【目次】

【第6回のあらすじ】

桶狭間を戦い抜き、拠点を小牧山城へ移した織田信長(小栗旬さん)でしたが、美濃(現在の岐阜県南部)を攻略するにはいくつものハードルを越えなくてはなりません。

まず藤吉郎(池松壮亮さん)と小一郎(仲野太賀さん)兄弟に命じたのは、敵対していた大名・斎藤道三(麿赤兒さん)に見いだされ、鵜沼城の城主に上り詰めた目の上のたんこぶ的存在の大沢次郎左衛門(松尾諭さん)を取り込むことでした。

自身側に寝返ったとはいえ、次郎左衛門を信用していない信長。というか、最初から殺すつもりでしたね。道三に従って親類縁者を裏切り家督をつかみ取った次郎左衛門を「どこかわしに似ておる。虫唾(むしず)が走る」と言い放ちました。信長は、かつて信頼し合っていたはずの実弟・信勝の謀反にあい、斬り殺した過去をトラウマとして胸の内に抱いており、人を信じることができないのです。

次郎左衛門の従者の荷物に苦無(忍者が用いる武器の一種)を忍ばせ、裏切り者だとでっち上げて始末する――というのが信長の当初のシナリオ。厄介な火種は消すに限るというわけですね。第5回から第6回への回またぎシーンでした。

信長が次郎左衛門を信用できないとする理由を整理してみましょう。

1)人はそうたやすく変わらない。その何よりの証しが小牧山城に来たこと(信長の調略に応じて主君の斎藤龍興を裏切った)

2)藤吉郎を人質に取った(保険をかけるのは信長を信じていない証拠!)

3)そもそも出世のために親類縁者を亡き者にしてきた(血縁者の裏切りは信長にとっていちばんこたえる~)

確かに…という感じではあります。

この回のテーマは「兄弟の絆」。『豊臣兄弟!』は昔からの大河ドラマファン待望の政治と戦闘シーン満載の戦国物語ではありますが、描いていくのは藤吉郎と小一郎兄弟を中心とした人と人との絆です。強い絆や曇りのない信頼関係が、疑心暗鬼に囚われていた信長の心に変化をもたらしたのでしょうか。最初から信長は約束を反故にするつもりだと教えられても、信長の言葉を信じると決めていた藤吉郎の気持ちが兄を思う小一郎の覚悟となり、次郎左衛門も信長の心をも動かしたというわけでした。

そう、藤吉郎を助けるため自ら次郎左衛門に斬られようとする小一郎――仲野太賀さんの涙のタイミングまで完璧だった迫真すぎる演技は、放送6回目にして早くも名シーンにランクイン入り確定でしょう! 「大沢殿の命は兄の命じゃ。この手で兄を殺すことなどできませぬ。わしはどんなことがあろうと兄者を裏切りませぬ。なぜかおわかりか。兄者がわしのことを信じているからじゃ。殿のことを信じておるのです」

(C)NHK
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次郎左衛門が小一郎を斬れないと小刀を自分の首元に持っていった瞬間、筆者は次郎左衛門は自分の首を掻っ切るのだろうと目を覆いましたが、髷(まげ)を切って仏門に入ると示したにとどまりホッとしたものです。そしていちばんしびれたのは、張り詰めた数秒の沈黙のあとの、信長の「あいわかった!」だったのでした。

そういえば、兄弟の母・なか(坂井真紀さん)も藤吉郎は必ず帰ってくると信じていましたね。なかの母親としての穏やかな強さと、長女のとも(宮澤エマさん)と次女のあさひ(倉沢杏菜さん)の軽妙なやり取りも、本作の潤滑油としてとてもいいあんばいです。ふたりの婿(上川周作さんと前原瑞樹さん)もなかなか愛おしいキャラで、今回は大活躍でした。そんな温かい家に無事戻った藤吉郎も、想い人の寧々についにプロポーズ。これで“順番待ち”していた小一郎と直も…と、うまく展開していくのでしょうか。次回予告での直の様子に不安が募ります。

(C)NHK
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【美濃攻略のカギ、犬山城トリビア】

さて。次郎左衛門を放免とした信長は、重臣の柴田勝家(山口馬木也さん)に犬山城を一気に攻め落とせと命じました。美濃(=斎藤氏)攻略には地理的に犬山城を落とすことは必須条件だったことに加え、犬山城を守る親類との確執に決着をつけたかったからでしょうか。ここでは、その犬山城の雑学をご紹介しましょう。

■築城したのは信長の叔父

信長の父(信秀)の弟にあたる織田信康、つまり信長の叔父によって築かれた犬山城。天文6年(1537)年に、「もっと守りに適した場所へ移ろう」と考え、もともとあった木之下城を廃止して現在の犬山城の場所(木曽川沿いの断崖の上)に城を移しました。これが犬山城の始まり。犬山城は、もともと織田一族の城としてスタートしたのです。

■従兄弟との確執

なぜ信長は犬山城を攻め落としたのでしょう。

犬山城を築城した叔父・信康が戦死したあと、城を継いだのは嫡男の信清です。叔父と信長の関係は良好でしたが、従兄弟である信清とは激しく対立することに。信長が尾張を統一する過程で、犬山城を守る信清は強力なライバルとなりました。

