時間や場所を選ばずに、新国立劇場で上演された舞台芸術を鑑賞することができる「新国デジタルシアター」。年末年始にはオペラ『セビリアの理髪師』や演劇『消えていくなら朝』が特別配信され、世界中の人たちがその視聴を楽しんだ。次いで1月28日(金)より1か月間限定で無料配信がスタートしたのが、新国立劇場オリジナルの新作オペラ『アルマゲドンの夢』。2020年11月にオペラパレスで初上演されたときには、「舞台芸術が持ちうる今日性を最大限に発揮した舞台」という評価を世界中から受けたことは記憶に新しい。

新時代を切り拓いている作曲家、藤倉大作曲による衝撃の世界初演作

新国立劇場「アルマゲドンの夢」より_1 撮影:寺司正彦
新国立劇場「アルマゲドンの夢」より_1 撮影:寺司正彦

作曲を手掛けたのは、ロンドンを拠点に旺盛な活動を展開している藤倉大。世界中のオーケストラや音楽家たちから新作を依頼されている人気作曲家で、『アルマゲドンの夢』は彼の大規模オペラの初演作として、発表の時点で大きな話題を呼んだ。

藤倉が選んだ題材(原作)は、SFの父とも呼ばれるH.G.ウェルズ(1866~1946)の短編小説「世界最終戦争の夢」(東京創元社刊の同名短編小説集に収録)。忍び寄る全体主義に傾いていく風潮や大量破壊兵器の脅威などがスリリングに描かれた、現代に生きる私たちにも強く訴えかけるストーリー。選んだ理由は、新国立劇場オペラの大野和士芸術監督から「今日的意義をもった題材にしてほしい」というリクエストがあったためだという。

台本を手掛けたのは、藤倉と長年共同作業をしているハリー・ロス。藤倉の意を汲んで原作を巧みに脚色し、ポピュリズムが世界を覆う現代の、身近にある脅威を描き出すことに成功している。

演出は、近年ドイツを中心に欧米で活躍する女性演出家リディア・シュタイアー。指揮は大野和士芸術監督自らが当たっている。

もう一度聴きたい、観たい、と思わせる、あっと言う間の90分

新国立劇場「アルマゲドンの夢」より_2
新国立劇場「アルマゲドンの夢」より_2

上演時間は休憩なしの約90分。国内外の選りすぐりの歌手陣の圧倒的な歌唱。アカペラから精緻なハーモニーまでを聴かせる新国立劇場合唱団の驚くほどの存在感。それらが、美術、衣装、照明、映像と一体となって、主人公である幸福なカップルを襲う今日的な恐怖を描いた舞台が、息をもつかせぬ興奮の連続で展開していく。

無料配信中「新国デジタルシアター」で、世界最前線のオペラと評価された本作品を視聴できるとは、なんと贅沢なことか。繰り返し観ることができるため、気になる場面を繰り返しチェックすることも可能。思う存分堪能したい。2月28日まで。

新国立劇場「アルマゲドンの夢」より_3
新国立劇場「アルマゲドンの夢」より_3

新国立劇場2020/2021シーズンオペラ「新制作 創作委嘱作品・世界初演」

新国立劇場「アルマゲドンの夢」より_4
新国立劇場「アルマゲドンの夢」より_4

藤倉 大作曲『アルマゲドンの夢』
収録日/2020年11月18日(水)(本編約90分)
字幕/日本語・英語
配信期間/2022年1月28日(金)15:00~2月28日(月)14:00

ご視聴はこちらから

新国デジタルシアター

問い合わせ先

新国立劇場オペラサイト

この記事の執筆者
音楽情報誌や新聞の記事・編集を手がけるプロダクションを経てフリーに。アウトドア雑誌、週刊誌、婦人雑誌、ライフスタイル誌などの記者・インタビュアー・ライター、単行本の編集サポートなどにたずさわる。近年ではレストラン取材やエンターテイメントの情報発信の記事なども担当し、ジャンルを問わないマルチなライターを実践する。