ホルモンが分泌され、心身ともに若々しくいられるのです」(梯谷さん)

もし大きな目標をすでにクリアしていたら、すごく些細な目的でもOKとのこと。毎日の中に小さな目標を立てるなどして、達成する喜びを忘れないようにすることが大事なのだそうです。

■3:「こうあるべき」にとらわれているから物忘れが増えている

「答えはいろいろあっていい」と認めましょう!
「答えはいろいろあっていい」と認めましょう!

ある程度の年齢になると、自分の培ってきた処世術がつい主張してしまい「こうあるべき」ということが増えてきます。その発想が、物忘れにもかかわっているそうです。

「年齢を重ねるごとに、私たちの中には義務感が強まります。そして『~しなければいけない』や『~はこうあるべきだ』といった発想がどんどん増えてしまうのです。これらの発想はすべて、脳内ではコルチゾールなどの苦痛系ホルモンの分泌を促して、海馬にダメージを与えています。そこでもっと柔軟な発想に切り替えましょう。

『こうあるべき』ではなく『いろんな方法がある』『私は、できるかどうかは関係なく、これをやりたい』と、こだわりを捨ててみるのです。そうすれば、本来自分の中にある解放欲求も満たされ、報酬系ホルモンの分泌につながりますし、他人との対立やストレスが減少し、記憶力の低下も抑えることができるのです」(梯谷さん)

つまり、脱・がんこ者というわけですね。機会があれば、いろんな意見が交わされるアイディア会議のような場を体験するといいそうです。

■4:楽しみの追求を忘れているから物忘れが増えている

何かを創り出すことを楽しみましょう!
何かを創り出すことを楽しみましょう!

仕事、家庭、子育てなどに追われ、自分の楽しみの追求を忘れていた。そんなときに物忘れが増えたりはしていませんか? もしそうなら、いろいろと解決方法があるようです。

「記憶力を司る海馬にとって、苦痛系ホルモンが大敵であることはお伝えしました。では海馬にとって最良の友は何かといえば、オキシトシンという幸せホルモンです。オキシトシンの分泌が、海馬の記憶力を守ります。

オキシトシンの分泌に効果的なのが、絵を描くなどの芸術活動や創造的な活動です。ダンスなど身体機能を使う活動もいいですし、歌を歌うことやオペラなども効果的です。友人とカラオケに行ったり、合唱団にチャレンジしてみるのもいいでしょう。

また、スキンシップもオキシトシンを分泌させてくれます。パートナーとのスキンシップを楽しんだり、社交ダンスなどを始めてみるのもいいでしょう」(梯谷さん)

オキシトシンは、ペットとの触れ合い効果などでも最近注目されていますよね。年末は第九の素人合唱団も増えます。この機会にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

■5: 事前に対策を考えていないから物忘れが増えている

最悪を想定しておくことはネガティブなことではありません
最悪を想定しておくことはネガティブなことではありません

「これは絶対に忘れないようにしなきゃ」というとき、事前に対策を考えていますか? 事前対策を考えることは、脳や無意識にとっても大切なのだそうです。

「対策リストとは「こういうことが起きたら、こう対処しよう」という対処法をあらかじめ考えておくことを言います。いわば脳のリスク・マネジメントです。

物忘れの場合の対策リストとしては、例えば、玄関のドアに付箋で『~を忘れずに持参する』と前の晩に書いて貼っておく、などがあります。こうした対処法をリスト化しておくのです。

起きてほしくないこと(ネガティブなこと)を事前に想定して対策を考えておくことは、脳の海馬や無意識にとっても勉強させることになりますので、結果として、海馬はダメージを受けずにポジティブな成果につながります。そのため私はこれを『マイナス思考戦略』と呼んでいます」(梯谷さん)

よくネガティブなことをイメージするとそれを引き付ける、なんて言われますよね。しかし、その対策のイメージをするならば、ポジティブな結果につながるそうです。

■6:悲観基準になっているから物忘れが増えている

「物忘れなんて、どうってことない」と開き直りましょう
「物忘れなんて、どうってことない」と開き直りましょう

物忘れをはじめ、いやな出来事をすべて「あぁ、いやだ」と悲観的にとらえていませんか? もしそうなら、生き方を変える大きなチャンスかもしれません。

「私がこれまでにお会いした、本当に成功している人に共通しているのは、問題が起きた際に『チャンスが来た!』『面白いことが起こった』と考えられるということです。

物忘れや病気に対しても同じことが言えます。物忘れをして、『自分はそんな年なんだ、他にもいろんなことが起きるに違いない』と悲観的に見るのか、それとも『この経験から何か学べるに違いない』『何かを変えるチャンスだ』と楽観的に見るかで、その後の人生は大きく変わります。ぜひ、楽観基準で人生をとらえて、報酬系ホルモンで脳内を満たしてください」(梯谷さん)

人生のできごとを悲観的に見ればその分ストレスもたまり、苦痛系が作用して物忘れも多くなるということですね。ぜひ、楽観基準でいきましょう。

忘れっぽくなったときは、とにかく苦痛系ホルモンを減らして、報酬系ホルモンを増やすこと。そのために、生きる目的を明確にして、楽観基準にする。これをしっかり頭に叩き込んで、物忘れとは無縁の人生にしていきましょう!

梯谷幸司さん
心理技術アドバイザー/メンタルトレーナー、トランスフォームマネジメント 代表取締役、米国NLP協会Art of NLPトレーナー、LABプロファイル・コンサルタント&トレーナー
(はしがい こうじ)人間心理、言語心理学、催眠療法、NLP(神経言語プログラミング)など、これまで世界的な専門家に師事し、30年以上の歳月をかけ科学的手法に基づいた独自の成功理論「梯谷メソッド」を確立。夫婦問題からうつ病患者、経営者、アスリートにいたるまで、クライアントの抱える先入観や思い込みを素早く特定し、脳の95%を支配する潜在意識をフル活用させ、精神的、身体的苦痛を伴わずに、のべ48,800人のセルフイメージを変革してきた。わずか30分で成功者ゾーンに意識変革させるその手法は、経営者やビジネスマンからも「再現性が高い」と絶大な支持を得ている。30年超のキャリアと起業家からアスリートまで、のべ48,800人のセッション経験を武器に、外資系企業へのコンサルティングや研修事業なども行い、一般向けにはワークショップを精力的に開催中。
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この記事の執筆者
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WRITING :
上原 純