2019年11月公開の「大人の女性にオススメしたい映画」4選

映画ライターとして多くの映画に触れている坂口さゆりさんが厳選した、「大人の女性が観ると人生が豊かになる」映画作品をご紹介します。本記事では、2019年11月に公開された映画の中から4作品、『ひとよ』、『永遠の門 ゴッホの見た未来』、『テルアビブ・オン・ファイア』、『幸福路のチー』の見どころを解説します。

どれもこれまでの自分にはなかった、忘れていた「思わぬ気づき」を与えてくれる作品ばかり。ちょっとした空き時間に、劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか?

『ひとよ』|ヒューマンドラマ

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© 2019「ひとよ」製作委員会

監督が白石和彌、3兄妹役に佐藤 健、鈴木亮平、松岡茉優、そして母親役が田中裕子と聞いたら、これはもう観に行くしかないでしょう! そんな思いで観た映画『ひとよ』は、期待を裏切らない感動のヒューマンドラマでした。

土砂降りの雨の夜、タクシー会社を営む稲村家の母こはる(田中)は、自ら運転するタクシーで夫を轢き殺す。これ以上子どもたちが暴力を受けないように、3兄妹の幸せを信じての母の決断だった。

だが、次男・雄二(佐藤)、長男・大樹(鈴木)、長女・園子(松岡)は事件の傷を隠したまま、大人になっていた。事件から15年、母は子どもたちに約束した通り、家に帰ってくる……。

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© 2019「ひとよ」製作委員会

壮絶な暴力を振るい続けた父、殺人者となってしまった母をもった3人の子どもたち。フリーライターとなった雄二にはやさぐれ感が漂い、電気店で働く真面目そうな大樹は離婚寸前。スナックで働く園子は毎晩、酔っ払っては管を巻いている。

三人三様の振る舞いはもちろん、髪型や髭面、服装などルックスから、15年の月日がどれほど彼らの人生にとって厳しいものだったのか、想像せずにはいられません。

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© 2019「ひとよ」製作委員会

筆者は実際、佐藤さん、鈴木さん、松岡さんに話を伺う機会がありましたが、3人の役づくりもまた徹底的に行われていました。

佐藤さんはこの役のためにジャンクフードを食べて、体重を増やしたり無精髭を生やしたり。鈴木さんは役柄上、吃音を学び、半年前くらいから子役とすり合わせながら、キャラクターをつくり上げました。松岡さんは何かをあきらめちゃった感じを出すため、髪の色やメイクもほとんどすっぴんで挑んだそうです。

人生をさまよい、生きる希望を失っていた3人の子どもたちが、再び母との絆を取り戻せるのか。家族とは何か。観る者はいつの間にか、自身の家族に思いを馳せているに違いありません。 

作品詳細

  • 『ひとよ』 
  • 監督:白石和彌 出演:佐藤 健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子ほか 配給:東宝東和
  • 全国公開中。

『永遠の門 ゴッホの見た未来』|伝記

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© Walk Home Productions LLC 2018

これまで何度となく映画で取り上げられてきた、画家のフィンセント・ファン・ゴッホ。本作『永遠の門 ゴッホの見た未来』は、自らも画家であり映画監督のジュリアン・シュナーベルがメガホンを取った作品で、その映像美は特筆モノ。

初めてゴッホの描いた絵と、映像がシンクロして見えました。ゴッホの絵画の色彩と映画の色彩に、まるで違和感がないのです。

なぜ、私たちはゴッホの絵画に引きつけられるのか。この映画を見て、筆者は初めてゴッホという人物の心に触れた気になり、その答えを目にしたように思います。ゴッホを演じたのはウィレム・デフォー。彼はこの映画で第75回ヴェネチア国際映画祭で最優秀賞男優賞を受賞しています。

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© Walk Home Productions LLC 2018

画家としてまったく評価されないゴッホ(デフォー)は、ゴーギャン(オスカー・アイザック)の「南へ行け」とのひと言でアルルへ向かいます。「まだ見ぬ絵を描くために、新しい光を見つけたい」。そんなゴッホの願いは、冬から春へと移り変わるなかで叶えられることに。

広大な畑を歩き回り、土を味わい、風や夕景に身を委ね、心で感じるゴッホでしたが、あるとき、ハイキングをしていた子どもたちとのいざこざが発端で、地元の人とトラブルになり、強制的に病院へ入れられてしまうことに……。

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© Walk Home Productions LLC 2018

「描くことのほかは何もできない」というゴッホが、「生きることは何かを伝えたい」とひたすら彼が見た世界を描き続ける。それは彼の絵に対する単なる情熱というよりも、まるで神様から与えられたギフトを、内側から放出せずにはいられないかのようです。

絵が1枚も売れなくても、「未来の人々のために、神は僕を画家にしたのかもしれない」と言えるその崇高さに、思わず私は「その通りだったよ」と声をかけてしまいました。

唯一無二の画家の魂は、映画を観る者の心を洗ってくれるはずです。

作品詳細

  • 『永遠の門 ゴッホの見た未来』
  • 監督・共同脚本:ジュリアン・シュナーベル 出演:ウィレム・デフォー、ルパート・フレンド、オスカー・アイザック、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエほか 配給:ギャガ、松竹
  • 新宿ピカデリーほか全国公開中。

『テルアビブ・オン・ファイア』|コメディ

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© Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artémis Productions C623

ほとんどの日本人はイスラエルとパレスチナの問題をいわれても、残念ながら、地理的にも宗教的にもピンとこないでしょう。ましてや政治的な問題を真正面から突きつけられても、スルーしてしまうだけ。その点、パレスチナ問題を笑いで包んでしまったこの映画『テルアビブ・オン・ファイア』は、捻りが効いている!

