今月のMs.Precious……東京・浅草在住の47歳。強いて言えば職業は不動産管理業。両親は既に鬼籍に入っており、残された莫大な土地・建物を管理・運用している。とはいえ、大部分は専門家に任せ、事実上、専業主婦のようなものでもある。夫は干支ひとまわり上の59歳になる、ごくごく一般的な会社員。子供はいない。来年は結婚20周年と夫の定年と還暦が重なるメモリアルイヤーなので、記念になるプレゼントを思案中。奮発して、夫がかねてからほしがっていた「速いクルマ」を考えている。「私、クルマは好きだけど、全然詳しくないの」ということで、今回松任谷氏に選定を託した。

今月のクルマ……【PORSCHE MACAN TURBO ELCTRIC】
「スポーツカーの乗り味」を楽しむための車だと言われるポルシェ。シートの着座感、ブレーキペダルの踏み心地、コーナーを駆け抜けるときのフィーリング、エンジンの音やレスポンス、ギアボックスのシフト感などなど、それらすべてにおいて、「考え抜かれた機械」ならではの秀逸なフィーリングが備わります。スポーツカーが何たるかを知りたければまずはポルシェに乗ろう、とクルマ通から言われるほどの圧倒的なクオリティ。それを有り体に言うなら「ポルシェっぽい感じ」。物理の法則上、スポーティに仕立てることに向いていないSUVというボディタイプながら、ポルシェはカイエンにもマカンにも、初代から「ぽい感じ」がしっかりとありました。これらSUVが成功できた要因として、粘り強い開発の末に「ポルシェっぽい味」をSUVでも色濃く作り出せたことは、外せない事実だと思います。モノが悪ければカイエンの爆発的な成功もなく、その勢いに乗った小型のマカンも生まれなかったはず。車好きはパフォーマンスで、あまり詳しくない人はブランド力で。そんなふうにみんなを納得させてしまうプロダクトは古今東西、どこにおいても最強です。どうやら新型マカンはEVになっても、その文脈にしっかり乗っているようです。クルマ目線で言えば「あのポルシェが本気で作った電気SUV」であり、そうでなくとも「誰もが知る高級スポーツカーブランドのEV」というトレンド感は無敵です。

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「僕が2025年に乗ったクルマの中で一番好きだったクルマ」――松任谷

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「電気自動車は初めてで、最初乗った時はおっかなびっくりでしたが、慣れてくると何とも言えない静かな感じがクセになりそう。それでいてパワーもありそうだから、乗れば乗るほど好きになっちゃいそう。不思議な魅力ね」(Ms.P)

Ms.Precious あ、これですか?

松任谷 はい、これです。

Ms.Precious うっすらと編集部の方からポルシェと聞いていたので。

松任谷 はい、ポルシェです。

Ms.Precious えっ、こんなポルシェあるんですか?

松任谷 そうですね……ということはもっと背の低い……。

Ms.Precious スポーツカーだと思ってました。

松任谷 今はポルシェもいろいろあるんですよ。背の高いモデルもカイエンというもう少し大きいのもあります。

Ms.Precious 名前は聞いたことあります。

松任谷 これはマカンと言って、カイエンの弟分ですね。これは2代目なんですが、初代のマカンは大ヒット商品だったんですよ。

Ms.Precious へえ。街で走ってました?

松任谷 今でも結構走ってます。で、この2代目にするにあたって、何年前だったか忘れましたが、ポルシェはマカンを全部電気自動車にする、なんて宣言したんです。

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「松任谷さんに言われてから注意してみると、マカンって都心ではたくさん走っているのね。電気自動車になって従来のマカンとはフォルムや顔の印象が変わったからか、今までのマカンと結びつきませんでした」(Ms.P)

Ms.Precious 電気自動車っていいんですか

松任谷 うーん、まあいいとも言えるし、マンション住まいの人にはまだ不便かもしれませんね。

Ms.Precious あ、ようやくわかりました。なんで編集部からお住まいは一軒家ですか、なんて聞かれたのか……。

松任谷 そうですね。今回はちょっと迷いましたね。なにしろ、僕が2025年に乗ったクルマの中で一番好きだったクルマにしてください、なんてリクエストだったので。

Ms.Precious てっきりスポーツカーだと思ってました。そしてうっすらポルシェと聞いて、なるほど、と。

松任谷 一軒家だと、200ボルトの電源を引いてくれば、毎日、朝起きると満タンです。よくないですか?

Ms.Precious スタンドに行かなくていいんですか?

松任谷 まあ、電気がなくなったら充電しなくちゃならないけど。

Ms.Precious ガソリンスタンドで充電するんですか?

