2020年1月公開の「大人の女性にオススメしたい映画」3選

映画ライターとして多くの映画に触れている坂口さゆりさんが、2020年1月に公開される新作映画の中から、「大人の女性が観ると人生が豊かになる」作品を3作品、ご紹介します。

『男と女 人生最良の日々』、『ジョジョ・ラビット』、『オリ・マキの人生で最も幸せな日』。

人は、自分の意思の如何に関わらず、時代や年齢のステージに応じて、さまざまな状況に置かれます。必ずしもポジティブとは言えない時も訪れます。そんな時に、恋愛が人生を前に推し進めるきっかけとなっている、3つの物語。心が豊かになる素敵な時間を私たちに与えてくれます。

■1:『男と女 人生最良の日々』|ラブストーリー

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© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

「ダバダバダ…」のテーマ曲があまりに有名な恋愛映画『男と女』(1966年)。初めて見たときの感動は忘れられません。妻に自殺されたレーサーと、スタントマンの夫を亡くした女性が寄宿学校にいる子供たちを通じて知り合い、恋に落ちていく物語。

当時は、ヒロインのアヌーク・エーメに完全にやられました。伏目がちで、遠慮深い微笑みを見ながら、気品と艶っぽさが両立する女性が存在することに感動し、「こんな女性になりたい!」と思ったものです。甘美なメロディーと共に、今も映画の1シーンを思い出すだけで甘酸っぱい気分に酔えるくらいです。

2020年1月31日(金)に公開される『男と女 人生最良の日々』は、その『男と女』の主人公たちの「その後」を描いた物語です(監督は前作から自立した作品ゆえ「続編」ではない、と言っています)。

50年以上も経って、同じキャスト・スタッフが再結集するなんて聞いたことがありません。昨年亡くなった名作曲家フランシス・レイは本作が遺作というわけで、まさに奇跡のような映画です。

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© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

瀟洒な高齢者施設で余生を過ごしている、元カーレーサーのジャン・ルイ(ジャン・ルイ=トランティニャン)。記憶を失い始めた彼の口から出るのは、かつて愛した女性アンヌ(アヌーク・エーメ)のこと。

ジャン・ルイの息子アントワーヌは、アンヌを探し出し、父に会ってくれるように頼む。そこで、アンヌは施設を訪れ、ジャン・ルイとの再会を果たすが、彼はアンヌだと気づかない。だが、彼がアンヌへの思いを語り始めることで、アンヌの心にもかつての思いが蘇って来て……。

過去になってしまった愛を振り返るふたり。しばしば挿入される『男と女』の映像によって、見る者もふたりの記憶を体感できる。ひょんな出会いにときめき、「愛してる」の言葉に駆り立てられ、パリの街を疾走する熱情に酔う。そして、50年以上を経て再びドライブをし、語り合い、夕陽を見、ふたりの時間が流れていく。

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© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

年齢を重ね記憶が曖昧になっても「心から愛した人」は忘れられないものなのか、今の自分にはわかりません。でも、記憶に生きていたジャン・ルイが、アンヌの訪れと共に「今」を歩み始める。アンヌもまた、新しいときを刻み始める。そんなことができる関係ってなんて素敵なのかと素直に思います。

歳を重ねるごとに恋愛感情が離れていくような感覚に陥る昨今ですが(苦笑)、この映画を見終えたあとは口角が自然ともち上がっていました。エーメは相変わらず美しく髪をかきあげる仕草は艶っぽい。「こんな女性になりたい!」という気持ちはやっぱり変わりません!

作品詳細

  • 『男と女 人生最良の日々』
    監督・脚本:クロード・ルルーシュ 出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、スアド・アミドゥ、アントワーヌ・シレ、モニカ・ベルッチほか。配給:ツイン
  • 2020年1月31日(金)から全国公開。

■2:『ジョジョ・ラビット』|ヒューマン・エンターテイメント

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© 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation&TSG Entertainment Finance LLC

真面目な話を真面目に書いてはいけないーー。そう師匠に学んだことを思い出してしまった『ジョジョ・ラビット』。ナチスをテーマにした映画と聞くと、暗い・怖い・殺しを扱う「3K」映画のような気持ちになる人がいるかもしれませんが、この映画は違います。

真摯なテーマをユーモアたっぷりに見せてくれる、ひねりの利いた映画です。

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© 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation&TSG Entertainment Finance LLC

舞台は第二次大戦下、10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、母親のロージー(スカーレット・ヨハンソン)とふたり暮らし。空想上の友達がアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)という彼は、バリバリのナチス信望者。

