シャネルのジャケットに、使い込んだエルメスのバーキンやケリー、颯爽とスカーフをなびかせたパンツスーツ姿の格好よさときたら、女性の上級管理職のビジュアルとして、ある種の理想形である。シンクロナイズドスイミングで鍛えたすらりとした長身が、若々しいバイタリティーを感じさせる。

Women in the World Summitにて

クリスティーヌ・ラガルド、現IMF(国際通貨基金)の専務理事の勤務スタイルだ。本来は弁護士。アメリカの国際弁護士事務所「ベーカー&マッケンジー」でキャリアをスタート、そこで初の女性チェアマンとなった。2006年には、アメリカの経済誌『フォーブス』による「世界最強の女性30」に選出される。

フランスに戻ってからは農業漁業相を経て、フランソワ・フィヨン内閣で経済、財政、産業相(財務大臣に相当)に抜擢、G8初の女性財相となり現職に至る。

「女性で初」がティアラのように付いて回る、彼女の経歴は女性のキャリアの進化を物語る。実際、実力で頭角を表す女性たちが本当に増えて来ている。

大統領候補であったヒラリー・クリントン、ドイツのメルケル首相、英国のメイ首相など、国の最高位まで上り詰め、リーダーシップを発揮している女性たちも少なくない。

そのなかで、クリスティーヌ・ラガルドがほかのリーダー達とひと味異なる憧憬の念を持って女性たちから迎えられるのは、仕事だけではなく、ハードワークにも関わらず常に女らしく装うやり方が実に自然体で素敵だからである。

愛用するのは、グレーや黒のスーツであり、男性のダークスーツと同じく、働く女性のユニフォームの王道を決して外れてない。ただし、彼女はそこにたおやかで上品な華やかさ、女らしさのタッチを加えるセンスが素晴らしく、彼女らしいアイコニックなスタイルに昇華させているのだ。

「名品を使いこなす」とはこういうこと

まず、抜群に上手いのがアクセサリーやバッグの選択だ。

ケリーを持ったスカートスーツスタイル

黒のパンツスーツに色鮮やかなグリーンのバーキンを持ち、同色のスカーフを首元で結びワンポイント。ベージュのバーキンはブラウンのスーツに合わせてシックに、黒の膝丈スーツには黒の手袋をはめて、A4の書類をどさっと小脇に抱え、黒のケリーとピンヒール姿という具合だ。どういう場面なのか不明だが、壇上で自分のものと思われるルイヴィトンの使い込んだロックイットをかざしているシーンもある。

どれも、長年使い込んだ愛着が見て取れるバッグばかりで、丁寧に馴染んだ感じに品格が漂う。名品を使いこなすとはまさにこういうことなのか。名品と持ち手の最高のバランス、お手本にしたくなるブランドバッグの持ち方だ。

もうひとつは、彼女の代名詞のように言われているスカーフ使いがある。

赤いスカーフをアクセントにしたスーツスタイル

地味なスーツやジャケットを舞台とすれば、ヒロインはカラフルなスカーフ。シルバーヘアーに合わせたグレーの服の着用が多いが、そこに真紅のストールを垂らすだけで花が開いたような艶やかさが辺りに漂う。エルメスの伝統柄から、エスニックなジャカード、透け感を楽しむカラフルなシフォンなど、着こなしの数だけスカーフがあるように見える。一体どれほどのスカーフコレクターなのか、クローゼットを拝見したいほど充実したバラエティーぶりなのである。

また、鎖骨レングスのネックレスやペンダントとの重ね付けも多い。地味な色を着ていても顔まわりは必ず華やかに演出され、パールやドロップ型のイヤリングもさりげなく添えられていたりする。顔を近づけて話し込むことも多い会議の席で、揺れる耳元が醸し出す女らしさの効果はいかばかりだろうか。また遠目で見た時のハッと視線を釘付けにするアクセントカラー使いも派手な印象はなく絶妙だ。センスのよさが個性に転化している理想的な着こなしである。

華やかなピアスをアクセントに

自分のチャームポイントを熟知しているからこその装い

もうひとつ特記したいのが、政治家には珍しく、優雅なイブニング姿である。見事な銀髪を生かした光沢のあるシルバーの総レース、胸を大きく開けた白のフルレングスも年齢相応の成熟した大人の魅力が漂う。自分のチャームポイントを熟知した洗練の知恵と技がそこここに光る。政治、経済というダークスーツに占有されている職域で、これほどなエレガントな着こなしを見せてくれるトップランナーはこれまでいただろうか?

上品なホワイトでまとめたパーティスタイル

シンプルさにゴージャスさを一滴垂らして無造作に見せる。もともとお洒落な人だと思うが、ひょっとしたらハードな交渉事同様、着こなしまですべてが戦略的に整えられているとしたら、自分の装いがどれほど人々の心象を左右するのか知り抜いて選択しているとすれば、と想像するとそれはそれで興味深い。

働く女性が増え、年齢層も上がっていくなかで、いくつになっても周りを魅了する女性でいられることを体現してくれる頼もしい「希望の輝き」である。

スタイルアイコンとして、『バニティ・フェア』の表紙を飾り『アメリカン ヴォーグ』での特集などにも多くの女性の共感が寄せられているのも、その証だろう。

この記事の執筆者
1987年、国際羊毛事務局婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。2000年より情報用語辞典『イミダス』でファッション分野を執筆。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
PHOTO :
Aflo、Getty Images
EDIT :
渋谷香菜子