今月のMs. Precious……藤沢市在住、55歳。都内の私立短大を卒業後、カリフォルニアのコミュニティカレッジに入学。帰国後は実家の飲食店を手伝いながら海外でヨガ講師のディプロマを取得、そのまま地元・藤沢でヨガを教えている。コロナ禍でのオンライン講座がヒットして、今では全国から生徒が集まる「予約が取れないヨガ教室」に。食事会で知り合った銀行員と30歳の時に結婚。夫はアマチュアながら熱心に市民オーケストラで活動するコントラバス奏者なので、ファミリーカーの選択基準は「楽器運搬ができるかどうか」。

今月のクルマ……【Volkswagen ID.Buzz Pro Long Wheelbase】
フォルクスワーゲンにはいくつかの「アイコン」があります。戦後復興の象徴でもあり、ヨーロッパのモータリゼーションの大きな柱でもあった「ビートル」。そして、その後継モデルの「ゴルフ」も小型ハッチバックというカテゴリーを確立した金字塔として長く愛されています。単に移動手段として重宝されただけではなく、これらを選び、乗ることは、その時代に寄り添い、文化の一部になっている感覚さえありました。もうひとつ強烈な個性を持っていたといえば、1950年に初代が登場した「ワーゲンバス」ことVWトランスポーター。もともとビートルの技術を流用・強化して設計された小型商用車だけに、堅牢で乗りやすく、愛嬌のあるルックスも手伝って瞬く間に人気モデルに。1960年代のヒッピームーブメントでは、中古市場で入手しやすくなっていたバスを若者たちが思い思いに乗り、まるで自由な旅の象徴のように捉えられたこともありました。今年7月に日本発表となった電気自動車ID.Buzzが独特の期待感に包まれたのは、そんなワーゲンバスの現代版として登場したから。もはや価格もボディサイズもコンパクトとは言えないものの、様々なライフスタイルを想像し、期待感でワクワクさせてくれます。昨今、こんな気分になるクルマは珍しく、VWはアイコンの復活に成功したと言ってもよいかもしれません。

「あのワーゲンバスがこんなにフューチャリスティックに生まれ変わるなんて」――Ms.Precious

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「ほっこりしたかつての雰囲気がこんな風に進化するなんて。しかも電気自動車。あの頃からすれば、これは完全に“未来の乗り物”です」(Ms. P)

Ms.Precious あっ……

松任谷 どうかされましたか?

Ms.Precious いや、あの、思ったより大きいな、と。

松任谷 そうですね。幅は2メートル近くあるし、これはロングの方だから長さも5メートル近くありますから。

Ms.Precious アルファードよりも大きい、ですか?

松任谷 大きいですね。

Ms.Precious 実物が想像とちょっと違ったので少し戸惑っています。

松任谷 そうですよね。僕も戸惑いました。それほど昔のワーゲンバスは印象が強かったということでしょうか。

Ms.Precious そうですね。

松任谷 ところで、なんでこのクルマだったんですか?

Ms.Precious 話した方がいいですか?

松任谷 ぜひ。

Ms.Precious 学生の頃、ハワイに住みたいと思っていたことがあって。

松任谷 ハワイ、いいですよね。

Ms.Precious その頃付き合っていた彼がサーファーで、ワーゲンバスに乗っていたんですね。

松任谷 いわゆるタイプ2と呼ばれていた奴ですね。その彼は現地の方ですか?

Ms.Precious いえ、日本人だったんですけど……。半分プロになろうと思っていて、向こうに友達数人と小さな家を借りたりしていたんですよね。

松任谷 へえ。

Ms.Precious 本当に汚い家で、海からも遠いし、湿気が凄くて……。でもみんなサーフィン仲間だから、なんだか不思議な連帯感があって……。ワーゲンバスもボロボロで、すぐにどこか壊れていました。

松任谷 自分たちで直すんですか?

Ms.Precious そうですね。壊れるところはだいたい決まっていたみたいで、彼の友達がいつも直す担当で。

松任谷 青春映画を見てるみたいです。

Ms.Precious そんなにいいものではなかったですけど、でも思い出って時間が経つと汚れが落ちていくんですよね。

松任谷 ああ、そういうものかなあ。僕の場合は汚れが錆びていくような思い出ばかりで……。

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「レトロなデザインではないのに、あの頃のワーゲンバスを思い出させてくれるかわいらしいお顔。見れば見るほど親しみがわいてきました」(Ms. P)

Ms.Precious 松任谷さんはハワイは?