ジョジョはそのアドルフの助けを借りて、青少年集団ヒトラーユーゲントの立派な兵士になろうとしていた。だが、参加した合宿の2日目にウサギを殺すように命令され、心優しいジョジョにはそれができない。「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名をつけられた彼は、森の奥へ逃げ出してしまう。

しかし、友人アドルフから慰められたジョジョは元気を取り戻し、手榴弾の投てき訓練に参加。ところが、失敗して大怪我を負ってしまう。

そんなある日、ジョジョはロージーが不在の間に隠し部屋があることを知る。そこには、ユダヤ人の少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)が匿われていた…。

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© 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation&TSG Entertainment Finance LLC

ちょっと内気でヒトラー信望者な少年・ジョジョを主人公にしたことで、映画はぐんと身近に感じるはず。ジョジョを演じたローマン・グリフィン・デイビスが愛嬌たっぷりで、とにかくかわいいのです! 

忌むべき敵であるはずのユダヤ人少女に出会ったジョジョの戸惑い、交流を重ねていくうちに、恋心を抱いていく姿は、いつの時代でもどこにでもいる少年そのもの。恋をすることで人は成長し、自分でモノを見る目をもって初めて真実が見えてくるーー。ジョジョは、私たちにそんな当たり前のことに気づかせてくれます。

どんどん偏狭になっていくように見えるこの世界だからこそ、いま観るべき1本と言いたい。まもなく決まるアカデミー賞に、どこまで食い込めるかも楽しみです。

作品詳細

  • 『ジョジョ・ラビット』
    監督:タイカ・ワイティティ 出演::ローマン・グリフィン・デイビス、トーマシン・マッケンジー、タイカ・ワイティティ、レベル・ウィルソン、アルフィー・アレン、サム・ロックウェル、スカーレット・ヨハンソンほか。配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
  • 全国公開中。

■3:『オリ・マキの人生で最も幸せな日』|ラブストーリー

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© 2016 Aamu Film Company Ltd

気づけば、今月の見ていただきたい映画は心を豊かにしてくれるラブストーリーが並ぶことに。フィンランド映画『オリ・マキの人生で最も幸せな日』は、実在のボクサーのエピソードに基づいたラブストーリー。心がささくれ立っているような方に、オススメしたい映画です。

1962年、世界タイトル戦でアメリカ人チャンピオンとの対戦のチャンスが舞い込んだ、フィンランド期待のボクサー、オリ・マキ(ヤルコ・ラハティ)。ある日、オリは友人の結婚式に女友達のライヤ(オーナ・アイロラ)と一緒に参列。一日一緒に過ごすうちにふたりはなんとなくよい雰囲気に……。

ヘルシンキでの大一番のため、オリ・マキはライヤを連れてマネージャーの家での居候生活が始まる。試合に向けて厳しい減量を重ねなくてはいけないオリだが、いつでも人に囲まれスポンサーとの食事会もあってなかなか減量が進まない。

さらに、プロモーション活動のための映画撮影や広告写真の撮影なども強いられイライラするばかり。対戦相手の米国人チャンピオンが来日し、共同記者会見を開いても、オリには闘志が感じられず、マネージャーからなじられる始末。ライヤはそんな多忙なオリの姿を見て田舎に帰ってしまう……。

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© 2016 Aamu Film Company Ltd

久しぶりに目にするモノクロ映画! 一貫して映画から優しさを感じるのは、フィルムを使って撮影しているからに違いありません。本作は62年の物語ということで、モノクロの16mmフィルムを使用して撮影したそう。モノクロにもかかわらず、やわらかく温かいのです。

そんな映像に、ライヤを演じるオーナ・アイロラの笑顔がまたぴったり。オリ・マキが唐突に、マネージャーに恋をしたことを告白する場面はなんとも微笑ましいシーンですが、笑顔が印象的な彼女の魅力が説得力をもたらしています。

ボクシングに真っ直ぐだった男が、突如気づいた自分の恋心。不器用な男が戸惑う姿は滑稽ながら応援したくなります。練習と恋と両方をうまくコントロールできなくなってしまったオリは、ついに、練習をボイコットし、ライヤの元へ。

結婚の約束を取り付けて、やってきた運命の日。果たして彼はチャンピオンになれるのか? オリにとって「人生で最も幸せな日」と何なのか? ラストの、オリの幸せそうな姿を見ながら、「人生で最も幸せなことは何か」を考えさせられました。

作品詳細

  • 『オリ・マキの人生で最も幸せな日』
    監督・脚本・ユホ・クオスマネン 出演:ヤルコ・ラハティ、オーナ・アイロラ、エーロ・ミロノフほか。配給:ブロードウェイ 第69回カンヌ国際映画祭「ある視点部門グランプリ」受賞作。
  • 新宿武蔵野館ほか全国順次公開中。