1月公開の「大人の女性が観るべき映画」4選

映画ライター・坂口さゆりさんが厳選した、「大人の女性が観るべき」映画作品を毎月お届けする本シリーズ。今回は、2019年1月公開の映画、『ヴィクトリア女王 最期の秘密』、『天才作家の妻 40年目の真実』、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』、『ジュリアン』の4作品をご紹介します。

■1:『ヴィクトリア女王 最期の秘密』|ヒューマンドラマ

©2017 FOCUS FEATURES LLC. 
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「Queen Victoria 至上の恋」(1997年)でヴィクトリア女王を演じたジュディ・デンチが、20年ぶりに2度目のヴィクトリア女王役に挑みました。最愛の夫と従僕を亡くし、長年心を閉ざしてきたヴィクトリアが心を許したインド人青年との身分違いの友情を描いた人間ドラマです。

1887年、ヴィクトリア女王即位50年記念式典。記念硬貨の贈呈役に選ばれたアブドゥルは英領インドから英国へとやってきます。贈呈時には「決して女王と目を合わせてはいけない」と言われていたにもかかわらず、アブドゥルがふと女王を見つめると目が合ってしまい、微笑みかけます。ヴィクトリアはそんなしきたりにとらわれないアブドゥルを気に入り、英国に残すことに……。

©2017 FOCUS FEATURES LLC. 
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孤独なヴィクトリア女王は常識にとらわれない“自由な”アブドゥルに心引かれ、友情を深めていきますが、当然これを心よく思わない人たちも。そんな彼らをヴィクトリア女王がユーモアたっぷりに振り回す姿は痛快です。

とはいえ、孤独や重圧に苦しみ、亡くなった最愛な人たちを慕うヴィクトリア女王を見ながら、いつの間にか思いを馳せていたのは天皇皇后両陛下のこと。両陛下のお気持ちは知る由もありませんが、そのお立場やお仕事がどれほど大変なことかと勝手に胸を痛めておりました。

本作に続き、来月は『女王陛下のお気に入り』、3月には『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』と英国王室ものの公開が続きます。平成も間もなく幕を下ろそうとする今だからなのかはわかりませんが、こうした映画で日本の来し方行く末を考えるのもいいかもしれません。

作品詳細

  • 『ヴィクトリア女王 最期の秘密』
  • 監督:スティーヴン・フリアーズ 出演:ジュディ・デンチ、アリ・ファザル、エディ・イザード、アディール・アクタル、ティム・ピゴット=スミス、オリヴィア・ウィリアムズ、フェネラ・ウールガー、ポール・ヒギンズ、ロビン・ソーンズ、ジュリアン・ワダム、サイモン・キャロウ、マイケル・ガンボンほか。
    2019年1月25日(金)からBunkamura ル・シネマほか全国公開

■2:『天才作家の妻 40年目の真実』|ヒューマンドラマ

©META FILM LONDON LIMITED 2017
©META FILM LONDON LIMITED 2017

夫を支えることに尽力するか、自分自身で新たな人生を始めるか。『天才作家の妻 40年目の真実』は、女性の幸せや生き方について改めて考えさせられる映画です。

世界的な作家のジョセフ(ジョナサン・プライス)と、その夫を40年もの間献身的に支え続けてきた妻のジョーン(グレン・クローズ)のふたりは、ある朝スウェーデンからの国際電話を受けます。待ちに待ったノーベル賞決定にふたりは大興奮。授賞式には息子のデビッド(マックス・アイアンズ)も同行し、慌ただしいスケジュールをこなしていきます。

ところが、次第にジョーンは夫のはしゃぎぶりにうんざり。夫の伝記本執筆を目論む記者のナサニエル(クリスチャン・スレーター)と話をするうちに、彼から「あなたはジョゼフにうんざりしているのでは? 影として彼の伝説づくりをすることに」と、核心をつく質問を受けることに……。

実は、若いころから文学の才能に恵まれていたジョーンは作家を目指していたのですが、出版業界の女性蔑視の風潮に失望。結局、大学の指導教授であったジョゼフと結婚し、自分の才能を夫に注ぎ込んで夫の成功を支え続けていたのでした。

©META FILM LONDON LIMITED 2017
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妻のいた男性と恋に落ち結婚した彼女だけに、最初は夫の影として執筆することに献身できる喜びを味わっていたに違いありません。でも、そんな喜びは月日が経てば変わります。なぜ夫の脱ぎっぱなしの服を私が片付けなければならないのか? なぜ夫がノーベル賞を受賞できたのか? 晴れがましいはずのノーベル賞授賞式は、ジョーンがこれまで封印してきた怒りを解くトリガーになってしまいます。

