「クラシックはどうすれば聴かれるようになるのか?」欧州の若手音楽エリートたちの答え
ドイツを活動拠点とし、現在ヨーロッパを中心に全世界で熱い注目を浴びている、若手クラシック奏者集団「シンフォニアクス」。日本でも2019年末に、初公演が開かれました。
メンバーには幼少期から音楽教育を受け、有名音楽学校を卒業し、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団などで演奏していたり、または、ソリストとして活躍中の一流アーティストがそろいます。
ヴァイオリニスト3人、チェリスト2人、ピアニスト1人、そしてエレクトロアーティスト/コンダクター1人の計7人と言う構成(楽曲によってはサポートが入り、8人編成になることも)で、それぞれウィーン、ベルリン、ブダペスト、ニューヨーク、コペンハーゲン、ソウル在住。全世界を飛び回っています。
「コンサートにいったことがない人でも、気軽にクラシックを楽しんでもらいたい」という熱い思いから、"ネオクラシック"という、音楽の新ジャンルを創出しました。
コールドプレイ、アヴィーチーやダフト・パンクなどの楽曲を、クラシカルな弦楽器やピアノによりダイナミックなサウンドに生まれ変わらせる一方、バッハやヴィヴァルディといったクラシックの名曲にシーケンサー、シンセサイザー、ドラムマシンを使って、エレクトロニックなサウンドやビートを取り入れ、美しさはそのままに躍動感あふれる、新しいクラシックを生み出し続けています。
シンフォニアクスの仕掛け人、アンディ・レオマー氏にインタビュー!「クラシック音楽は情感やエネルギー、グルーヴを持ち合わせた音楽」
今回は、シンフォニアクスの仕掛け人で、コンサートではエレクトロ・サウンドを担当するアンディ・レオマー氏に、"ネオクラシック"の取り組みへの反響、これからのクラシック音楽、日本に対する思いなどを伺ってきました。
Q:クラシックとEDMを融合させることになったきっかけと、その狙いはどこにあったのでしょうか?
A:クラシックに親しみが深いと言われるヨーロッパでも、若者のクラシック離れが進んでいます。僕らはみんな子供の頃から厳しいクラシックの音楽教育を受けてきて、クラシックが僕らの人生そのものだからこそ、その素晴らしさをみんなに知ってほしいと思ったんです。
普段ポップスを聴いている人たちにとって、クラシック音楽を聴くきっかけになってほしいし、逆に年配の人には現代のダンスミュージックに触れてもらいたい。クラシックのコンサートにいったことがない人たちにも気軽に足を運んでもらって、時には踊りながら楽しんでほしい。
ファンの中には、おばあちゃんから孫まで3世代で来てくれることもあるんですよ。
※EDM=Electronic Dance Music、シンセサイザーなどを使って作るダンスミュージックの総称
Q:カジュアルな服装で演奏されていましたが、その意図は?
A:それが僕たちのそのままの姿なんだ。
Q:ヨーロッパでは、どんな反響がありますか?
A:反響はとても素晴らしいですよ。会場がクラシカルなホールでも、ダンスミュージックのクラブでもお客さんは本当にオープンに受け入れてくれ、ジャンルの違う音楽を融合させる、僕たちのスタイルのファンになってくれます。
クラブでクラシック音楽をフォーマンスすることや、反対にクラシカルなコンサートホールでエレクトロやダンスミュージックを演奏することも多いですが、どちらも盛り上がって、一緒に踊って楽しんでくれます。
Q:クラシック音楽業界の方々は、クラシックとEDMの融合をどうご覧になっていますか?
A:ドイツならミュンヘンのフィルハーモニー・ガスタイク、フランクフルトのアルテ・オーパー、シュトゥットガルトのリーダーハレや、オーストリアなら有名なブルックナーハウスといった、クラシカルなコンサートホールで、数多くのコンサートをしてきました。
僕たちがこういった素晴らしいコンサートホールに若いオーディエンスを呼び込んだり、若い世代が僕たちの音楽をきっかけに、他のクラシックも聞いてみたり、コンサートに足を運んでみたりするので、クラシック界の方々はとても喜んでくれています。
Q:今後、クラシック音楽はどうすれば、より多くの方に聞かれるようになると思いますか?