松任谷 いやいや、充電は充電スタンドで……。

Ms.Precious 見たことないかも。

松任谷 たぶん、気がつかないだけでご覧になっていると思いますよ。

Ms.Precious 何だか面倒くさそう。

松任谷 確かにガソリンを入れるのは一瞬だけど、電気は少し時間が掛かりますね。

Ms.Precious 時間ってどれくらい……。

松任谷 施設によって差がありますけど、まあ30分もあれば満充電の半分くらいはいけるんじゃないでしょうか。

Ms.Precious ちょっと頼りがないですね。

松任谷 実を言うと、僕も10年近く電気自動車を持っているんですけど、家以外ではまだ2回くらいしかやったことがありません。でも、満充電にしておけば最低300キロくらいは充分に走れるんで、クルマで旅行でもしない限り充分ですね。

Ms.Precious なるほど、電気自動車ですか……。

松任谷 お知り合いではまだ電気自動車をお持ちの方はいらっしゃらないんですか?

Ms.Precious いるのかしら……。ちょっとわかりません。

「今後電気自動車が増えていくだろうから、所有の貸駐車場にもチャージャーを導入してみようかしら」――Ms. Precious

松任谷 クルマはお好きなんですよね。

Ms.Precious はい、大好きです。このクルマもよく見るとかっこいいです。

松任谷 ポルシェですからね。

Ms.Precious 色がいいですね。

松任谷 これはアイスグレーメタリックといって、限りなく白に近いグレーですね。僕もこの色は大好きです。特にこのマカンには合いますよね。

Ms.Precious つるんとしていてババロアみたい。

松任谷 ははは、確かにババロアっぽいかもしれません。黄色だったらプリンになるのかな。それでも、初代よりはだいぶシャープになったんですけどね。

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「エンブレムもモノトーンでかっこいいですね。これみよがしじゃなくて、クワイエット・ラグジュアリー的な感じ。ボディカラーにも合ってます」(Ms.P)

Ms.Precious 松任谷さんはこのクルマのどこがお好きなんですか?

松任谷 そうですねえ。全て、と言いたいところだけど……。

Ms.Precious へえ、そんなにいいんですか。

松任谷 結局、クルマは好みですからね。僕がいいからと言って、他の人がいいと思うかは分からないんです。

Ms.Precious そういうものですか?

松任谷 でも、最初は違和感があっても、だんだん好きになるクルマもあるから、どうなんだろう……。

Ms.Precious 異性と同じようなものかしら。

松任谷 僕も初対面の印象の悪い人の方が打ち解けると仲良しになる傾向にありますね。

Ms.Precious あ、わかる。

松任谷 ポルシェは昔、そういうクルマだったんです。運転しにくくて、下手にクラッチを繋ぐとギクシャクして、無理矢理運転しているとクラッチが壊れちゃったり……。

Ms.Precious その話はどこかで聞いたことがあります。だからおまえには無理、と言われたこともありました。

松任谷 でもこれは大丈夫。完全にオートマチックですから。

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「インフォテーメントっていうんですか? 今のクルマって、このフロント部分にある画面が大きくて、私からしてみたら子供の頃に思い描いた『未来のクルマ』ですよ。電気自動車ということで、私にとってはなおさら未来そのもの」(Ms.P)

Ms.Precious 運転してもいいですか?

松任谷 ちなみに事故歴は?

Ms.Precious 大丈夫。駐車違反くらいです。

松任谷 あ、それは事故ではないですね。じゃあお任せしましょう。乗ってください。

Ms.Precious 見晴しがいいですね。でも高すぎないから運転しやすそう。

松任谷 普段は何にお乗りですか?

Ms.Precious 私はずっとベンツです。

松任谷 ベンツのどんなモデルですか?

Ms.Precious なんだろう。あまり大きくないやつです。あれ? 割合大きかったかな? 立体駐車場には入らないから。

松任谷 ご自分で選びはしない、と。

Ms.Precious そうですね。人任せ。今はパートナーが選んでくれてます。

松任谷 なまじ詳しくない方が幸せなのかもしれませんね。

Ms.Precious パートナーの着るものは私が選んでますけど。

松任谷 ほう、そういう家庭もいいですね。うちは正反対です。

Ms.Precious というと?

松任谷 お互いの持ち物は何も知らない。従ってうちのクルマは何だかかみさんは知りません。

Ms.Precious 着るものは?

松任谷 全部自分で買いますよ。女性の趣味と男性の趣味はどこかで違うんですよね。

Ms.Precious へえ。面白い……。

松任谷 走ってみますか? その右側の電気マークのボタンが電源ボタンだけど、もう今の時点で電気は入っているのでそのまま走れます。

Ms.Precious なんだか怖いですね。

松任谷 僕も初めて電気自動車に乗った時は怖かったですよ。えっ、何もせずに走っちゃうの?って感じですよね。

Ms.Precious そうですね。このレバーを下げればDに入るのかしら。

松任谷 そうです。上に上げるとRでバックですね。Pボタンを押すとパーキングです。

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「これがシフトレバーなのね。まるでスイッチみたい。不思議な感じだけど、数日乗れば慣れちゃうものなんでしょうね」(Ms.P)

Ms.Precious ではそっといきますね。

松任谷 はい。

「いい意味でピタッと来る。なんだかタイトな服を着ている感じ」――Ms. Precious

Ms.Precious あ、本当に音がしないんですね。

松任谷 そうですね。モーターの音だけですね。でもモードを変えると人工的な音がしますけど。

Ms.Precious モードってなんですか?