2018年のヴェネチア国際映画賞で作品賞を受賞し、世界各国から賞賛された映画ですが、銃撃でも爆撃でもなく、"笑撃"で観る者の心を撃ち落とします。 

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© Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artémis Productions C623

主人公の青年サラーム(カイス・ナシェフ)は、エルサレムに住むパレスチナ人。冴えない男にもかかわらず、プロデューサーの叔父コネで、パレスチナの人気ドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の制作現場のインターンとして、雑務や言語指導を始めます。

ところが、撮影所はラマッラー(ヨルダン川西岸地区)にあるため、毎日イスラエルの検問所を通らなければなりません。

ある日、その検問所でひょんなことから不審者と見なされ、イスラエル軍司令官のアッシ(ヤニブ・ビトン)の元へ連行されます。最初は高圧的なアッシでしたが、サラームが、妻が大好きなドラマの"脚本家"(サラームの口からの出まかせですが)と知るや、態度を一変。結末を変えることに同意させられることに……。

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© Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artémis Productions C623

劇中劇の人気ドラマは第三次中東戦争を背景に、スパイとなったパレスチナ人女性と、パレスチナ人の恋人、イスラエル軍の将軍との三角関係を描いた物語。パレスチナを取るのか、ミイラ取りがミイラになってしまった女性が禁断の愛を取るのか。

日本でいうジェットコースター型昼ドラ的内容は、パレスチナのドラマであるにもかかわらず、イスラエル人の奥様方にも大人気。ドラマに夢中になっている女性たちの姿は、親近感が湧くに違いありません。

劇中劇と現実との二重構造を通して、パレスチナとイスラエルの複雑な問題をわかりやすく浮かび上がらせ、「笑い」で包む。笑いのなかにたくさんの発見があるこの映画、映画好きはもちろん、これまで中東に興味がなかった方も楽しめる、心からおすすめしたい1本です。

作品詳細

  • 『テルアビブ・オン・ファイア』
  • 監督:サメフ・ゾアビ 出演:カイス・ナシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニブ・ビトン、ナディム・サワラ、マイサ・アブドゥ・エルハディ、サリーム・ダウほか 配給:アット エンタテインメント
  • 2019年11月22日(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

『幸福路のチー』|アニメーション

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© Happiness Road Productions Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

最後は、世界各地の映画祭で受賞を重ねてきた、台湾発の長編アニメーション『幸福路のチー』を紹介します。台北郊外に実在する通り「幸福路」を舞台に、主人公チーと、下町に生きる人々の姿を描いています。

チーは中華民国総統の蒋介石が亡くなった1975年4月5日が誕生日、という設定だけに、彼女の成長と共に、台湾の歴史も紐解いていくことに。

台湾好きな日本人女性は多いと思いますが、このアニメを観たら、ますます台湾に親近感を覚えるかもしれません。20〜30代の女性なら主人公チーの悩みに共感し、40〜50代の女性には懐かしさを感じさせるのではないかと思います。

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© Happiness Road Productions Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

アメリカで暮らすリン・スー・チーは、台湾の祖母が亡くなったという知らせを受けて、久しぶりに故郷の幸福路に帰って来ます。

子どものころに慣れ親しんだ川はすっかり整備され、同級生に会っても、相手はチーのことがすぐに思い出せません。チーは自分がそんなに変わってしまったのかと、記憶を辿り始めます……。

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© Happiness Road Productions Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

ソン・シンイン監督が自らの半生をベースに脚本を執筆。最初は実写で考えていたそうですが、「アニメーションがいいかも」と閃いてしまったのだとか。ところが、台湾にはアニメーションスタジオがない!

そこで、ソン監督はなんとスタジオを立ち上げ、4年の歳月をかけて映画をつくり上げたのでした。

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© Happiness Road Productions Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

"アニメーション慣れ"している日本人には、キャラクターに見慣れるまで多少時間がかかるかもしれません。でも、キャラクターはソン監督が「台湾人らしいキャラクター」に徹底してこだわってできたデザインです。

どこか町の匂いが感じられる懐かしくて温かい風景や、「こういう人たち、いたいた!」と思えるような人たちを見ているうちに、心がふっと軽くなっていくのではないかと思います。 

作品詳細

  • 『幸福路のチー』
  • 監督・脚本:ソン・シンイン 声の出演:グン・ルンメイ、チェン・ボージョン、リャオ・ホェイジェン、ウェイ・ダーション、ウー・イーハン、ジワス・ジゴウほか 配給:クレストインターナショナル
  • 2019年11月29日(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。 
この記事の執筆者
生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『女性セブン』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉
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