  • 敵対の理由は、主に信清の妬みでしょうか。「勝ったら領地を分け与えると約束したのに、信長は期待に応えなかった」とか、「信長は尾張の絶対的なリーダーとして君臨しようとするが、俺だって織田一族の有力者だ。信長の家来ではない!」といった独立自尊のプライドが、ふたりの間に亀裂を生んだのです。上司と部下といった扱いをする信長、あくまでも対等な関係だという信清。身内同士の熾烈なパワーゲームですね。

■秀吉と家康のにらみ合い

信長亡きあとのことですが、犬山城は日本史上最大の天下分け目の前哨戦といわれる、小牧・長久手の戦い(1584年)の舞台として極めて重要な役割を果たします。

当時の犬山城は織田信雄(信長の次男、家康と同盟)の家臣が守っていましたが、秀吉方の軍師的存在だった池田恒興が寝返り工作と奇襲によって奪取。これにより家康側は背後を突かれるかたちとなり、戦略が大きく狂うことに。秀吉は自ら大軍を率いて犬山城に入ってここを本陣としました。

  • 犬山城を拠点とした秀吉軍と、『豊臣兄弟!』第6話の舞台にもなっていた信長の小牧山城を拠点とした家康軍。両者は激しくにらみ合いますが、決定的な衝突は避けて持久戦に突入、のちに和睦します。

■現存する最古の木造天守閣、550円で信長気分に!

  • 秀吉の本陣となった犬山城の天守閣。近年の科学的な年輪調査により、天守の主要部分が1585年から1590年ごろ(天正年間)に建てられたことが判明、現存する日本最古の天守であると認定されました。秀吉はこの天守から、向かいの小牧山城に陣を張る家康の軍勢を睨みつけたと伝えられています。現在の天守最上階からも、南方を眺めると、目の前に小牧山がはっきり。一般観覧可能で、入場料550円で秀吉が眺望した景色を見ることができます。

  • 犬山城
    犬山城

■「国宝五城」と呼ばれて…

全国に城郭は数百現存していますが、なかでも歴史的価値が極めて高いとして国宝に指定されているものを「国宝五城」と呼びます。犬山城同様、いずれも江戸時代以前に建てられた天守がそのまま残っています。

・姫路城(兵庫県):日本最大の規模を誇り、圧倒的な美しさから「白鷺城」とも呼ばれます。

松本城(長野県):現存する五重六階の天守としては日本最古。漆黒の外観から「烏城」とも。

・彦根城(滋賀県):戦国から江戸への過渡期を象徴する複雑な屋根様式が特徴。

・犬山城(愛知県):木曽川の断崖に立ち、現存最古級の望楼型天守をもつ。

・松江城(島根県):千鳥破風という独特な装飾が前後左右に配置され、「千鳥城」の愛称も。

■20年ほど前まで個人が所有

徳川家康の小姓(秘書のような役職)として長年仕えた成瀬正成は、家康の九男・徳川義直(名古屋藩主)を支える付家老(つけがろう)に昇格、元和3(1617)年に犬山城を与えられました。以降、幕末まで成瀬家が犬山城を治めます。

明治になると、政府の廃城令によって全国のお城は取り壊されたり公有化されたりしましたね。犬山城も一度は愛知県の所有になりますが、明治24(1891)年に巨大な濃尾地震が発生。犬山城も天守が半壊するなど大きな被害を受けます。修理に多額の費用がかかるため、愛知県は旧藩主の成瀬家に修繕維持を条件に譲渡。異例の「個人所有の国宝城」となったのです。

平成16(2004)年に「財団法人 犬山白帝文庫」を設立して所有を移すまでの100年以上、成瀬家は個人でこの城を守りました。


次回 『豊臣兄弟!』第7回「決死の築城作戦」あらすじ】

(C)NHK

藤吉郎(池松壮亮さん)は晴れて寧々(浜辺美波さん)と夫婦に。だが祝言の日、直(白石聖さん)が中村に帰ると言い出し、小一郎(仲野太賀さん)は戸惑う。

一方、美濃攻めに乗り出した信長(小栗旬さん)に対し、藤吉郎は要衝・墨俣の攻略を買って出る。小一郎は攻略の秘策を思い付くが、実現には尾張と美濃の国境を仕切る川並衆の協力が必要。ふたりは川並衆の棟梁・蜂須賀正勝(高橋努さん)とよしみのある織田家臣・前野長康(渋谷謙人さん)に仲介を頼む。

※『豊臣兄弟!』第6回「兄弟の絆」のNHK ONE配信期間は2026年2日22日(日)午後8:44までです。

この記事の執筆者
美しいものこそ贅沢。新しい時代のラグジュアリー・ファッションマガジン『Precious』の編集部アカウントです。雑誌制作の過程で見つけた美しいもの、楽しいことをご紹介します。
WRITING :
小竹智子
参考資料:『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 前編』(NHK出版)/『NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック 豊臣兄弟!-豊臣秀長とその時代』(NHK出版)/『大河ドラマ「豊臣兄弟!」完全読本』(産経新聞出版)/『小学館ウイークリーブック 名城をゆく 犬山城』(小学館) :