松任谷 2番目に行った外国ですね。最初はパリで、2番目。

Ms.Precious お仕事で、ですか?

松任谷 いえ、遊びです。初めてのハワイのバケーション。空港を降りた途端にハワイの花のいい匂いがして、それがいまだに頭に強くこびり付いています。ここは天国じゃないか、って思いました。

Ms.Precious kaiというパフュームがあるのですがご存じですか? ご存じなければ今度試してみて下さい。空港を降り立った時の匂いがします。

松任谷 えっ? 本当ですか? それじゃあぜひ買ってみます。

Ms.Precious 失礼ですけど、今、着てらっしゃるものはレインスプーナーですよね?

松任谷 さすがですね。その通り。そうか、当時ハワイでも人気だったブランドですもんね。偶然ですね。いや、偶然じゃないか……。このクルマがそんな気分にさせてくれるのかも。

Ms.Precious ワーゲンバスは私の青春と言ってもいいのかもしれません。

「内装も素っ気ないのがワーゲンっぽいというか道具っぽくていい」――松任谷

松任谷 変なこと聞いてもいいですか?

Ms.Precious はい。

松任谷 その彼とは?

Ms.Precious はい、3年くらいで別れました。まあ、当時は結婚するつもりだったんですけどね。

松任谷 今のご主人は?

Ms.Precious その後、割合すぐに出会ったんじゃなかったかな。まったくハワイとは関係のない人ですけど。

松任谷 すみません、詮索するみたいなことを聞いて。

Ms.Precious いえいえ、このクルマに乗りたかったのも、あのハワイがあってのことですから。

松任谷 そのことはご主人もご存じなんですか?

Ms.Precious うっすらとは知っていると思います。でも、それ以上聞いてこないので。

松任谷 なるほど、ではとりあえず乗ってみませんか?

Ms.Precious はい。

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「パノラマガラスルーフは、タッチ操作で透明と半透明に切り替え可能。これだけ大きい天井だと解放感がありますね。運転してみるとVWの安全性能、運転のしやすさはしっかり盛り込まれているのがわかります。電気自動車は航続距離が心配だけど、554kmも走れるバッテリーを積んでるのも安心」(Ms. P)

松任谷 僕は助手席に乗るので、キーはこれです。

Ms.Precious 入り口が一段低くなっていて乗りやすいですね。

松任谷 インテリアの印象はどうでしょう?

Ms.Precious 正直に言っていいですか?

松任谷 どうぞ。

Ms.Precious 超シンプルですね。

松任谷 広々しているところがそう思わせるのかな。

Ms.Precious それもありますね。でも素っ気ないデザインですよね。

松任谷 そこがワーゲンっぽくないですか?

Ms.Precious ああ、そうですね。そういえば昔のタイプ2も道具感だけでしたものね。

松任谷 だけど、このクルマは約1000万円なんです。道具感だけで1000万は高くないですか?

Ms.Precious そうですね。当時のタイプ2はいくらだって言っていたかな……。たしか4人くらいで、それぞれ500ドルくらいずつ出して買ったと聞いた記憶があります。

松任谷 ああ、僕も学生の頃組んでいたバンドで買ったデリカも1人そのくらいだった記憶があるなあ。

Ms.Precious 青春ですね。

松任谷 錆びた青春ね。

「大きい割には運転しやすいですね。それにふわーっとスピードが出て気持ちいい」――Ms. Precious

Ms.Precious ところでスタートは?

松任谷 そのままブレーキペダルを踏んでいただければスイッチオンです。

Ms.Precious 電気自動車ですもんね。

松任谷 せっかくなので茅ヶ崎あたりまで走りましょうか。

Ms.Precious 任せておいて下さい。そのあたりの土地勘はありますから。

松任谷 東名から行けばすぐですしね。

Ms.Precious あの、第三京浜からではダメですか? 私、あの道が大好きなので。

松任谷 もちろん、大丈夫です。では最後は海岸線を走るルートですね。

Ms.Precious はい、それで行かせてください。

松任谷 どうですか? 運転してみて。

Precious.jp 運転しやすいですね。このフロントガラスの下端の中央にある出っ張りを左側に合わせる感じで走ればいいので。

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「ボディの大きさを見て、私に運転できるか心配だったけど、確かに中央のでっぱりを車線の左端に合わせるとガイドになりますね。シートカバーは、海洋プラスチックゴミ10%とリサイクルペットボトル90%から作られる“SEAQUAL YARN”。そんなサステイナブルなところも、海を愛する私は気に入りました」(Ms. P)

松任谷 タイプ2も運転されていたんですか?

