「旅」はいつだって、私たちの心に栄養を与えてくれる揺るぎない存在です。

雑誌『Precious』6月号では特集「旅の再開は極上・日本のホテルから」と題して、旅の賢者15人に伺った「次に行く宿」、「いつも帰る宿」を特集しています。社会環境の変化でライフスタイルが大きく変わろうとしている今、滞在することをいちばんの目的に考えたおすすめの一軒を、旅のエキスパートのみなさんに聞きました。いつか行く日のためにオンリストを!

今回は、放送作家・脚本家で「旅のエキスパート」でもある小山薫堂さんおすすめの、広島県尾道市の瀬戸田に開業した「Azumi Setoda(アズミセトダ)」をご紹介します。世界的にも有名なスモールラグジュアリーホテルの先駆けとして憧れを集める「アマン」の創業者エイドリアン・ゼッカ氏が手掛けた、初の旅館として話題沸騰中のお宿となっています。

小山 薫堂さん
放送作家・脚本家
(こやま くんどう)大学在学中に放送作家として活動を開始。『カノッサの屈辱』『料理の鉄人』など、数多の番組を企画・構成。初めて脚本を手掛けた映画『おくりびと』では、第81回「米アカデミー賞」外国語映画賞を受賞。国内外で高い評価を受ける。現在は「京都芸術大学」の副学長を務めるほか、執筆活動や企画プロデュース、企業や官公庁のアドバイザー、「一般社団法人湯道文化振興会」を創設するなど、幅広い分野で活躍。2025年「大阪・関西万博」では、エリアフォーカスプロデューサーも務める。

※特集内の宿の料金は、基本的に税・サービス料込表記、4月16日現在のものです。料金は時期により変動する場合があります。地域によっては、別途、宿泊税が課税されます。

世界的ホテリエ念願の旅館が満を持して、瀬戸内の島に誕生!|Azumi Setoda(アズミセトダ)

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個人の邸宅を思わせる「Azumi Setoda」は、瀬戸田港から耕三寺に続く「しおまち商店街」の入り口近くに位置。建築デザインを監修したのは、京都を拠点に活躍する日本建築の専門家、三浦史朗氏。客室は全22室。檜を中心とした木材と石を床材に多用した、シンプルかつ洗練された和の設えに。

地域に根ざした旅館の新しいあり方を発信!

1980年代後半、プーケットに「アマンプリ」が誕生して以来、スモールラグジュアリーホテルの先駆けとして憧れを集める「アマン」。その創業者のエイドリアン・ゼッカ氏が手掛けた初の旅館が、この春、尾道市の瀬戸田に開業! ゼッカ氏が日本旅館の家庭的なおもてなしに一目おいていたことを知る「アマン」ファンからは、「ついに!」と話題沸騰です。

旅のエキスパートの小山薫堂さんも、今回の旅館の開業を心待ちにしていたひとり。「ゼッカさんがつくる宿は、どれもラグジュアリーだけど嫌味がない。常にその土地の風土や文化に根ざしていて、日本人の侘び寂びに通じる感性があります。彼の視点をもってつくられた旅館なら、これまでとは違うラグジュアリーが体感できるのでは? と楽しみです」

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瀬戸内で最も穏やかな瀬戸田がある生口島は、人口約8,000人が暮らす静かな港町。尾道から今治まで全長約70km続く「瀬戸内しまなみ海道」の散策ルートのひとつで、国内外からサイクリストも数多く訪れる。


「以前は、旅の目的は食だったのですが、最近は食よりも、風呂を優先して旅の計画を立てるようになりました。いい湯にゆっくりと浸かっていると、心の底から癒やされます。

また、あえて観光地ではない土地の魅力を発見する、そんな旅のスタイルも好むようにもなりました。

そして今、私がいちばん行ってみたい宿が瀬戸内の島に開業した『Azumi Setoda』です。世界最高峰のラグジュアリーホテル『アマン』の創業者、エイドリアン・ゼッカさんが旅館を手掛けるとどうなるか…。訪れた際は、併設されている銭湯もゆっくり味わいたいと思います」(小山さん)

