独特な文学世界を生む村田ワールドの秘密がわかる、愉快で刺激的なエッセイ集

社会のルールになじめない人間の、心の奥底に蠢(うごめ)く感情を描き出した『コンビニ人間』や、近著『消滅世界』では、男女の性愛がなく、人工授精による出産が普通となった未来社会を、まるで未来予知のように描く。

いずれも、村田さんの独特で特異な世界観から生み出されるが、この初のエッセイ集には、幼少期から現在に至るまでの村田さんの脳内で、どんなことが考えられてきたのかが記される。

村田沙耶香さん

「小さいころから、頭のなかで想像や妄想することが好きでした。そして真実というもの、本当の本当を知りたい欲求が強かった。たとえば親はなぜ子にご飯をくれるのか、家族とはなんなのかといったこと…。大人すら気づかない奥深い真実があるのではと」

そんな息苦しさを解き放ち「真実の世界に連れていってくれたのが小説でした」という。

「人目を気にして、だれにも話せないようなことも、小説のなかでは自分の意思で生きられる。救いでした。とり憑かれたように祈るように書いてきたんです。毎日の生活のなかで、重なり合った記憶を脳に冷凍保存しておいて、書くときに解凍している形です」

芥川賞授賞式に「小説と結婚する、その決意のために黒色のドレスを選んだ」という貴重なエピソードから、「コンソメスープを長年、コソソメスープと思い込んでいた」という、やや天然を思わせて笑える話まで、村田さんの“にぎやか”な脳内がのぞける。

「人の脳の数だけ世界があるって奇妙で素敵なこと。だれかの脳を借りて、世の中を眺めてみたいなとよく思います」

村田沙耶香さん

むらた・さやか/ 1979年、千葉県生まれ。2003年『授乳』で群像新人文学賞を受賞し、デビュー。2016年『コンビニ人間』で第155回芥川賞を受賞。初の書評集『私が食べた本』が2018年12月7日に発売された。

『となりの脳世界』

『となりの脳世界』 著=村田沙耶香 朝日新聞出版 ¥1,400(税抜)

INTRODUCTION

デビューしてから15年の間に、新聞や雑誌などで執筆してきた文章をまとめた、初となるエッセイ集。村田さんからひもとかれる“脳内”は、実在しなかった級友の話をはじめ、笑って泣ける、不可思議な感覚に満ちあふれている。 

※本記事は2018年12月7日時点での情報です。

PHOTO :
高木亜麗
EDIT&WRITING :
水田静子