本作でグレン・クローズはアカデミー賞の前哨戦であるゴールデングローブ賞で主演女優賞を獲得。観る者に女性の生き方を問わずにはおかない繊細な演技は必見です。

作品詳細

  • 『天才作家の妻 40年目の真実』
  • 監督:ビョルン・ルンゲ 出演:グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレイター、マックス・アイアンズ、ハリー・ロイド、アニー・スターク、エリザベス・マクガヴァンほか。
  • 2019年1月26日(土)から新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開 

■3:『バジュランギおじさんと、小さな迷子』|ヒューマンドラマ

©Eros international all rights reserved ©SKF all rights reserved.
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『ダンガル きっと、つよくなる』『バーフバリ 王の凱旋』『ガンジスに還る』など、ここ最近インド映画の公開が相次いでいます。本作はお人好しも度を超えた(!)、正直で信心深いインド人青年が主人公の人情喜劇です。

ある日、声を出せない迷子の少女シャヒーダーにまとわりつかれたパワンは、行きがかり上少女の面倒をみることに。やがて彼女がインドと対立するパキスタン人でイスラム教徒だと発覚。居候先のヒンズー教徒の主人から少女を「すぐに故郷へ返せ」と一喝されてしまいます。

でも、そう言われても少女は住所がわからないどころかビザもパスポートもなく、パキスタンへ送り返すこともままなりません。ところが、パワンは身元のわからない少女を親元へ送り届けようと、二人で波乱の旅に出ることに……。

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少女の家がわからなくてもビザを取得できなくても国境警備隊に捕まってもひるまず、スパイと疑われて警察に追いかけられても前進し続ける。そんなパワンの持ち前の明るさと能天気な正直さは、人の心を動かし、壁をひとつずつ打ち崩していきます。人の善意を信じたくなる、寒い冬にピッタリの心がほっこりする映画です。

作品詳細

  • 『バジュランギおじさんと、小さな迷子』 
  • 監督:カビール・カーン 出演:サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプール、ナワーズッディーン・シッディーキー、シャーラト・サクセーナ、オーム・ブリーほか。
  • 2019年1月18日(金)から全国順次公開 

■4:『ジュリアン』|スリラー

©2016 – KG Productions – France 3 Cinéma
©2016 – KG Productions – France 3 Cinéma

 スタンリー・キューブリックのあまりにも有名なホラー映画『シャイニング』。ジャック・ニコルソンが演じたジャックの狂気に慄いた人は少なくないのでは? 本作『ジュリアン』は、脚本も執筆したグザヴィエ・ルグラン監督がその『シャイニング』や『狩人の夜』にインスパイアされた、という映画です。

ドメスティックバイオレンスが原因で離婚調停に至ったアントワーヌと妻のミリアムは、未成年のジュリアンの親権を巡って主張が対立。離婚は認められたものの、単独親権を望んでいたミリアムの願いは却下され、父親が望む共同親権が認められることに。そのため、ジュリアンは定期的に父親と会わざるを得なくなるのですが……。

©2016 – KG Productions – France 3 Cinéma
©2016 – KG Productions – France 3 Cinéma

父親アントワーヌのキレっぷりと、母親を父親から必死に守ろうする健気なジュリアンの怯えっぶりに、スクリーンから次第に目が離せなくなります。特に、アントワーヌがあるモノを持って母子の住む高層住宅へやってくるクライマックスは、観客もジュリアン同様息を殺し身を硬直させるに違いないほどの恐ろしさ! もっとも本作はただ怖いだけの映画ではありません。ホラー映画が苦手な筆者も心動かさずにはいられないほど良くできたドラマです!

社会派の内容ながらドキュメンタリーではなく「スリラー」というジャンルにこだわり、DVをより身近な問題として観る人の心に訴えることに成功しています。

作品詳細

  • 『ジュリアン』
  • 監督・脚本:グザヴィエ・ルグラン 出演:レア・ドリュッケール、ドゥニ・メノーシェ、トーマス・ジオリア、マティルド・オネヴ、マチュー・サイカリ、フロランス・ジャナスほか。
  • 2019年1月25日(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
この記事の執筆者
生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉
WRITING :
坂口さゆり
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