ゼッカ氏が長年温めてきた旅館の実現は、志を共にする運営メンバーとの候補地探しから始まりました。

瀬戸田に決めたのは、この地に140年余り引き継がれる旧堀内邸との出合いから…。ここは江戸時代末期から明治にかけて、製塩業や造船業で栄えた港街。その中心的な役割を担っていた豪商・堀内家の邸宅は、かつて大切なゲストを迎え入れる屋敷としても使われていたそうです。

そんな土地のもつ声を感じ取ったゼッカ氏は、同屋敷を再び世界中の人々が訪れる場所として蘇らせたいと決意しました。

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鞠垣に見立てた垣で囲まれた中庭は、神事でもあった蹴鞠の球技場から着想。当時のルールに従い、東西南北に桜、柳、楓、松が配置されている。母屋には、ゆったり腰掛けて庭を眺めることができるスペースも。造り手の意図や感性をじっくり考察してみるのもおもしろい。


本質へのこだわりが生む居心地のよさ…

旧堀内邸の貴重な建築意匠に数寄屋造りの発想を用いて改築された「アズミセトダ」の建物は、外観を含め、柱、梁、石、植物など、従来からあったものを最大限に受け継ぎ、伝統的な旅館の趣と現代的な感性で空間を構成。

梁を生かし吹き抜けにした木造2階建ての母屋は、宿泊者が集うフロントやダイニングに。

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照明を落とした回廊が、母屋と客室をつなぐ。

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ゲストが集うダイニング。

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©Max Houtzager

瀬戸内海でとれた旬の魚介、島名産のレモンや野菜を中心に、家庭料理や宴会料理を彷彿させる食事が楽しめる。旧堀内邸に伝わる年代物の食器もダイニングを盛り上げて。

職人技が光る!贅沢なあずま屋

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庭の一角にひっそりと佇むあずま屋。日本文化の美意識が詰まった空間で、今後は茶会などのさまざまなイベントが催される予定。


一方、増設された客室棟にはそれぞれに設計した坪庭を配し、静寂でプライベート感を重視した空間に仕上げています。

室内に差し込む光も穏やか!

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客室ごとに設計された坪庭は、内風呂からも、雪見障子越しに横になったままでも眺めることができるよう、寝具の高さにもこだわって。


「アズミセトダ」の真向かいには、銭湯付帯の旅籠「ユブネ」も同時オープン。銭湯はビジターも利用でき、共有のラウンジでは、商店街からのデリバリーも計画中です。

自他共に認める風呂好きの小山さんも、この銭湯の存在に注目。「宿はその街に愛されてこそ、ゲストも居心地がいい。地域の人や島を訪れる旅行者にも門を開いた銭湯は、これからの宿のあり方のお手本になると思います」

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銭湯付帯の宿「yubune/ユブネ」の外観。銭湯はビジターも利用可能。

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湯に浸かりながら、瀬戸内の風景が描かれたタイル画に癒やされて。

専用バッグでGo To銭湯!

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客室には、銭湯用のかごバッグと浴用タオルを用意。


家庭的なおもてなしの心と、その土地に思いを馳せる体験こそが未来に求められる豊かさであると考える「アズミセトダ」。

伝統的な旅館を知る私たち日本人にも、旅慣れた海外からのゲストにも、新鮮な滞在になること請け合い! 潮風とレモンの花の優しい香りが島中に広がるこれからの季節、旅の再開に、おすすめです。

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「レモンの島」と呼ばれる瀬戸田はレモンの生産量日本一。橋もレンタルサイクルも、街は黄色でいっぱい!

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ゼッカ氏のホスピタリティ精神を受け継ぐ、女将の窪田 淑さん。「ゲストの皆様が瀬戸田に別邸をもっているかのような、居心地のいい宿にしていきたい」と語る。

問い合わせ先

  • アズミセトダ 
  • TEL:0845-23-7911
  • 1泊1室料金¥81,000〜(税・サービス料込)
  • ※同時にオープンした銭湯付帯の宿「yubune」は、1泊1室料金¥22,000〜(税・サービス料込)
  • 住所/広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269
  • ※新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下では一部情報が変更となる可能性があります。公式HPなどでご確認ください。

PHOTO :
篠原宏明
EDIT&WRITING :
兼信実加子、河西真紀、喜多容子(Precious)