オフィシャルなメールや依頼状、格式張った手紙では、「自分側のものはすべてへりくだった表現にする」のが、敬語のルールのひとつです。「当方」は「自分の属している方」や「私ども」を意味する謙譲表現。詳しい意味を理解して、適切に使いこなしましょう。

【目次】

「当方」は正確にはなにを指すのかご存知ですか?
「当方」は正確にはなにを指すのかご存知ですか?

【「当方」は「自分」のこと?正しい意味は?】

■「当方」の正しい「意味」

「当方」は「とうほう」と読みます。
【自分の属している方。自分の方。こちら】の意味で、ビジネスシーンにおいては「自分が所属している部署やグループ、会社」の一人称として、「私たち」という意味合いの謙譲表現として使用します。人の集合体を指しているため、男女の区別はありません。男性も女性も使えます。


【ビジネスシーンでそのまま使える「例文」3選】

■1:「当方にて日程を確認でき次第、ご連絡差し上げます。少々お待ちくださいませ」

取引先から問い合わせを受けたものの、担当者が確定していない事案の回答で、自分たちの会社、もしくは関連部署で担当するという意味で「当方」が使われます。

■2:「当方にて協議のうえ、対応させていただきます」

他社と共同事業を行うなかでの問い合わせに対する回答などの場面でも「当方」が用いられます。自社と他社どちらか、または双方で対応することを伝えられます。

■3:「当駐車場内でのトラブルにつきましては、当方は一切の責任を負いかねますことを予めご了承くださいませ」

クレームの対応など、謙虚な姿勢を示す必要がある際にも使われます。


【「当方=私ども」を意味する「言い換え」表現】

■小職 ■小生 ■当職 ■弊社 ■当社 ■わが社 ■私ども ■手前ども

自分個人を指す一人称としては、「当方」ではなく、「小職(しょうしょく)」または「私」を使用します。ただし、「小職」は【官職についている人が自分をへりくだっていう語】。自分の役職を謙遜して表す言葉のため、管理職などそれなりの役職の人が使うのが適切です。一般的には「小職」よりも「私」が多く使用されます。

また、「小生(しょうせい)」も個人を指す言葉ですが、こちらは男性が自分をへりくだって使う言葉です。通常、自分と同等か、目下の人に対して使用する言葉とされていますので、上司に「小生は体調不良のため、会社を休みます」などと使うと、横柄な態度と受け取られかねません。

「当方」同様、「私たち」といった意味合いの一人称としては、「わが社」がありますが、社外で使用する敬語表現の「当方」に対して、「わが社」は基本的に自社内で使用する言葉です。

「弊社」とは、自分の属する会社を丁寧に言い表す謙譲語です。「当方」同様、社外で使用される言葉になりますが、「自分の属している方」というやや曖昧で広い意味をもつ「当方」に対し、「弊社」は自分の属している会社自体を指す言葉となります。


【「当方」の対義語は?】

言葉の意味として「当方」の対義語に相当するのは、「先方」です。ただし、「当方」が「こちら」を示す謙譲表現であるのに対し、「先方」は単に「相手の人」「相手方」を示す言葉であり、敬語表現ではありません。自社内や身内で会話をしているとき、「先方に確認中です」「先方より連絡がありました」のように、その場にいない第三者を指して使用する表現です。取引先の会社に直接「先方は~」と用いることはありませんので、注意してくださいね。


【「当方」を仕事で使うときの<注意点>】

■個人を指しては使わない

「当方」は、「私たち」という意味合いの謙譲表現で、自分個人を表す敬語表現としては使用できません。ですから、取引先の担当者とのやり取りで、部署もしくは社としての方針などを問われた場合には使用できますが、個人的な依頼であれば、「当方」ではなく「私」を使用します。

■対義語の「先方」は、社外に対しては使わない

前述の通り、「当社」の対義語である「先方」は敬語表現ではなく、身内で社外の人の名前を言う必要がない場合によく使用されます。「当社」の敬語表現は、「貴社」もしくは「御社」です。口頭では「御社」が多く使われます。

■自社内では使わない

「当方」は「自分の属している部署やグループ、会社」の一人称ですから、基本的には社外で使用する敬語表現です。自社内では「当方としては」というような表現は使いません。例えば、社内で利益目標や方針などを検討する際には、「わが社としては」あるいは「当課としては」「うちの部署では」などと言い換えるのが正解です。

■正式なビジネス文書での使用は控える

正式なビジネス文書においては、曖昧な表現となる「当方」は使用しません。「弊社」や「当社」を使用するのが一般的。「当方」は社外に向け、口語やメールで用いる表現です。

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「当方」とは「自分が所属している部署やグループ、会社」を意味する言葉です。「私ども」といった意味合いの謙譲表現になります。社外に向けて使用する言葉であり、正式な文書では「弊社」や「当社」に置き換えて使用することもポイントです。ビジネスシーンで幅広く用いられる言葉ですから、正しい使い方を身に付けておきましょう。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :