2019年12月〜2020年1月公開の「大人の女性にオススメしたい映画」3選

『シュヴァルの理想宮 ある郵便局員の夢』、『カツベン!』、『パラサイト 半地下の家族』。

映画ライターとして多くの映画に触れている坂口さゆりさんが、2019年12月から2020年1月にかけて公開される新作映画の中から、「大人の女性が観ると人生が豊かになる」作品を3作品、ご紹介します。

ぽっかり空いた時間ができやすい年末年始こそ、泣いて笑って人生について思いを巡らす、良質なエンターテイメントに触れて、新しい年をスタートするパワーをいただきましょう!

■1:『シュヴァルの理想宮 ある郵便局員の夢』|ヒューマンドラマ

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© 2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

目標達成のために、前もってコツコツと何かをし続けることが苦手です。だからこそ、それができる人が羨ましく、尊敬してしまいます。

映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』の主人公は、まさにそんなコツコツ型の人! なにしろ33年の年月をかけて、たったひとりで愛娘のために「おとぎの国の宮殿」をつくり上げてしまうのですから。

本作は、のちにピカソも絶賛したという、フランス政府の重要建造物に指定された「シュヴァルの理想宮」をつくり上げた実在の人物、フェルディナン・シュヴァルの半生を描きます。

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© 2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

舞台は19世紀末のフランス南東部の村、オートリーヴ。郵便配達員のシュヴァル(ジャック・ガンブラン)は、無口で人付き合いも愛情表現も苦手。村人たちからは変人扱いされていて、妻が亡くなると幼い息子を手放してしまいます。

しかし、村から村へ毎日数十キロも歩く彼は、まもなく新しい配達先で未亡人のフィロメーヌ(レティシア・カスタ)と出会い再婚。ふたりの間に娘のアリスが誕生します。

ところが、人が苦手なシュヴァルは、日々どのように幼い命に接すればいいのか戸惑うばかり。ある日、配達の途中で石につまづいた彼は、奇妙な石の形に魅了され、愛娘のために石を積み上げて宮殿をつくることを思い立つのでした。

寡黙で人と接することが苦手なシュヴァルは、端から見たら変人かもしれません。でも、いつもひとりで歩き続けながら、自然と対話し、想像力を育んでいました。

建築の勉強をしたこともないのに、自然と接するなかで多くのことを学び、石の積み上げ方や針金を入れて強度を増す方法など、自分自身で考えて、愛娘のための崩れ落ちない宮殿を少しずつつくり上げていくのです。

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© 2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

父親が寡黙であろうと、そのまっすぐな愛情はアリスにしっかりと伝わっていきます。村の男の子たちにからかわれ、宮殿をバカにされても、アリスはお父さんも、お父さんがつくる宮殿も大好きです。そんな夫と娘を見守る妻フィロメーヌの愛情も深く、一家は幸せな日々を送るのでした。

しかし、人生は決して平坦ではありません。シュヴァルの人生にもまた、大きな試練がやってきます。

家族を思うシュヴァルの優しさにあふれた映画であると同時に、天気が良くても悪くても、どんなに辛いことがあろうとも、石を運び組み立て、セメントで塗り固めていく。大きなことを成すためには小さなことをコツコツと積み重ねていくことがどれほど尊いことか。年齢を重ねれば重ねるほど、その真実を思い知るだけに、改めて、シュヴァルの姿勢に感動せずにはいられません。

作品詳細

  • 『シュヴァルの理想宮 ある郵便局員の夢』
  • 監督:ニルス・タヴェルニエ 脚本:ファニー・デマレ、ニルス・タヴェルニエ、ロラン・ベルトーニ 出演:ジャック・ガンブラン、レティシア・カスタ、ベルナール・ル・コク、フロランス・トマサンほか 配給:KADOKAWA
  • 東京・角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて公開中。全国順次公開。

■2:『カツベン!』|エンターテイメント

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© 2019「カツベン!」製作委員会

新年は、楽しい気分で味わいたい! そんな人にぴったりな映画が、周防正行監督の5年ぶりの新作『カツベン!』です。しゃべりのスーパースター「活動弁士」を取り上げ日本映画のはじまりを描いた、映画愛にあふれた1本となっています。

そもそも活動弁士とは、映画にまだ音がなかった時代に楽士の奏でる音楽に合わせ、登場する人物のセリフに声を当て、物語を説明した人のこと。活動弁士それぞれの豊かな語りで観客を魅了し、全盛期は大正末年ながら今でも十数名の活動弁士が活動しています。