クラシック音楽がいかに情感だったり、エネルギーだったり、グルーヴを持ち合わせた音楽であるということを伝えて、(みんながイメージするような「クラシックらしく」正装してステージに座りっぱなし、立ちっぱなしで演奏するだけじゃなく)楽しく動きのある演奏をすることもできるんだって、わかってもらうことかな。
僕たちがLEDの映像や照明、レーザーと組み合わせて、カジュアルな服装でステージ上を動き回ったりしながらパフォーマンスすると、クラシック音楽がまったく違うものに聞こえる。
そのトラックを作ったDJは誰?って聞かれることがあるんだけど、ヴィヴァルディやモーツァルトが作曲したんだよって答えるんだ。みんなでクラシック音楽をもう一度クールなものにしたらいいんじゃないかな。
Q:各国から集まっていますが、メンバーの人選はどのようにして決まったのでしょうか?
A:結成にあたって、若くて、才能のある演奏家を集めるために、クラシック界で活動する人たちに声をかけたり、広告でも呼びかけました。
世界中から多くの応募があった中から、40-50人くらいに絞って、ミュージシャンたちに僕(アンディ)のベルリンのスタジオまできてもらい、オーディションをしたんだ。演奏のスキルはもちろん、僕の考えに共感してくれて、同じようなものを求めているミュージシャンを選びました。
Q:メンバーの方々は、それぞれどんなキャラクターですか?
A:僕たちの出身地は世界各国バラバラだから、みんながまったく異なるバックグラウンドを持っている。アメリカ人、ロシア人、ドイツ人、オーストリア人それぞれがもつお国柄というか、典型的だよね、ってところをちょっとからかって面白がることもあるけど、一緒に演奏するとみんな音楽でひとつになる。
音楽の力って本当に偉大で、国籍や宗教や文化に関係なく、音楽はみんなをひとつにするんだ。
Q:いつも印象に残る背景の映像は、誰が手がけているのでしょうか?
A:映像はベルリンを拠点とする集団"PFADFINDEREI"のひとり、トビーが手がけています。トビーはテクノやエレクトロが盛んになってきたときに、ドイツの大きなクラブでVJをするようになって。僕たちのコンサートでは、それぞれの楽曲に合わせた映像を作って、トビーがLEDスクリーン上で「ライブパフォーマンス」しています。
Q:影響を受けているEDMのアーティストは誰ですか?
A:さまざまな音楽からインスピレーションを受けています。エレクトロニック・ミュージック、ポップやクラシック音楽など。EDMでいうと、特にダフト・パンクやカルヴィン・ハリス、マーティン・ギャリックスの楽曲を演奏するのが好きですね。
Q:日本初公演では、どのような曲を?
A:日本のオーディエンスを音楽の旅へ連れて行くつもりで、クラシックの名曲からライブリミックスによるダンスチューンまで選んだよ。ライブ後半ではみんなが踊っていたね(僕たちも)。
あと、日本公演のために特別な1曲を用意して、素晴らしい日本の作曲家・坂本龍一さんによる名曲『戦場のメリークリスマス』を披露したよ。この曲が本当に大好きで、日本のオーディエンスの前で初めて演奏したときは本当に光栄に思ったし、同時にとても特別で、感動的な瞬間でもあったんだ。
Q:日本での滞在はいかがでしたか?
A:ライブに先駆けて10月にプロモーション来日をしているので、シンフォニアクスとしては2度目だったのですが、ソロではなくて、グループとしてみんなそろって来れたのが本当にうれしかった。ご飯も美味しいし、みんな親切だし、日本はいつ来ても素晴らしい。
それにヴァイオリンのヨハネスは日本に20回くらい来ているから、僕たちにとって頼もしいツアーガイドで。お寿司の食べ方も教えてくれるよ(笑)。
Q:この先、日本公演の予定はありますか?
A:まだ発表できることはないですが、東京だけでなく他の都市でも公演ができたら良いなと思っています。
Q:日本の皆さんへメッセージをお願いします!
A:初来日公演は、僕たちにとって本当に素晴らしい経験でした。お客さんが僕らの音楽に合わせて踊ったり、みんな暖かく迎えてくれて、レスポンスも最高でした!また日本に戻って、素敵なファンのみなさんに会えることを楽しみにしています!
未来へ継承していくべき文化を、現代に受け取られやすい方法でつないでいく取り組み。私たちも学ぶべきことがたくさんありそうです。
実際に楽曲を聴いてみたい方は、YoutubeやSpotifyなどでチェックしてみてください。
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