松任谷 走り方、と言った方がいいのかな。ノーマルとスポーツと、もっとスポーツと、あとはオフロードなんてのもありますね。

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「ドライブモード、ですか……。私はノーマルで事足りるけど、ポルシェを楽しみたい人だったら乗り味をいろいろ試すんでしょうね」(Ms.P)

Ms.Precious 私のクルマにもあるのかしら。

松任谷 オフロードは多分ないと思うけど、古いベンツでなければいくつかは付いているはずです。

Ms.Precious 帰ったら調べてみます。

「電気自動車ならではの重量感も、ひとたび飛ばすとウソのように軽く感じる」――松任谷

松任谷 走り出した印象はどうですか?

Ms.Precious いいですね。ピタッと来ます。なんだかタイトな服を着ている感じかしら。

松任谷 ハンドルから伝わって来る雰囲気はどうですか?

Ms.Precious 手のひらの中で何かがバタバタしている感じかしら。これはベンツにはないです。

松任谷 タイヤの重さが伝わってきているのかもしれませんね。それに決して軽いクルマではないので、どこか重厚感はありますよね。ところがひとたび、飛ばし始めるとそれがウソのように軽くなるんです。

Ms.Precious どういうことでしょうか?

松任谷 例えば大谷選手ってお尻が大きいじゃないですか。でも走ると速いですよね。重そうなのに軽々と速い。例えるならそんな感じ。

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「タイヤ、大きいですね。車体の大きさの割に存在感があります。門外漢の私は22インチって言われてもピンとこないけど、『大きい!』ということだけはわかります」(Ms.P)

Ms.Precious これはそういうクルマなんですね……。

松任谷 そういうクルマです。で、普段は優しそうでしょ?

Ms.Precious そうですね。友達になれそうです。

松任谷 ポルシェもそういうクルマになったんですよね。

Ms.Precious 嫌いなところはないんですか?

松任谷 基本的にはないですね。ひとつだけ問題があるとするなら、ターボでもないのにターボという名前を付けたことくらいかな。

Ms.Precious というと?

松任谷 これはどうでもいいことなので省略しますけど、ポルシェはターボという名前をモデルの中の最高位を表す名称として使っていくようです。

Ms.Precious 他のモデルとは違うんですか?

松任谷 そうですね。マカンターボはマカンファミリーの中ではやはり特別なモデルですね。速さに於いても乗り心地に於いても、他のマカンよりいいと思います。

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「ターボっていうエンブレムがここについているだけで速そう……って、素人丸出しでごめんなさい。でも正直、普通の女性ってこんなもんだと思う。そうそう、ここ数年、こういう横一文字のブレーキランプってよく見かけるけど、流行りなの?」(Ms.P)

Ms.Precious こういうクルマをパートナーに買ってあげたらどうだと思いますか?

松任谷 いやあ、そういうことなんですか……? それはすごいですね。びっくり。でもどうかなあ。僕は自分で選びたいですけどね。

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今月のクルマ
【PORSCHE MACAN TURBO ELCTRIC】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,780×1,950×1,630mm
車輛重量:2460kg
車両本体価格:¥15,410,000(ベース価格)~

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

ポルシェジャパン

TEL:0120-846-911

この記事の執筆者
1951年、東京都生まれ。1974年 慶應義塾大学・文学部卒。4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。20歳でプロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド「キャラメル・ママ」「ティン・パン・アレイ」を経て、数多くのセッションに参加。その後アレンジャー、プロデューサーとして松任谷由実、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど多くのアーティストの作品に携わる。1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。ジュニアクラスも設け、子供の育成にも力を入れている。松任谷由実のコンサートをはじめ、JUJU、平原綾香など様々なアーティストのコンサートやイベントを演出、映画、舞台音楽も多数手掛ける。2021年よりバンド「SKYE」に参加。日本自動車ジャーナリスト協会に所属し、長年にわたり『CAR GRAPHIC TV』(BS朝日・毎週木曜23:00~)のキャスターを務める他、『日本カー・オブ・ザ・イヤー』の選考委員でもある。ラジオ『松任谷正隆のちょっと変なこと聞いてもいいですか?』(TOKYO FM・毎週金曜17:30~)にも出演。好きなもの:朝のお茶の時間、夜の昼寝。
PHOTO :
小倉雄一郎(小学館)
WRITING :
松任谷正隆
EDIT :
三井三奈子