アール・デコの時代、現在まで続く華咲くタイムピースが誕生
ジャガー・ルクルト(JAEGER-LECOULTRE)の「レベルソ」は、いつも気になるコレクションではないでしょうか。なぜこんなにも…と思う理由のひとつがアール・デコのデザインにあります。本記事では、ジュエリー&時計ジャーナリストの本間恵子さんにひも解いていただきながら、その魅力をたっぷり搭載した名品タイムピース3本をご紹介します。
ケースが180度スライドする仕様の「レベルソ」が誕生したのは約90年前、1931年。それはまだ、ジャガー・ルクルトとして社名が定まる前のこと。「レベルソ」の大成功がブランド名誕生のターニングポイントになったのです。
ご存知のように「レベルソ」は、ポロというスポーツ競技で受ける衝撃からダイヤルを守るために開発された時計です。そのために用いられたフォルムは、滑らかに180度ケースがスライドするための曲線、そして長方形。そのふたつのラインが採用されました。
またケースにはゴドロンという3本の縁模様、「キュビスムのトノー型」と呼ばれるラグへと続くラインが刻まれています。ムーブメントさえケースに合わせて長方形へ仕上げる徹底ぶり。時代はアール・デコ様式のまっただ中です。当時の文化人を含むセレブリティは、「レベルソ」を“アール・デコのオブジェのひとつ”と絶賛し、夢中に。この大ヒットが社名へつながります。
同時にこのデザインのみならず技術、使い勝手、素材、すべてを備えていなければ、後世まで愛される名品にはなりません。
女性用の最初の「レベルソ・ワン」のストラップを細紐でつくり、手首以外にペンダントやバッグに結びつけるユニークな仕様にしたり、裏ダイヤルにエングレービングやエナメル装飾を施したり。また表裏が別の表情を浮かべるダイヤルの「レベルソ・デュエット」など、ジャガー・ルクルトのマニュファクチュールにしかできない、たゆまぬ努力を現在まで続けているから、だれもが憧れをもつ時計へなっているのです。
「アール・デコ期は、直線や放射線を駆使した力強い造形がもてはやされました。時計の針は円を描いて動きますから、形としては、本来はラウンド型が自然なのですが、あえて直線を生かしたレクタンギュラーにしているのが時代を感じさせます。折しも女性たちの社会進出が始まり、コルドネ(細ひも)をストラップにした優美なレベルソを腕に巻き、女性たちは夜ごとのカクテルパーティを楽しみ、自由を謳歌しました。この時計はそんな時代に生まれたのです」(本間さん)
名品のDNAを今に受け継ぐ「レベルソ」タイムピース3選
■1:大ぶりサイズが独特のデザイン美を印象づけるタイムピース
ユニセックスなサイズで「レベルソ」の世界観を力強くアピールするタイムピースです。表のホワイトダイヤルは、ケース形に合わせた長方形に放射線状のサンレイがギョウシェでくっきりと刻まれ、ローズゴールドのアラビア数字と針が浮き立つように。裏のブラックダイヤルには12の数字以外を放射状に描いたインデックスで時刻を表示。ゴドロン装飾部分には、一連のダイヤモンドが表から裏まで続くようにセッティングされています。
やや大ぶりなだけにアール・デコのデザインが際立つ1本。メゾンでは初めてのトープカラーを採用したアリゲーターストラップが、オフィスでの装いにもマッチする落ち着きある手元をつくり出します。
「表と裏とでまったく表情が変わり、まるで2本の時計を持っているかのような気分にさせてくれます。放射状に広がる直線も、アール・デコ期によく見られた意匠です。当然のことではありますが、ダイヤルの数字もアール・デコ風にデザインしているんですよ。でもレトロになりすぎず、今の女性に似合うモダニティをしっかり表現しているところがさすがです」(本間さん)
■2:レトロモダンな幾何学模様をフルにあしらったブレスレットタイプ
ほっそりとしたフェイスと3本のダイヤモンドが連なるゴドロン模様が女性の心を捉えるジュエリーウォッチ。ホワイトのアラビア数字の面を回転させると、ブレスレットと対になる幾何学模様のフェイスが眩いまでに顔を見せます。時計全体がアール・デコ装飾の競演のよう。メゾンの職人の細やかな手作業にうっとりする瞬間です。
リューズまでアール・デコファセットが施され、スキのないデザインですから、華やかな席にはブレスレット感覚で着用して。それだけで手元へのこだわりが充分伝わってきます。
「私自身もブレスレットタイプの『レベルソ』を持っていますが、レクタンギュラー形のケースとブレスレットが自然に一体化していて、時計というよりはしなやかなジュエリーをつけているような感覚で愛用しています。このモデルも手元を華やかに飾ってくれるジュエリーウォッチの名品です」(本間さん)
■3:名建築を連想させるアール・デコの美意識に満ちたデザイン
この時計を手にしたひとはエンパイアステートビルを思い浮かべたのではないでしょうか? 表側は凛とした外観、裏側は内観の放射状に描かれたレリーフのひとつ…まさにアール・デコの申し子のようなタイムピースです。
放射線状に徐々に広がりを見せるダイヤモンドのセッティングにはマニュファクチュールの細やかな仕上げと意気込みを感じます。リューズにもアール・デコファセットを施し、気品ある趣を引き立てて。このモデルにはサテンストラップが採用され、さらにエレガントに。昼夜を問わず、きちんとした装いで出かける際のベストパートナーです。
「このコレクションは1933年に製作された“レベルソ・ワン”の造形を踏襲していますから、華奢な腕にも似合う小ぶりな存在感が魅力ですね。でも離れた場所から見てもすぐジャガー・ルクルトの時計とわかるアイコニックな存在感が備わっています」(本間さん)
以上、ジャガー・ルクルトの「レベルソ」の魅力を、3本の名品とともにご紹介いたしました。
「フランス語のレクト(表)とヴェルソ(裏)という言葉にちなんだネーミングの名作です。今回ご紹介したモデルは、ムーブメントが表と裏用に二つ入っているのではなく、一つの機械で両面の時計の針を動かしているのがポイント。簡単にできることではありません。1833年創業の名門だからこそ、これほど独特の時計が作れるのです。誇りを持って楽しみたいコレクションです」(本間さん)
※掲載した商品の価格は、すべて税込です。
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- WRITING :
- 菅野悦子
- EDIT :
- 谷 花生