Ms.Precious そうですよ。みんな疲れちゃって横でグーグー寝ちゃうから私がよく運転してました。

松任谷 ハワイは走りやすいですか?

Ms.Precious どうかな。みんな飛ばすけど、のんびり飛ばす感じですよね。

松任谷 でもタイプ2は遅かったでしょ?

Ms.Precious そうですね。私はクルマとは思っていなかったかもしれません。

松任谷 じゃあ何でしょう?

Ms.Precious 何でしょう。私にも分かりません。でも、この新型はクラッチ操作も要らないし速いです。ふわーっとスピードが出ちゃう。運転している限り、あの頃の思い出は蘇ってきませんね。

松任谷 ではちょっと残念ですね。

Ms.Precious まあ、思いだしても仕方ないですから。と、そう言いつつもちょっと寂しいかな。

松任谷 ワーゲンがビートルの新型をリリースした時も、同じような感想を持たれた方が多かったように記憶しています。やっぱり、クルマと記憶はリンクするものですね。

Ms.Precious そうですね。特に女子はそうかもしれません。

松任谷 いや、男子だってそうですよ。いい思い出も悪い思い出も、クルマにべったりとくっついて残っています。

Ms.Precious それにしても静かですね。しっかりとしていて、音楽の音もいいです。

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「オーディオはHarman Kardonで聞き疲れしない心地よいサウンド。電気自動車ということで室内は比較的静かだし、キャビン空間が広いから音がきれいに聞こえますね」(Ms. P)

松任谷 頼もしいですよね。飾り気がない分、頼もしさがより強く感じられるというか。

Ms.Precious うちの旦那は、素っ気ないわりに結構するな、なんて怒りそうですけど。

松任谷 なるほど。

Ms.Precious ようやく海ですね。おっしゃる通り、今は茅ヶ崎なんて東名から圏央道使って新湘南であっという間ですけど、私はやっぱりこのルートが好きだなあ。

松任谷 今日は少し風が強いかな。波が白く見えます。

Ms.Precious たぶん、丁度いいくらいの波なんだと思います。なんてね。知ったようなことを言ってますよね。サーフィンなんて出来ないくせに。

松任谷 お腹空きませんか?

Ms.Precious だったら平塚海岸の海の家みたいなところでハンバーガーを食べませんか?

松任谷 あ、僕そこ知ってます。氷もやってますよね?

Ms.Precious 懐かしいなあ、と言いつつ昔はなかったんですけど。

松任谷 海がお好きなんですね。

Ms.Precious そうですね。心の中にはいつも海がありますね。だからふらっとひとりでも来ちゃいます。

松任谷 なるほど……。

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今月のクルマ
【Volkswagen ID. Buzz Pro Long Wheelbase】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,965×1,985×1,925mm
車両本体価格:¥9,979,000(ベース価格)

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

フォルクスワーゲン

TEL:0120-993-199

この記事の執筆者
1951年、東京都生まれ。1974年 慶應義塾大学・文学部卒。4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。20歳でプロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド「キャラメル・ママ」「ティン・パン・アレイ」を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして松任谷由実、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど多くのアーティストの作品に携わる。1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。ジュニアクラスも設け、子供の育成にも力を入れている。松任谷由実のコンサートをはじめ、JUJU、平原綾香など様々なアーティストのコンサートやイベントを演出、映画、舞台音楽も多数手掛ける。2021年よりバンド「SKYE」に参加。日本自動車ジャーナリスト協会に所属し、長年にわたり『CAR GRAPHIC TV』(BS朝日・毎週木曜23:00~)のキャスターを務める他、『日本カー・オブ・ザ・イヤー』の選考委員でもある。ラジオ『松任谷正隆のちょっと変なこと聞いてもいいですか?』(TOKYO FM・毎週金曜17:30~)にも出演。好きなもの:朝のお茶の時間、夜の昼寝。
PHOTO :
小倉雄一郎(小学館)
WRITING :
松任谷正隆
EDIT :
三井三奈子