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© 2019「カツベン!」製作委員会

舞台は大正時代。子どものころに活動写真小屋で見て、活動弁士に憧れていた染谷俊太郎(成田凌)は、"心を揺さぶる活弁で観客を魅了したい"という夢を抱いていました。

ところが、ひょんなことから偽弁士として泥棒一味の片棒を担ぐ羽目に。

インチキに嫌気がさした俊太郎は一味から逃げ出して、小さな町の映画館「靑木館」に流れ着きます。

運よく働かせてもらえることになった俊太郎ですが、そこにいたのは、〈人使いの荒い館主夫婦〉〈酔っ払いの活動弁士〉〈傲慢で自信過剰な活動弁士〉〈職人気質な映写技師〉など曲者ぞろい。おまけに、俊太郎が泥棒一味から失敬した大金を取り戻そうと、一味と警察から狙われることに……。

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© 2019「カツベン!」製作委員会

実は、活動弁士は日本独自の文化。落語や講談、浪曲、浄瑠璃など語り芸が受け継がれている日本ならではの広がりを見せました。活動写真全盛期には8000人近くの弁士が活躍していたそうで、スター弁士になると、時の総理大臣と同じくらいの年収を稼いだそう。

本作でも主演の成田凌をはじめ、永瀬正敏、高良健吾、森田甘路が個性的な話芸を展開。時代の雰囲気を体験できるのではないかと思います。1本の映画で物語と話芸のふたつを楽しめます。

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© 2019「カツベン!」製作委員会

私が初めて活弁で映画を見たのは、30年近く前。今も第一線で活躍する澤登翠さんによる無声映画の金字塔『散り行く花』でした。トーキー映画が当たり前だった私にとって、こんな世界があるのだと目が開かれた思いがした記憶があります。映画を見たら、久しぶりにカツベン映画を味わいたくなりました。

作品詳細

  • 『カツベン!』
  • 監督:周防正行 脚本・監督補:片島章三 出演:成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊ほか 配給:東映
  • 全国公開中。

■3:『パラサイト 半地下の家族』|エンターテイメント

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© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

『殺人の記憶』や『グエムルー漢江の怪物ー』などで知られるポン・ジュノ監督。第72回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した新作「パラサイト 半地下の家族」は、前評判通りの面白さでした!

父ギテクと母チュンスク、長男のギウと長女のギジョンからなるキム一家は全員が"失業中"の身。彼らが住む半地下の家は薄暗く、電波もろくに届かず、窓を開ければ外で撒かれた消毒剤が入ってくる始末。

おまけに、水圧も低いからトイレが家の一番高い位置にある……。家族で内職をしながら糊口をしのぐような日々を送っています。

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© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

そんなある日、大学受験に失敗し続けているギウのもとに、エリート大学生となった友人ミニョクがやってきます。留学している間、自分の代わりに教え子の女子高生ダヘの家庭教師をやってほしいという頼みでした。

大学生にもなっていないギウは最初は断りますが、「受験のプロだろ」と説得され、結局、身分を偽ってIT企業の社長パク・ドンイクの自宅を訪れます。そこは高台にある、もとは著名な建築家が建てたという超豪邸。最初の授業を行ったギウは、夫人ヨンギョと娘ダヘに気に入られ、思わぬ高給を手に。

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© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

帰り際、落ち着きのない長男ダソンを見たギウはヨンギョに紹介したい家庭教師がいると提案。妹のギジョンを美術の家庭教師として送り込むことに成功するのでした。やがて、パク家から信用されるようになったふたりは、とあることを計画するのですが……。

半地下で暮らす貧しいキム一家とITで財をなした豪邸暮らしのパク一家。彼らを隔てるものとはなんなのか。普通に生きている人々が事業や大学受験といった失敗をきっかけに、"底"から這い上がるのが容易ではない世界とはどうなっているのか。

本作は社会の貧富の差を突いた社会派映画でありながら、笑いあり、サスペンスあり、暴力あり……と、ジャンルをひと言では表せない、見事なエンターテイメントになっています。なぜこんな映画をつくれるのか!? と驚愕しっぱなしの132分です!

作品詳細

  • 『パラサイト 半地下の家族』
  • 監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ、ハン・ジヌォン 出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジンほか 配給:ビターズ・エンド
  • 2020年1月10日(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。
この記事の執筆者
生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画をはじめ、芸能記事や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。最近いちばんの興味は健康&美容。自身を実験台に体にイイコト試験中。主な媒体に『AERA』『週刊朝日』『女性セブン』『朝日新聞』など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』ほか。 好きなもの:温泉、銭湯、ルッコラ、トマト、イチゴ、桃、シャンパン、日本酒、豆腐、京都、聖書、アロマオイル、マッサージ、睡眠、クラシックバレエ、夏目漱石『門』、花見、チーズケーキ、『ゴッドファーザー』、『ギルバート・グレイプ』、海、田園風景、手紙、万年筆、カード、ぽち袋、鍛えられた筋肉
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